出生率は上がっても自治体消滅、危機感から生まれた「まちの人事部」

 こうして合計特殊出生率が2.81になった2014年、再び町に課題が突き付けられる。2040年には半数の自治体が消滅するという日本創世会議の発表があり、義町も「消滅可能性」896自治体に含まれていたのだ。

 「2060年には奈義町の人口は現在の半分になると推計され、“これはたいへんじゃぞ”と」(笠木町長)。今の人口を維持し続けるには、子育て支援、住宅支援だけでは十分ではないということだ。では今後、何をしていけばいいのか。

 奈義町はこのピンチをチャンスととらえ、2016年の「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定時に、次の世代のために思い切った施策や魅力ある施策に取り組むことを決めた。

 まちづくり戦略室の大内善文室長は「1000人の町民と中高生全員へのアンケート、町内の様々なグループや団体へのインタビューを実施。19人の町民がワークショップ形式で素案をつくり、審議会での議論を経て町から議会に提案され、議決されたのが総合戦略だった」と振り返る。

 「策定の過程で、子育て中の女性からは、日中に短時間の仕事をしたいが仕事そのものがないという声が寄せられていた」(大内室長)。働いて賃金を得たいという気持ちも当然あるが、それ以上に仕事をしないと社会との接点が持ちづらいと訴える町民が多かった。孤立は住民の流出につながりやすい。

 そこで誕生したのが「まちの人事部事業」だ。

 まちの人事部事業は、簡単に言えばちょっとした仕事の外注先を求める町内の事業所と、ちょっとした仕事を請け負いたい町民をつなぐ事業だ。町民はあらかじめ「しごとコンビニ」に登録。日々、町内事業所からまちの人事部が受託した仕事情報が、しごとコンビニ登録メンバーへ配信される。受託希望の登録メンバーが必要に応じて作業場所に出向き、作業後、報酬を実施メンバーで分配する。

 さらに就労支援として元ガソリンスタンドを改装した「しごとスタンド」も開設。「町内の事業所とのマッチングや、事業所側の不明点を社会労務士に相談できる仕組みを構築した。月に1回はハローワークの求人探索端末を持参してもらい、総合的な就労支援にもつなげている」(大内室長)。

 しごとコンビニについては、登録者数が増えたこともあり、町内の仕事だけではなく、今後は都市部の企業と組んで、テレワークなどの業務の受託をする計画もあるという。

 町民の収入源の確保にもなるが、効用はなんといっても町民同士の接点の増加だ。ターゲットとしていた若い子育て層はもちろん、リタイア世代からも「友達ができた」「やりがいができた」といった声が寄せられているという。

 なお、まちの人事部事業は町が直接運営するのではなく、地方創生を進めていく中で誕生した一般社団法人ナギカラが運営している。ナギカラは2015年に「まち・ひと・しごと総合戦略」および「まちづくり総合計画」の策定支援に関わった民間シンクタンクが法人を設立し、町が地域再生推進法人に指定したものだ。まちの人事部事業だけではないが、町からナギカラへの委託費は2015年度が 982万9800円、2016年度が2億6933万6640円と年々重要度を増しているのが見て取れる。

ガソリンスタンドを改装して開設した「しごとスタンド」では、事業所と町民の仕事のマッチングや、事業所を対象にした相談会、キャリアアップ相談などが開かれる
ガソリンスタンドを改装して開設した「しごとスタンド」では、事業所と町民の仕事のマッチングや、事業所を対象にした相談会、キャリアアップ相談などが開かれる
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