特色ある教育の確立のため、平田オリザ氏の起用

 このナギカラのように、民間の協力を得ることにためらいがないのが奈義町の大きな特徴の一つでもある。

 2016年4月には劇作家・演出家の平田オリザ氏を「教育・文化のまちづくり監」に任命。人口維持と活力ある元気な経済を目標に掲げた地方創生を実現するためには、「ひとづくり」が何より重要と考えた町が、奈義町の特色ある教育を確立し、自然とアートのまちづくりを推進するべく平田オリザ氏に就任を依頼し、実現したものだ。主には小中学生に対する演劇を中心にしたコミュニケーション教育や、21世紀型職員採用試験でのアクティブラーニングなどに携わっている。

 総務課演習場対策室の花房宏亮主事は、「子育て支援は充実しているが、大学進学のタイミングで人口が流出する。それは止められない」と話す。今後の町の課題は、流出した若い世代がどうしたらUターンするかということ。奈義町が特徴的な教育を行う先進的な町となり、誇れる町だということを感じてもらうことが重要だと考えている。さらには、変わりゆく世の中で今後求められるのは、主体的に自分の役割や能力をその場に合わせて変えていくことであり、そのためにはコミュニケーション能力や判断力を高める必要があるという考えもある。平田オリザ氏はコミュニケーション能力や判断力を高めるには文化資本が重要で、幼少期から本物に触れる機会を持つように常々説いているが、奈義町ではそれを実践しているというわけだ。

 その効果は大きく、子どもたちは演劇を通して能力を高めてきている。また平田オリザ氏がきっかけで、今まで奈義町に縁がなかったような人が、職員採用試験を受験することもあるという。

2016年5月19日に奈義小学校の6年生(2クラス:55人)を対象に、平田オリザ氏の「初授業」が行われた際の様子(画像提供:ナギカラ)
2016年5月19日に奈義小学校の6年生(2クラス:55人)を対象に、平田オリザ氏の「初授業」が行われた際の様子(画像提供:ナギカラ)
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どんな事業も核は町民

 先進的な子育て支援策や移住支援策、地方創生への取り組みなど、民の協力を得ながら公が主導で動いてきたように見える奈義町だが、一方で、町唯一の保健師であるこども・長寿課の立石奈緒子副参事は「核は町民」と明言する。

 「どんなに役場がお金を出しても、一時的なお金だけで人を育てることはできない。子育てする町を選ぶときに、出産祝い金が高いから、予防接種が無料だからといった理由だけでは第2子、第3子を生み育てる気持ちにはなれないのでは」(立石副参事・班長)。

 それより重要なのは、いわゆる子育て支援をしてくれたり相談に乗ってくれたりする先輩ママや、なぎチャイルドホームで交流するママ友との交流ではないか、という。

 「2016年から県の助成を受けて活動する母親同士が当番制で保育をし合う自主保育『たけの子』もその一つ。その中で互いの不安が解消されることで、第2子、第3子への自信を持つようになる」(立石副参事)

 2017年5月7日には、奈義町B&G海洋センター内に、障害のある子どもと保護者を対象にした障害児の居場所「みんなのおうちぽっかぽか」が開所した。活動のベースとなっているのは、子どもの成長を願う親の会「どんぐりの会」。障害がある子ども、発達に心配がある子ども、そんな生きにくさを抱えた子どもたちの保護者が、同じような悩みや苦しみを話し、交流する場所・共に考え、育ち合える場として、立石副参事らの協力で2003年にスタートしたコミュニティだ。「あくまでも当事者たる町民が活動していたからこそ、『みんなのおうちぽっかぽか』につながった」と立石副参事はいう。

ナギフトマネーで町民をよりアクティブに

 公民が刺激し合い、魅力的な町づくりにつなげてきた結果、高い出生率を維持できていると考えられる奈義町。

 今後に向け、さらに意欲的な取り組みが始まっている。

 例えば、町の営業部としての「小商いマーケットプレイス(仮)」だ。国の地方創生拠点整備交付金を活用して現在建設中のこの施設は、単なる物産館ではなく、町の特産物の商品パッケージの相談窓口にも、試験販売の場にもなる可能性がある施設で、観光のインフォメーション、空き家情報にもアクセスできるようにしたいのだと大内氏は話す。

 「バスの待合いや、地域の中で回る福祉バス(デマンド系)の発着所にもしたいと考えているが、例えば高校生20人が交通の拠点として毎日ここを利用するようになれば、彼らの交流の場にもなる。カフェやパン屋を入れることで、バスを待つ間に買い物も可能になる」(まちづくり戦略室の森安栄次主任)。高校生までの子どもたちの移動手段が限られる中、送り迎えの手間が省けるようになる交通の拠点ができることは子育て世代には大きいだろう。

「小商いマーケットプレイス(仮)」のパース(画像提供:ナギカラ)
「小商いマーケットプレイス(仮)」のパース(画像提供:ナギカラ)
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 さらに、独自の電子マネー、ポイント(行政買い物)、地域振興マネーである「ナギフトポイント」を4月にリリースする予定だ。町内の店舗や会社と奈義町役場による事業だ。町民の健康づくりやボランティア、子育て、教育などの活動や、町内の店や会社での買い物やサービスで、ポイントが貯まる仕組みになるという。奈義町によれば「地方自治体としては初めての取り組みでは」という。

 「活動をアクティブにするのが目的。チャージ方式で、これまで商店ごとだった買い物時のポイントシステムを統一するだけでなく、地域振興券も電子化し、ナギフトマネーというカード1枚あれば、町の様々な暮らしに役立つ仕組みになっている。町内の店舗や会社など様々な場所でポイントを使えるので、町の中でポイントがぐるぐる回り、地域経済の活性化にもつながる」(森安主任)。町民全員に配られるため、ラジオ体操に参加すればポイントがもらえるようにするという案も出ているという。

奈義町の「ナギフトマネー」イメージ(画像提供:ナギカラ)
奈義町の「ナギフトマネー」イメージ(画像提供:ナギカラ)
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 そのほか、新しい住まいのエリアプロジェクトや空き家活用プロジェクト、子育て教育プロジェクト(中学校の立て替え、こども園の設立など)といった様々なプロジェクトを掲げる奈義町。国勢調査では2010年に6085人だった人口が2015年には5906人と179人の減少で、国立人口問題研究所の推計では2015年には人口は5689人、つまり396人減少の推計だったところ、「減少数は217人と半数以下に抑えることができている」と花房主事。

 「人口維持も重要だがさらに重要なのは年齢構成と住民の生活満足度」(大内室長)という今後の課題にも、町民を核とした奈義町流の解決法で果敢に取り組むに違いない。