事業だけでなく「まちへの思い」も学ぶ

 経営未来塾は、経済同友会の支援終了後、市が約1000万円の予算を付け、「気仙沼経営人材育成塾」に改称して継続している。2018年までに100人近くの卒塾生を送り出した。運送会社がバイオマス発電を手掛けたり、漁業、水産加工、卸を営む3社が共同で水揚げから加工、出荷まで一気通貫で手掛けられる新会社を設立し、多様な魚種を取り扱うECサイトを立ち上げたりと、未来塾が気仙沼の新事業の推進力になっているのだ。

 「卒塾生にアンケートをとると、卒塾後のビジネスは好調なところが多い。自分の会社もよくして、まちにも返していきたいというのが、かれらの共通の思い」と小野寺氏。

 まち・ひと・しごと総合戦略を議論する分科会やDMO事業などにも、経営人材育成塾、ぬま大学(後述)などに関わる人たちが相当加わっているという。自分の仕事や会社だけでなく、まち全体としてどうするか、という意識が醸成されているようだ。

様々な対話や学びの機会をつくる「気仙沼まち大学構想」

「経営人材育成塾では、稼ぐだけでなく、稼いで何がしたいかも問われます。そのとき地域や未来の気仙沼の子どもたちのために何をするかなど、意識が醸成されていく」と小野寺氏は見ている(写真:日経BP総研)
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 「経営人材の育成として経営未来塾をやっていくうちに、まちづくりのために人材育成が有効で重要だということが分かってきた」と気仙沼市の小野寺氏。2015年には、内閣府や経済同友会が後援する社会イノベーター公志園の結晶(決勝)大会において特別枠で参加の菅原茂・気仙沼市長が、「市民が主役のまちづくりとその担い手を育てる継続的な仕組みづくりを通じて、地方創生を進める」とプレゼンテーションを行い、翌年3月、気仙沼市まち・ひと・しごと創生総合戦略の改訂版で打ち出した。

 経営未来塾に続いて市が始めたのが、地域の若者を対象に、まちづくりの担い手を育成する支援事業。気仙沼のリーダーたちの話から地域を学ぶセミナー形式の「ぬま塾」や、6カ月のセミナー、ワークショップを経て、「こういうまちにしたい」という地域活性プランを作成し、終了時にマイプランとして発表する実践型の「ぬま大学」がある。これらの取り組みは、東日本大震災後に気仙沼に移住したIターン者が中心に進めている。

ぬま塾は、気仙沼で活躍されている気仙沼市出身の経営者、活動家の先輩たちをゲストに招き、これまでの人生、仕事について語ってもらう(写真提供:気仙沼市)
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「気仙沼で何かやってみたい」。ぬま大学は、そんな想いを持つ若者が、約半年間、6回の講義を通して、自らが気仙沼で実行するプランを作り上げていくプログラム(写真提供:気仙沼市)
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 そのほか、ぬま大学の高校生版として、気仙沼の課題を見つけ、その解決策をマイプロジェクトとして発表する「高校生マイプロジェクトアワード」をNPOなどの団体と実行委員会を組織して実施。さらに「何かしたい、始めたい、仲間を作りたい」という10代から40代の女性を対象にした「アクティブ・ウーマンズ・カレッジ」事業、自治会の取り組みなど、地域における課題を解決し活躍する人を育てる「アクティブコミュニティ塾」事業なども実施している。

 市では、総合戦略の改訂版のなかで、様々な学びの場を作って地域リーダーや産業を育成し、住民や行政、産業界などが世代や立場を越え、対話しながら、協働、共創を行うまちづくりを「気仙沼まち大学構想」と呼び、そこから挑戦、イノベーションが生まれると期待している。

 経営人材育成塾やぬま大学などの学びの場のほか、内湾地区の南町に建設した「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」内には、まち大学構想の対話・共創の場となる拠点として交流スペース、ワークスペースなども設けた。施設内には、1年間無料で貸し出すチャレンジショップ(店舗)も用意し、新しい事業者が挑戦を始める。

 ちょいのぞき気仙沼や市内の水産関連事業者が協働で商品開発や研究を進める「気仙沼水産資源活用研究会」など、まち大学構想の理念の下で新たなプロジェクトが生まれ始めている。

 「生かされた者は未来を見つめて生きていくことが大事。気仙沼では、すでに平時の生活に戻り、未来のまちづくりをどうするかを真剣に考えている。『なんか気仙沼って面白そうだよねって』。仲間に入りたいと思うような雰囲気づくりを気仙沼は目指している」(小野寺氏)。復興からまちの創造へ。気仙沼のチャレンジは続く。