オリーブのモノ消費からコト消費へ
オリーブを育て、加工し、そして観光の柱にする——。
松本町長は、自ら手がけた地方創生ビジョンの理念に沿って、「人が集い 元気なまち」を施政方針に挙げている。映画「二十四の瞳」(1954年初映画化)の舞台として、長く観光客を集めたが、いまはかつてのヒット映画を知らない世代も増え、瀬戸芸などでやってきた観光客をリピーター客として取り込みたい考えだ。
小豆島観光の起点となるのが、松本町長が理事長も兼務する「道の駅 小豆島オリーブ公園」だ。実写版「魔女の宅急便」の舞台となったことで、2000本のオリーブ畑に囲まれた瀬戸内海を見下ろす丘では、貸し出される魔法のほうきにまたがってSNS用に撮影する観光客が大勢訪れる。
園内のオリーブ記念館では、食用オイルや菓子、化粧品などのオリーブ商品をお土産として買えるほか、オリーブオイルを使ったスイーツや料理が提供される。他にもオリーブの歴史を学べる展示のほか、公園内のオリーブの木から幸せを呼ぶハート形のオリーブの葉っぱを探してしおりやお守りを作ったり、インスタ(写真投稿によるソーシャル・ネットワーク・サービス「Instagram(インスタグラム)」)掲載にぴったりの幸せを呼ぶオリーブ色のポストを設置したりと、オリーブに関連して様々な体験ができるように趣向を凝らす。
隣接する民間の小豆島オリーブ園でも、オリーブ製品の物販だけでなく、園内でハート形のオリーブの葉を探索できたり、体験スペース「ラボレア」ではオリーブオイルのブレンドが楽しめたりと、コト消費に力を入れる。井上誠耕園でも、2017年に「らしく園本館」でブレンドオイルをテイスティングしたり、マイボトルを作るサービスを始めている。らしく園2階のレストランでは、オリーブを飼料にした「オリーブ牛」「オリーブ緑果豚」などを使った料理が楽しめるメニュー開発も、随時行っている。
東洋オリーブでは、事前申し込みで農園・工場見学を受け付けている。本社裏の農園では、廃棄していたオリーブの枝を粉砕・発酵させて堆肥にして畑にまく循環型農法も取り入れ、農薬や化成肥料を使わない完全無農薬の畑も展開する。工場内には2018年に導入した新型の採油機が並ぶ。実を水洗いして、粉砕、練り、そして遠心分離でオイル、搾りかす、果汁に選別される工程を見ることができる。最後は併設のショップで各種オリーブ製品を購入できる。
「オイルのほか、果肉や種などの搾りかすは乾燥させてオリーブ牛の飼料などに利用。残り70%を占める果汁の活用も考えている」と同社広報で工場見学を担当する佐々木氏。オリーブにまつわる様々な話が聞ける。
オリーブのほか、石のまち、醤の郷などで体験型観光を開拓する
今年5月、小豆島町が丸亀市、土庄町、岡山県笠岡市ともに申請していた「知ってる!?悠久の時が流れる石の島~海を越え、日本の礎を築いた せとうち備讃諸島~」が日本遺産に認定された。良質な花崗岩を産し、高い石切り技術や巨石を運ぶ水運技術などが磨かれたエリア。島の石切場は壮観な景観を形成し、迷路のような集落や石にまつわる信仰や文化、芸能を継承する。そんな歴史物語が評価された。
「瀬戸芸があり、オリーブ農園各社も体験型のサービスに力を入れ始めている。それ以外にも日本遺産に認定された石切り場や木桶の数で全国の半数を占める醤の郷などもあるガイドを養成して、知識が得られる体験型の観光地を目指す」と松本町長は話す。
石のほか、醤油やそうめんが400年、オリーブが110年、そして現代アートが10年。歴史ある豊富な地域資源を創意と工夫で体験型の観光商品を生み出す小豆島町。歴史だけでなく、その手法にも学ぶべきものがありそうだ。