JR上野駅から特急電車に乗って約2時間で、群馬県の北西部に位置する中之条町に到着する。温泉で有名な草津町に隣接し、同町にも四万や沢渡といった古くから知られる温泉がわき出る。森林が町の面積の8割以上を占め、農林業と観光が産業の柱となっている。

 同町では7月1日から、家庭や法人など低圧の需要家を対象にした電力の小売りの受け付けがスタートし、9月にも供給を開始する。小売電気事業者は中之条パワーだ。同社は、中之条町が60%、新電力のV-Powerが40%出資し設立した一般財団法人・中之条電力の100%子会社の株式会社である。昨年12月から町役場など高圧の需要家である公共施設30カ所に電力を販売している。

 中之条パワー代表取締役の山本政雄氏は「今年度中に1000世帯の獲得が目標」と話す。同町の世帯数は6776世帯(2016年7月1日時点)なので、世帯カバー率は約15%という強気な目標だ。

 自治体が中心となり、エネルギーの地産地消を掲げる電力会社は「地域新電力」と呼ばれ、2013年10月に発足した中之条電力は日本初だ。低圧の需要家を対象にした小売りでは、4月に開始した福岡県みやま市が出資するみやまスマートエネルギーに先行を許したものの、いよいよ家庭向けに参入した。

「再生可能エネルギーのまち中之条」を宣言した中之条町役場
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「再生可能エネルギーのまち中之条」を宣言した中之条町役場
(出所:日経BP)
「エネルギーの地産地消」を強調する中之条パワーのウェブサイト
「エネルギーの地産地消」を強調する中之条パワーのウェブサイト
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3カ所のメガソーラーから電力を調達

 料金プランは、電力大手の規制料金である家庭向けの従量電灯B、Cと同じで、料金単価も東京電力エナジーパートナーと同一である。ただし、同町在住者は電気料金が1%割引きになる。販売方法は同社の窓口や電話、メールで契約意思を確認する予定だが、ネットでも受け付けている。

中之条パワーの料金プラン
中之条パワーの料金プラン
(同社ウェブサイトより)
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 中之条パワーは、町内に3カ所ある総出力5MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)と日本卸電力取引所から電力を調達する。このうちメガソーラーは、町が事業主体に立っている「沢渡温泉第1太陽光発電所」(出力2MW)と「沢渡温泉第2太陽光発電所」(同2MW)、そして電子部品商社のバイテックホールディングスが事業主体の「バイテック中之条太陽光発電所」(同1MW)である。沢渡温泉第1と第2太陽光発電所は中之条町がリース方式で整備し、保守・管理をバイテックに委託している。バイテック中之条太陽光発電所はバイテックが町有地を借りて運営している。

中之条町が事業主体で運営するメガソーラー「沢渡温泉第2太陽光発電所」
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中之条町が事業主体で運営するメガソーラー「沢渡温泉第2太陽光発電所」
(出所:日経BP)

 3カ所のメガソーラーの年間総発電量は約600万kWで、昨年度の公共施設への供給実績は約350万kW。供給実績は前年に比べ1割ほど減少したが、これは、「小中学校で太陽光発電の自家消費や、照明のLED化など省エネが進んだためだ」(山本氏)。

 太陽光発電の余剰分はV-Powerに売電する。中之条パワーは電力の調達や需給管理もV-Powerに委託しており、V-Powerを代表者とするバランシンググループの一員である。現時点の電源構成は約50%が太陽光発電で、残りが卸電力市場からの調達だ。家庭向けに供給を始めると太陽光発電の比率が25%程度になるとみている。

2017年には小水力発電所も電源に

 これまでは公共施設を対象にしてきたため、「課題は営業力が欠けていること」(山本氏)だ。そもそも、4月から始まった電力小売りの自由化を理解している町民は多くなく、中之条パワーから電力を買えることを知っている町民は少ない。一方で、「テレビ番組に取り上げられて知名度が上がり、『小売りが始まったら最初の顧客になる』と言っている町民もいる」(同)と、9月の売電開始に向け少しずつ手ごたえを感じ始めているという。

 中之条パワーが新たな電源として期待しているのは、同町が「花の駅 美野原」東側の丘陵で建設を進め、2017年の稼働を予定している「中之条町美野原小水力発電所」だ。四万川から取水する美野原用水の途中に取水口と水槽を設け、導水管を経て水車発電機1台で発電し、再び美野原用水に放水する流れ込み式発電所である。約65mの落差を活用し、最大出力は135kWになる。昨年、長さ350mの導水管の工事が終了し、今年5月には発電所の建設工事業者が公募で決定した。

中之条町のエネルギー地産地消の仕組み
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中之条町のエネルギー地産地消の仕組み
(出所:中之条電力)

 一方、小水力と並んで開発に取り組んできたバイオマス発電は滞っているのが現状だ。同町は2013年に、未利用木材をチップに加工して発電・熱利用する木質バイオマスの事業化に向けて木質バイオマス事業化検討協議会を発足させた。バイオマス発電の専門家や地域の森林組合、林業・製材関係者などを交えて、出力2MW規模の木質バイオマス発電所の建設を目指した。

 2014年度には、地域の資源量にマッチした出力800kWのコージェネレーション(熱電併給)システムを想定し、熱の利用や配給方法、対象施設などを検討した。ただ、最適な対象施設が見当たらず、導管による熱供給も考えたものの、現在は事業化に向けた動きが止まっているという。

 中之条町は2013年6月に、議会で「再生可能エネルギーのまち中之条」を宣言し、エネルギーの地産地消を進めてきた。そのため、町が主体となってメガソーラーを事業化し、電力小売りにも乗り出した。人口減少が続く中、こうした取り組みで同町にとどまる資金を生かして地域活性化つながる再エネ事業を開発していけるかが問われる。

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