民間の力を利用した、公園など都市のオープンスペースのサステナブルな空間利用について考えていくシリーズ「公園が変わる! 街が変わる!」。第8回は、公園再生の成功事例として日本でも有名な米国ニューヨーク市のブライアント・パークについて、ランドスケープ経営研究会の植田直樹氏が解説します。2017年に現地を訪ね、担当者にヒアリングした内容を「公園活性化に大切な10の要素」としてまとめています。

 ブライアント・パークは、ニューヨークの中心部にある面積3.9haの市立公園です。ニューヨーク市立図書館が公園内にあるため、それを除いた公園部分は2.4haになります。1970年代には一般の人が近寄りがたい荒廃した公園となってしまっていましたが、この状況を改善するため1980年にBID(Business Improvement District)組織であるブライアント・パーク・リストレーション・コーポレーション(BPRC)がニューヨーク市と周辺のビルオーナーによって設立されました。そして公園の再生に取り組み、1992年に公園を改修した結果、今では年間1200万人が訪れる公園として生まれ変わりました。BPRCは2006年にブライアント・パーク・コーポレーション(BPC)と改称し現在に至っています。

ブライアント・パークの平日の昼休み(写真:植田直樹)
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美しいプラタナス並木の緑陰の下の賑わい(写真:植田直樹)
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公園配置図。左が図書館。中央の芝生広場は、冬季にアイススケートリンクになる(写真:植田直樹)
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BID賦課金は全収入の13%にとどまる

 この公園の運営の特徴は、BIDとしての活動が中心にあることです。BIDとは「民間が行うエリアマネジメント活動の資金を自治体が再配分し、公共空間の管理も一体的に任せて街づくりを推進する制度のこと」(関連記事「PPPまちづくり用語集『BID』」)をいいます。

 The New York City BID Associationのウェブサイトには2019年1月末時点で、74のBIDが掲載されており、BPCもその1つです。ブライアント・パークの場合、BIDの参加者は公園に接する街区の不動産オーナーとなります。街区に隣接しないオーナーは参加できません。BID参加者の街区の固定資産には、2~3セント/スクエアフィートの賦課税が上乗せされ、それがニューヨーク市を通じてBPCに支払われます。これをBID税賦課金と呼びますが、2016年にはおよそ160万ドル(約1.8億円)になります。

 ただしBPCの収入のうちBID賦課金は今や全収入の13%に過ぎず、外部団体によるイベントの使用料収入、公園内キオスクのテナント収入、企業のスポンサーシップなどを含めて総額およそ1200万ドル(約13億円)の収入(2016年)により活動しています。米国のBIDの中でも自立性の高い運営がなされている組織の1つです。近年の収入の半分程度を占めているのがスポンサーシップ収入です。公園に面する企業などがBPCの企画するイベントや公園内のWi-Fi、トイレなどに資金提供をする見返りとして、公園内に企業ロゴの掲出を可能にするというものです。

 1980年代までは座るところもなく、噴水は止まり、犯罪率も高い場所であったブライアント・パークですが、BPCが女性の利用率を上げることを目標の1つとして様々な活動に取り組んだ結果、今や利用者の55%を女性が占める状況となりました。周辺の不動産価値も向上し、今ではBID街区の住居表示を、「1−Bryant Park」と公園の名前を入れたものに変えるようにまでなっています。それでは、以下にBPCにヒアリングした結果を「公園の活性化に大切な10の要素」としてご紹介します。



公園の活性化に大切な10の要素

(1)Sanitation(清潔):30人の清掃担当者を直接雇用

 BPCは潤沢な活動資金のうちの15%程度を、公園を美しく維持することに支出しています。ニューヨーク市の公園管理予算であればこの公園に2人の清掃作業員を従事させるのが限界であるのに対し、BPCは30人の清掃作業従事者を、再委託するのではなく直接に雇用契約をしているそうです。フルタイム雇用ではないにせよBPCの直接契約というのは、管理意図の伝達や従事者のモチベーション向上にとって重要なポイントになりそうです。作業においても、「枯葉はゴミとは考えずに、季節感を表現する要素の一つととらえ、すぐに除却作業をすることはしない」といった、景観に配慮しながらもコスト抑制につなげる独自の工夫をしているといいます。

清掃作業の様子(写真:植田直樹)
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メンテナンススタッフの作業スペース(写真:植田直樹)
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(2)Security(安全):治安悪化の芽を摘む

 公園の開園は23時までですが、外周にチェーンを回すだけなので、週7日24時間、常に2人の警備体制を確保しています。この警備従事者も再委託ではなくBPCの直接雇用です。彼らは拳銃を持つわけではありません。座る場所の過大占用や、公園内での喫煙、浮浪者によるトイレの占拠などを最初の段階で制止することが主な業務です。それにより、本来の目的である公園の治安確保につながっています。

(3)Horticulture(園芸):他の公園の緑の管理も

 花や芝生の手入れなどの園芸従事者も、再委託ではなくBPCが5人を直接雇用しています。さらにはこの人的資源を活用して、BPCはブライアント・パーク以外のエリア(34丁目地区)での公園の緑の管理活動まで実施しています。

プランターの花も美しく手入れされている(写真:植田直樹)
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(4)Lighting(照明):夜でも新聞が読める公園

 夜間でも新聞が読める明るさの確保を照明の目標としています。また、公園が閉園した23時以降でも、明るさを確保していることが安全性につながっています。ユニークなのは、隣接するビルの頂部の投光器が、公園内を明るくしていることでした。実現の経緯は未確認ですが、周辺の不動産オーナーの公園への関わり方にも多様性が感じられます。

夜でも明るい公園内の様子(写真:植田直樹)
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高層ビルの投光器が公園を照らす(写真:植田直樹)
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(5)Movable Chairs(可動椅子):“座れる場所”をつくる

 公園の中に座れる場所があることが大切、というのがBPCのコンセプトです。女性でも簡単に動かせることを前提とした重さ10ポンド(5kg弱)の椅子を、夏季には約4000脚、冬季には2000脚を提供しているとのことです。夏季は、4000脚すべてを使用すると6m2当たり1脚程度の椅子が公園に置かれている計算です。これらの椅子は夜に収納することなく、常時提供できる状態で公園内に置かれています。これにより、倉庫に収納する手間やコストの抑制と、利用者の利便性を両立させています。(2)で述べたような警備体制があって成立している仕組みと言えます。なお、冬季には芝生広場をスケートリンクとすることもあり、使わない約2000脚の椅子は、ニュージャージーに確保しているストックヤードに保管しているとのこと。園外にストック施設管理の場所を設けることができるという点もBIDの活動の成果として重要だと思います。

公園内の各所に椅子が置かれている(写真:植田直樹)
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寄贈者の名前プレートが設置されている椅子もある(写真:植田直樹)
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椅子の移動保管用器具(写真:植田直樹)
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(6)Food(食事):滞留時間を延ばす

 BPCは、来園者の公園滞在時間を長くするためには、食の提供が不可欠と考えています。そのため5つのキオスクをBPCが建設して公園内に配置しています。ただしキオスクの所有権は、ニューヨーク市に移管されています。そしてこのキオスクのテナント料はBPCの収入源となります。なお、BPCはニューヨーク市に公園使用料に相当する支出はしていない、という点は特筆すべきでしょう。一番大きなレストランは1992年に建設されたもので結婚式や企業イベントなどにも使用されています。

公園内のキオスクのひとつ(写真:植田直樹)
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(7)Public Bathroom(トイレ):一流ホテルレベルの清潔さ

 トイレの清潔さは定評があり、一流ホテルやレストランのレベルを維持しています。日本のTOTOによる寄付とスポンサー支援があるとのことでした。前述の通り、浮浪者が占拠しても、清掃作業員や警備員が対応します。なお、通常のイベントでは園内のトイレと周辺施設のトイレで賄っているとのことで、基本的に仮設トイレは設置しないとのことでした。

トイレのエントランスが美しい(写真:植田直樹)
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(8)Amenities(アメニティ施設):ボードゲームから携帯充電施設まで

 公園内には、朗読会、お絵かき、ボードゲーム、ピンポン、メリーゴーランドなどのための空間が、様々に用意されています。利用料がかかるのは施設維持が特別なメリーゴーランドのみで、あとは無料で利用できます。スポンサーの支援により、公園内の活動が幅広い利用者に対して行われるようになっています。なお、公園の物理的な構成もそうした施設に対応しているといえます。中央の芝生の広場を取り囲む四周のプラタナス並木がこれらの様々な活動空間を包み込んでいます。公園内のWi-Fi設備、40基の屋外コンセント、携帯充電施設なども装備されているのも忘れてはいけません。

公園内のボードゲーム(写真:植田直樹)
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スケッチ道具なども使うことができるスペースもある(写真:植田直樹)
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公園内の屋外コンセント(写真:植田直樹)
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フリーWi-Fiのスポンサーを示すテーブル(写真:植田直樹)
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(9)Program & Events(イベント):「着ぐるみ不可」でブランド管理

 公園の中では数多くのイベントが行われていますが、それら全てをBPCが自主企画、運営しています。スポンサーの支援も得られるため、通常はイベントの参加費は無料として企画。外部団体によるイベントの場合は使用料収入を得ることができるとのことです。なお特徴的だったのは、ブライアント・パークでは着ぐるみイベントなどは行わないことです。公園のブランディングにとって不適切であると判断しているそうです。そうしたブランドのコントロールを行いながら、年間1000件のイベントを実施しています。イベント開催時間は22時まで。騒音などの問題で周囲とトラブルになるようなことはないそうです。

 一番大きなイベントは冬のスケートリンクで、バンク・オブ・アメリカがスポンサー支援しています。芝生を一旦剥がしてリンクを設置するなど大掛かりな準備を行って実現しているそうです。 また同じく冬季には、120のテナントが11月から3月までショップを展開するイベントもあります。ショップの仮設建物はオリジナルに製作したもので、イベント終了時には解体してやはりニュージャージーのストックヤードに保管しています。

 日常のイベントとしては、ジャグリング、ピアノ演奏、スクエアダンス、ヨガ、ファッションショー、フィルムフェスなど。ヨガは1500人の参加者があるといいます。イベントの告知は、インターネット、公園内で配布するブローシャー、BID企業による広報、NY市内のフリー誌によるとのことでした。

公園アクティビティ告知のサイン(写真:植田直樹)
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(10)Design(デザイン):ゴミ箱も美しく

 キオスク、ゴミ箱、パラソルなどの施設や、サイン、メディアを含めた公園に関する全体を統括したデザインが重要とBPCは考えており、8人のデザイナーを直接に雇用しています。3人はグラフィックデザイナー。イベントの告知メディアのデザイン、公園内における企業ロゴ掲出方法のコントロールも大変重要なポイントと考えています。最近はフェイスブックやインスタグラムなどの活用も積極的に推進しているとのことです。

オリジナルなデザインのゴミ箱が公園の外周道路にも展開(写真:植田直樹)
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外周道路の標識にもブライアント・パークのオリジナルデザインが採用されている(写真:植田直樹)
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まとめ

 以上、BPCに見るBIDの仕組みと「公園の活性化に大切な10の要素」をご紹介しました。公園の活性化のための費用がニューヨーク市の固定資産税に上乗せされてBPCに還元されるという資金循環は日本のPark-PFIとは異なる様相になっていますが、スポンサーシップやテナント収入、イベント使用料といった収入の多様性は参考になります。また、公園活性化の要素それぞれが非常に参考になるのと同時に、地域が公園に期待するものと、公園が地域に与える影響、その相互関係の幅広さを感じます。


ランドスケープ経営研究会
Landscape and Business Development Association, Japan
2017年10月に一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会が設置した研究会。略称LBA。都市公園法等の改正を受け、Park-PFI等「ランドスケープ経営」に関心のある企業、団体、個人を募り、公園から始まるまちづくりのための公民連携方策の技術・情報交流、研究・提言を通じ、新たな時代の緑とオープンスペースにおけるビジネスモデルを構築することをミッションとする。収益施設のビジネスを得意とする民間事業者と、公園など造園/ランドスケープに関わる業界が集結することによって、多様な主体の協働による新たなまちづくりへの取り組みを推進。公式サイトURLはhttp://www.lba-j.org/

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/032300072/020600009/