1.住環境を一新する「コミュニティベネフィット」

(1) コミュニティベネフィットという考え方

 工業技術を背景とした企業によって主導される住まいづくりが主流になっている中で、私はその方向とは全く逆に、緑を暮らしの中心に据えた多くのプロジェクトを手掛けてきました。それらのプロジェクトは、高性能かつ高機能な技術によって装置化された手間のかからない暮らしの中で、手間がかかる緑は嫌われるという現代の風潮とは真逆なもので、都会の中に森に囲まれた住環境を生み出し、その緑に対して居住者が能動的に関わるという生活スタイルを生み出しています。

 こうした暮らしはどうすれば実現できるのか。そこにはカギとなる考え方があります。それは、私が「コミュニティベネフィット」と名付けている考え方です。

 私は、樹齢100年から200年にもなる屋敷林を活かしたいくつものプロジェクトを手掛けてきました。その代表作として、世田谷区で2000年に完成した「経堂の杜」、同じく世田谷区で2003年に完成した「欅ハウス」、そして大田区で2006年に完成した「風の杜」などがあります。それらのプロジェクトを例として、緑を暮らしの主役として機能させることを可能にする「コミュニティベネフィット」の考え方について解説したいと思います。

経堂の杜(2000年)。「まちに森をつくって住もう」という呼びかけに12家族が集まり実現した環境共生型コーポラティブ住宅(写真:甲斐 徹郎)
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経堂の杜の屋上(写真:甲斐 徹郎)
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欅ハウス(2003年)。樹齢250年の欅を囲んで15世帯の家族が暮らす(写真提供:HAN環境建築設計事務所、撮影:吉田 誠)
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欅ハウスの外観(写真提供:HAN環境建築設計事務所、撮影:吉田 誠)
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 私が手掛けたそれぞれのプロジェクトは、江戸時代や明治時代から引き継がれてきた土地の所有者の相続がきっかけとなって始まっています。

 それぞれの土地は、地価の高い優良な住宅地に位置し、かつ高さ制限や容積率の厳しい用途地域にあるため、一般的な不動産事業者にその活用を依頼すると、一区画15坪前後に細分化され、樹齢100年を超える高木となった屋敷林を残す余地はなくなってしまいます。また、前述したように工業主導による高機能な建物が密集し、そうして無機質化した狭小住宅が立ち並ぶ街並みに変容することになります。

 そうした現代都市の不動産事情に対して、私が企画した計画は、コミュニティを活かして住環境づくりに挑もうというものでした。一般的に事業の中でコミュニティを活かすというと、「いかに住人同士を仲良くさせるか」というような人間関係づくりがテーマになると思いますが、私が実践したコミュニティの捉え方はそれとはまったく異なります。コミュニティづくりを目的とするのではなく、コミュニティを手段として事業に活かすというのが私の描いた構想でした。

 そうしたコンセプトを私は「コミュニティベネフィット」と名付けました。「コミュニティベネフィット」を定義すると、「コミュニティを手段とすることで個人単位では実現不可能な大きな価値を実現させる」ことを意味します。コミュニティを目的にしないで、コミュニティがつくりだすベネフィットを目的にするという考え方から、この「コミュニティベネフィット」という表現を使っているわけです。

「コミュニティベネフィット」の考え方。コミュニティを手段とすることで、個人単位では実現不可能な贅沢な価値を創造させる(資料:チームネット)
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 個人の生活を個々に分断してしまうと前述したように暮らしの場は細分化されてしまい、巨木となった屋敷林を残す余地はなくなりますが、この「コミュニティベネフィット」という枠組みを構想すれば、個人単位では到底実現できない大きな価値を得ることができます。