このコンセプトに沿って、樹齢100年を超える屋敷林を共通の価値として暮らしの場をつくることを目的にし、「森をつくって暮らそう」と呼び掛けて入居希望者を集め、コミュニティ単位で豊かな共用スペースをデザインし、その豊かな共用部に各世帯の住まいがつながるように計画をしたのです。

 下の図が、そうして実践された敷地計画です。すべての住まいとつながる位置に樹齢250年の欅の樹を移植し、どの家からも最高の景色を味わえるようにし、夏はその欅によって生成される冷気が各家に流れ込むようにデザインされました。また、すべての家の玄関は欅の樹の側に配置され、毎日帰宅するたびにこの贅沢な風景に出迎えられるように設えられました。

「コミュニティベネフィット」の考え方に基づいた「欅ハウス」と地主の敷地との関係。「欅ハウス」と土地を提供した地主双方にとって保全された屋敷林が共有価値として活かされるように計画された(資料:チームネット)
「コミュニティベネフィット」の考え方に基づいた「欅ハウス」と地主の敷地との関係。「欅ハウス」と土地を提供した地主双方にとって保全された屋敷林が共有価値として活かされるように計画された(資料:チームネット)
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「欅ハウス」における緑と暮らしとのつながり。樹齢250年の欅が生み出す微気候が各室内の快適性を担保している(資料:チームネット)
「欅ハウス」における緑と暮らしとのつながり。樹齢250年の欅が生み出す微気候が各室内の快適性を担保している(資料:チームネット)
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 こうして、緑を「生活基盤」として位置付けられた暮らしの場が実現したわけですが、それを可能にしたものは何か。そのことをもう一度確認すると、それは、「コミュニティベネフィット」という考え方に基づいて、コミュニティを手段として活用したことでした。

 この「コミュニティベネフィット」というコンセプトを機能させるスキームとして私が活用したのがコーポラティブという事業方式です。

 コーポラティブとは、入居予定者が集まって建設組合をつくり、組合員の合意によってプランづくりから建設会社への発注までを行うスキームで、本来デベロッパーと呼ばれる企業が介在するところを、その企業の介在を抜いて進める事業手法です。この方式では、住人同士の合意形成が重要となるため、コーディネータと呼ばれる専門家によって全体の事業が統括され、メンバー同士の合意が図られながら進められます。

 残念ながら、こうしたコーポラティブ方式は一般的ではありません。一般的な不動産の現場では、企業が介在し事前にお膳立てされたのちに広く販売される形式がほとんどで、それが市場経済を活用した最も影響力のある方法となっています。その結果、暮らしの場づくりの現場ではコミュニティは介在せず、「コミュニティベネフィット」という考え方が応用される余地はありません。なぜなら、一般的な不動産の取り引きはそれを企画する企業とそれを購入する個人との間で成立するからです。多くの不動産事業は、提供する住まいを機能性と性能とを兼ねそろえた商品として完成させ、その品質の優位性を競争力としてビジネスを展開しています。パッケージ化された商品としての住まいはクレームによるロスを極力なくすために品質管理が徹底されます。商品としての住まいは、その製造責任は製造者にあります。その責任を引き受けて大量に商品をさばいていくために、クレーム発生が少ない高品質な商品の生産技術がバックにあるわけです。その体制があるから、大量にさばくことができ、大きな住宅産業をつくり出すことができたわけです。

 このことを逆に言うと、現代の住まいの供給現場ではコミュニティを介在させる余地がないということです。なぜなら、コミュニティとは企業側がその品質を保証することのできない対象だからです。

 こうして企業が主導する住まいは個人単位での欲求にのみ対応され、個人単位を超える大きな環境価値は生まれにくくなくなるわけです。そこに住宅地において緑の価値が生まれない本質的な構造があるわけです。

2.自治体のジレンマをブレイクスルーさせる取り組み

(1)自治体の担うべき本質的な役割とは

 先にも論じましたが、企業が提供するのは商品化された暮らしの器です。その器の中で日常の生活がほぼ満たされてしまうので、外の緑の存在は手間のかかる面倒な存在になってしまっています。現代の都市空間において緑の存在を価値あるものに変えるためには、壁の内側で完結している暮らしを外へ拡張させることが必要です。そのためにはどうすればいいのか。

 そのヒントとして、先の3つのプロジェクトを紹介したわけですが、その共通するポイントは、外に個人単位では得ることのできない大きくて贅沢な環境的な価値が緑によって生み出されていて、そのポテンシャルが個人個人の暮らしとつながっているということです。機械仕掛けによって制御された室内よりも快適で魅力的な環境が外にあれば、必然的に住人は室内に閉じこもらずに外へと暮らしを拡張させようとすることになります。

 そのときに課題となるのが、その大きく贅沢な環境は、どうすればつくり出すことができるかということです。そのポイントは、個人単位ではなくコミュニティを手段とした「コミュニティベネフィット」として環境をつくりだすということでした。

 この「コミュニティベネフィット」は企業による取り組みからは生れてこない中で、企業を頼りにせずに、住まい手を連携させて実現させたのが、コーポラティブという事業方式によるものでした。

 こうした住人主導型のコーポラティブという事業は、一般化しているわけではなく、住宅供給量に占める割合は極々僅かです。大多数は建築や不動産事業に関わる企業と個人消費者との間で成立する取り引きによって、住宅地は形づくられることになります。その結果、現代の市場原理の中では緑豊かな住環境は形成されないという構造があるわけです。こうした構造にメスを入れることをしない限り、住宅地で緑環境の形成は促進されないのではないかと思います。そうした構造そのものに対して対処するためには、国や自治体による公的な関与が不可欠です。

 集合住宅などの規模の大きな住宅や規模の大きな宅地が開発されるときには、各自治体が定めている「まちづくり条例」などによって、緑化が義務付けられていますが、規模の小さな住宅の開発時や、既存の住宅地での緑化率を高める方策がなかなか見つからず、どの自治体も減少し続ける緑に対して、手をこまねいているというのが実情です。そこで、公的な立場として有効な取り組みのあり方を考察してみたいと思います。

 まず、自治体によるこれまでの施策がなぜ有効に働かないのか、そのことを考えてみたいと思います。例えば生垣助成のような仕組みは、どうして普及しないのでしょうか。

 その理由は簡単で、商品化された高機能で高性能な住まいの中で、暮らしそのものが外に対して閉じているので、外の環境を素敵にしたいという意欲そのものが芽生えてこないからです。装置化され、スイッチ一つで必要なことが満たされるような住まいの中で暮らしが完結している限り、いくら緑化のための助成金を用意しても、それを活かしたいと思う意思そのものが存在しませんので、応募者は出てこないのです。

 自治体として本気で民有地緑化の促進をさせようとするなら、壁の内側で完結している現代人に対して、住まいの外へと暮らしを拡張させることで得られる豊かな価値に対する「気づき」を生み出すプログラムを考える必要があります。なぜなら、暮らし方に関する私たちの価値観は、暮らしの器である住まいの形が影響して形成されているからです。つまり、私たちが抱く「緑は世話するのが面倒」とか「ご近所付き合いは煩わしい」などいう気持ちは、自己完結性を増している住まいが私たちの価値観の枠組みとなって、その結果として生まれているということなのです。

 市場原理に基づいて動いている企業がつくり出している枠組みを変えずに、その中で付随的に助成金を出すという対応では効果は生まれません。企業と同じように住人に対して経済行為の延長として助成金を出すのではなく、企業とは異なった立ち位置で、企業任せでは生まれない環境価値を創造することにこそ自治体の存在意味があるはずだと思います。

 そのためには、現状の住まいによって固定されているマインドセットをいったん外して、自分の暮らしにとって何が重要で、自分の幸せにとって何が大切なのかを住人自らが見つけ出す気づきを促し、住人自らが環境づくりの担い手になるプログラムが求められます。次回は、そうしたプログラムを実践した自治体による具体的な取り組み例をいくつか紹介したいと思います。

甲斐徹郎(かい・てつろう)
建築・まちづくりプロデューサー、チームネット代表、立教大学・都留文科大学非常勤講師
1959年生まれ。千葉大学文学部行動科学科卒業。1995年、環境と共生する住まいとまちづくりをプロデュースする会社として株式会社チームネットを設立。個人住宅から集合住宅、商業地開発まで、環境とコミュニティを生かした数多くのプロジェクトを手掛ける。2006年に流山市のグリーンチェーン戦略構想に関わり、グリーンチェーン認定制度の策定に関与する。2012年から東京都公園協会の委託を受け、「まちなか緑化事業」およびその実践プログラムづくりに関わる。2017年よりランドスケープ経営研究会幹事、同研究会のコミュニティ部会長を務める。著書に『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書)、『不動産の価値はコミュニティで決まる』(学芸出版社)など。
ランドスケープ経営研究会
Landscape and Business Development Association, Japan
2017年10月に一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会が設置した研究会。略称LBA。都市公園法等の改正を受け、Park-PFI等「ランドスケープ経営」に関心のある企業、団体、個人を募り、公園から始まるまちづくりのための公民連携方策の技術・情報交流、研究・提言を通じ、新たな時代の緑とオープンスペースにおけるビジネスモデルを構築することをミッションとする。収益施設のビジネスを得意とする民間事業者と、公園など造園/ランドスケープに関わる業界が集結することによって、多様な主体の協働による新たなまちづくりへの取組みを推進する。公式サイトURLはhttp://www.lba-j.org/