公園など都市のオープンスペースのサステナブルな利活用について考えていくシリーズ「公園が変わる! 街が変わる!」。前回に引き続き、緑を活用して人々が住みたくなる街をつくる方策について考えていきます。東京都や千葉県流山市などの具体的な取り組み事例を交えながら、建築・まちづくりプロデューサーとして数多くの事業に携わるチームネットの甲斐徹郎代表取締役が解説します。

自治体のジレンマをブレイクスルーさせる取り組み(前回からの続き)

 前回は自治体の担うべき本質的な役割として、住まいの外へと暮らしを拡張させることで得られる豊かな価値に対する気づきを生み出すプログラムを考える必要があるということを説明しました。

 では、どのようなプログラムが必要となるのか、実際にそのプログラムづくりを意図して実践されているモデル事業を紹介したいと思います。

(1)住民と自治体との立ち位置を変える
 ――「まちなか緑化」プログラム(東京都公園協会)

 まず最初ご紹介するのは、2008年から今現在も継続して東京都公園協会によって取り組まれている「まちなか緑化事業」(※2012年からは界わい緑化推進プログラムとして現在も展開中)です。

 この事業は、協会が運営する公園の駐車場や施設の利用料などで生まれる収益を公益事業に活かす取り組みとして開発されたものです。これまでに都内10カ所の地域で事業が進められ、その実践を通じて、住人自身の気づきを生み出し、住まいの外環境を重視する生活スタイルを地域ぐるみで醸成し、協会が積み立てた緑化基金を元手に緑化助成を行い、みどり豊かな地域の環境を創造していくという一連のプログラムが開発されています。

「まちなか緑化事業」によって生まれ変わった街並み。2つの旗竿地の住人が緑化事業に参加、お互いにあきらめていた豊かな環境が実現した(写真:甲斐 徹郎)
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「まちなか緑化事業」によって変容した割烹料理店。各店のファサード緑化を連続させ商店街を活性化(浅草・みちびき花の辻商店街)(写真:甲斐 徹郎)
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 「まちなか緑化」を推進するには、都市で暮らす住民の緑に対する意識の変容を図ることが欠かせません。そこで、①自分のこと化、②相互触発、③コミュニティ主体の醸成――という3つのステップを踏むプログラムが開発されています。以下に、その概要を示します。

【ステップ① 自分のこと化】
「自分にとって得なこと」を発見させるステップ。参加者が、「これは自分のためだ」と思い始めなければ成果は生まれないので、非常に重要なステップである。

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「まちなか緑化プログラム」の「ステップ① 自分のこと化」の段階で行う体感セミナーの様子。夏の日差しに見立てた白熱灯の熱が、濡れたスダレによって完全に遮断され、暑さよりもむしろ涼しさを感じることに誰もが驚く(写真:チームネット)

 「ステップ① 自分のこと化」の段階で、どうやって「自分のこと化」させるのか。そのために開発された手法が「体感セミナー」です(上写真)。このセミナーでは、様々な体感実験が実施されます。例えば夏場対策をテーマにした体感実験では、白熱灯を使って夏の日射を再現し、まずその暑さを体感してもらいます。次に、この日射をスダレによって遮蔽して暑さの差を体感し、さらに霧吹きでそのスダレを湿らせて、植物の蒸散作用と同じ効果による涼しさを再現して体感してもらうということを繰り返します。

 実際に体感して比較してみると、参加者は誰もがその劇的な変化に驚きます。あれだけ暑かった白熱灯からの熱が、濡れたスダレ越しでは全く感じられず、むしろ涼しく感じるのです。理屈を理解させるのではなく、このような実際の体感を通して、機械に依存した涼しさではない「外環境を活かすことで生まれる快適さというものがあるんだ」と、その存在への気づきを与えることがポイントです。そして、植物の蒸散作用による涼しさ=樹木がつくりだす快適さに興味が湧き始めると、「緑は自分のため」という意識が生まれます。これが第1ステップの「自分のこと化」です。

【ステップ② 相互触発】
同じ通り沿いに住む人を同じテーブルに集め、自分のためにやってみたいことを相互に出し合ってもらう。これによって、「他の人も自分と同じことをやりたいと思っている」「みんなが実践したら、この通りはすてきになる」という2つの気づきが得られる。

「まちなか緑化プログラム」でのワークショップの様子。参加者それぞれが「自分のやりたいこと」を出し合ううちに熱量が上がり、相互に触発し合う(写真:チームネット)
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【ステップ③ コミュニティ主体の醸成】
第2ステップで参加者が出し合った思いを、「ガーデンデザイナー」が取りまとめる「デザイン提案」を行う。ここでは「緑に覆われた街」を絵として見せることで、個人個人の取り組みの連鎖で街全体が変わっていくことをイメージさせる。

参加者の思いを絵にし、それぞれの思いをつなぎ合わせてガーデンデザイナーの正木覚氏が街全体の絵を完成させる(写真:チームネット)
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「まちなか緑化」プログラム全体の目的

 3つのステップで行うプログラムの狙いは、最初は「自分のため」だった個人の意識を、「自分たちの力で街を変えよう」といった意識へと高めることです。約6カ月間、4回程度のワークショップやイベントを実施し、このサイクルを3年間繰り返すと、街の緑を共通の生活基盤とし合うコミュニティ意識が芽生えてきます。こうしたコミュニティの存在が、街の緑を持続的にメンテナンスしていく役割を果たしていきます。

  自治体にとっては、こうしたコミュニティを育成していくことこそが、このプロジェクトに取り組む大きな意義だといえるでしょう。

 重要なことは、こうした各個人が実感することのできる「しあわせな暮らし」の本質に対する「気づき」を生み出すことです。そういった観点から、「まちなか緑化事業」を通して開発されたプログラムは、とても示唆に富む手法だと思います。

「まちなか緑化プログラム」で緑化された場が街のイベント舞台に。これまで活用されてこなかった通りや公園が街の舞台となり、使われるようになる(浅草・みちびき花の辻商店街)(写真:チームネット)
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杉並・久我山商店街(写真:チームネット)
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中野・桃園町会(写真:チームネット)
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まちなか緑化プログラムの流れ。プログラムは大きく「自分のこと化」→「相互触発」→「コミュニティ主体の醸成」の3つのステップで構成されるが、具体的な流れは5つとなる(資料:東京都公園協会)
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(2)異なる事業間の相乗効果で価値を高める
 ――流山グリーンチェーン認定制度(千葉県流山市)

 「まちなか緑化」プログラムは、企業とは異なる立ち位置で、企業任せでは生まれてこない環境価値を創造するための自治体サイド(東京都公園協会)の取り組みでした。次に、それとは全く逆に、徹底して企業との連携を図ることで住宅地としてのエリア価値を高める方策をご紹介したいと思います。それは、千葉県流山市の取り組みです。

 東京都の都心から20~30km圏内にあり東京への通勤率が33.5%という流山市は、東京のベッドタウンとしての性質が強い郊外都市です(2015年国勢調査より)。

 流山市の人口は現在約20万人弱で、年4000人から5000人程度のペースで増加しており、人口増加率は千葉県の自治体で6年連続1位をキープしています(住民基本台帳より)。また、ベッドタウンとして人気の高いつくばエクスプレス沿線都市の中でも特に流山市の不動産価格が高騰し続けており、住みたい街としてのブランドを確立させた自治体として注目されています。

 こうした成果を上げた大きな要因は、庁内にマーケティング課を置き、流山市の「イメージ戦略を練る」ことでした。現在5人がマーケティング課に属し、「住み続ける価値」と街のブランド力を高めることをミッションとして活動しています。そのマーケティング戦略の柱の1つが、「都心から一番近い森のまち」というキャッチコピーを冠した「流山グリーンチェーン戦略」というイメージアピールと、それを具現化させる具体的な施策でした。その具体策として展開されたのが「流山グリーンチェーン認定制度」です。

流山グリーンチェーン認定商業施設と非認定商業施設(写真左:流山市、右:甲斐 徹郎)
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流山グリーンチェーンに認定された住宅地(写真:甲斐 徹郎)
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 この認定制度は、企業が主導する開発案件を対象に、共通の指標に基づいて緑化基準を満たしたものに対して市が認定証を出すというものです。認定を受けた物件は資産価値が高まり、中古物件でも高く売れるという効果が生まれ、東京大学による調査では、グリーンチェーン認定を受けたマンションは、認定を受けていないマンションよりも一戸あたり約494万円も高いという結果が報告されています。

流山グリーンチェーン認定証(資料:流山市)
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 企業側にとっては資産価値の高い物件であることのアピールにつながることが魅力となり、2006年から始まったこの制度の認定物件数は年々増え続け、戸建て・集合住宅・商業施設を合わせ、2019年5月時点で298件、約6700戸という実績となっています。

流山グリーンチェーン認定件数と緑化面積の推移(資料:流山市)
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 このように、開発事業者に対して規制を強いるという方法ではなく、また、望ましい取り組みを促進するための助成金を出すという方法でもなく、この方策は企業にとってのマーケティング活動として、企業の自主的な取組みを促している点がユニークな点です。

 流山市で工夫された認定基準は下表のような7つの指標によって構成されています。「接道面に一定の高さの木を一定間隔以内で植樹すること」「道路表面の温度上昇や放射熱の抑制」「住宅敷地間の通風確保」「地球温暖化の原因となるCO2排出の抑制効果」などですが、個々の事業が同じ指標の同じ基準を満たすように実施されることによって、街中に緑の連鎖(グリーンチェーン)が生まれるように工夫していることが特徴です。つまり、この7つの指標は各事業ごとに独立した成果を生み出すだけでなく、異なる事業の間で相乗効果を生み出し、街全体の環境価値を引き上げ、結果として各事業者にとっての不動産価値の訴求力を高めることにつながっているのです。

指標 1 道路表面の温度上昇抑制
 接道部に高木を植えることにより道路表面に樹木による影をつくり、道路表面の温度が上がるのを抑制する

指標 2 敷地間通風の確保
 敷地の境界を風が通るもの(生垣等)にすることで、敷地内の風通しを良くする

指標 3 道路面からの放射熱侵入抑制
 道路と敷地の境界に生垣状の植栽をつくり、道路からの放射熱が敷地内に入るのを抑制する

指標 4 敷地内地表面及び建物外壁の温度上昇抑制
 敷地内の緑化により、敷地内の地表面の温度の上昇を抑制する

指標 5 排熱とCO2排出の抑制
 省エネ型の設備機器を設置することで、CO2の排出を抑制すると共に機器からの排熱も抑制し、ヒートアイランド現象の緩和を図る

指標 6 住戸断熱性能の確保
 住戸の断熱性能を高くし、外気から室内への熱の伝導を抑制する

指標 7 住戸内通風の確保
 住戸内のパブリックスペース(リビング等)において2方向以上に窓を設置し、住戸内の風通しを良くする

グリーンチェーンの7つの指標(資料:流山市)

流山グリーンチェーン認定制度の特徴。個々の事業が同じ基準を満たすように実施されることによって街中に緑の連鎖(グリーンチェーン)が生まれる(資料:チームネット)
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 こうして、「流山グリーンチェーン認定制度」によって個々での取り組みが実施されることで、個別の価値を超えた連鎖が生まれ、街全体の価値を高め、その影響が社会的な利益にまで及ぶことが目論まれているのです。

(3)自治体と住民、そして企業との連係が生み出す可能性

 「まちなか緑化」プログラムと「流山グリーンチェーン認定制度」とで共通している点は何か。それは「関係の価値化」です。つまり、暮らしを住まいの中で完結させず、そこに外環境との「関係」を導くことで身体的に感ずることのできる「価値」を生み出すということです。あ

 この発想と対比されるこれまでの方策は、「スペックの追求」だと言えます。例えば、住まいの省エネルギーを達成させるためには高い断熱性能と高効率な設備機器の導入を促すことにより、より高いスペックへと住まいの水準を移行させるというやり方です。この方法と同じ手法で、緑化においても緑化率などの数値が基準値として掲げられるわけですが、緑化の真価はこうした「スペックの追求」ではなく、「関係の価値化」によって発揮されるのです。

 「関係」による価値づくりが個々の暮らしの中で実践されると、隣り合う同士で相互に価値を増幅しあうことになります。こうして「関係価値」は連鎖し、次なる関係主体を巻き込み、動的に価値を増殖させるスパイラルを生み出します。

 機械によって生み出される快適さとは質を異にする、緑が生み出す「心地よさ」の源泉は何かというと、それは「関係」にあると言うことができます。緑には、その身体感覚を奮い立たせ、「関係」の魅力に人を引き込む潜在力があります。この潜在力こそが、都市における「環境」と「コミュニティ」の再生の決め手なのだと思います。緑化行政の役割は、この緑の潜在力を顕在化させ、「物質化した都市」に生命を吹き込むことだと強く思います。

甲斐徹郎(かい・てつろう)
建築・まちづくりプロデューサー、チームネット代表、立教大学・都留文科大学非常勤講師
1959年生まれ。千葉大学文学部行動科学科卒業。1995年、環境と共生する住まいとまちづくりをプロデュースする会社として株式会社チームネットを設立。個人住宅から集合住宅、商業地開発まで、環境とコミュニティを生かした数多くのプロジェクトを手掛ける。2006年に流山市のグリーンチェーン戦略構想に関わり、グリーンチェーン認定制度の策定に関与する。2012年から東京都公園協会の委託を受け、「まちなか緑化事業」およびその実践プログラムづくりに関わる。2017年よりランドスケープ経営研究会幹事、同研究会のコミュニティ部会長を務める。著書に『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書)、『不動産の価値はコミュニティで決まる』(学芸出版社)など。
ランドスケープ経営研究会
Landscape and Business Development Association, Japan
2017年10月に一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会が設置した研究会。略称LBA。都市公園法等の改正を受け、Park-PFI等「ランドスケープ経営」に関心のある企業、団体、個人を募り、公園から始まるまちづくりのための公民連携方策の技術・情報交流、研究・提言を通じ、新たな時代の緑とオープンスペースにおけるビジネスモデルを構築することをミッションとする。収益施設のビジネスを得意とする民間事業者と、公園など造園/ランドスケープに関わる業界が集結することによって、多様な主体の協働による新たなまちづくりへの取組みを推進する。公式サイトURLはhttp://www.lba-j.org/

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