PPP/PFIと公的不動産のいま

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第13回 公的不動産における収益確保に挑む(1)定借スキーム

奈良県養徳学舎が先駆けに

解説:福島 隆則=三井住友トラスト基礎研究所投資調査第1部主席研究員、構成:坂井 敦=フリーランス【2017.12.6】

国や自治体が保有する公的不動産(PRE:Public Real Estate)。PREもほかの公共インフラと同様、今後は維持管理・更新費が大きく膨らむ懸念があり、官民連携による民間の資金とノウハウの活用が有力な選択肢となっている。経済性より社会性の要素が強いPREの官民連携では、収益確保が課題となるが、定期借地権を活用するスキームは、そうした課題を克服する手法として広く利用されている。

 国や自治体は、公共サービスを行うのに必要な様々な不動産を所有している。これが公的不動産(PRE)と呼ばれるものであるが、具体的には、庁舎や学校、図書館、公営住宅、福祉関連施設など多岐にわたる。今後、これらの多くで老朽化が進み、維持管理・更新費が増大する懸念がある。国や自治体の財政事情が厳しいなか、これらPREをどのように維持管理・更新していくかが、大きな課題となっている。

 PREの現状は、各自治体が策定した「公共施設等総合管理計画」でも見てとれる。この計画は、自治体が所有するPREやインフラを対象に、その利用状況や維持管理・更新等にかかる中長期的なコスト、財源の見込みなどを分析したものだ。

 総務省が2014年4月、「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」を公表し、各自治体に計画の策定を要請した。期限(厳密には補助金支給の期限)とされた2017年3月末までに、98%の自治体が計画を作り終えている(図表1)。

図表1:公共施設等総合管理計画の策定状況
(資料:総務省、「公共施設等総合管理計画策定取組状況等に関する調査(結果の概要)」)
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 図表2は、愛知県の公共施設等総合管理計画からの抜粋であるが、内容的にはほかの自治体でも同様の傾向がみられる。例えば、PREやインフラの新設は高度成長期以降、右肩上がりで行われてきたこと。このことは、今後多くの自治体において、右肩上がりで維持管理・更新費が増大し、財政圧迫要因になることを示唆している。一方、PREの内訳として公営住宅と学校が1位・2位を占めることも、多くの自治体で共通してみられる傾向である。

図表2:公共施設等総合管理計画の例(愛知県・抜粋)
(資料:愛知県公共施設等総合管理計画(2015年3月20日))
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コンセッションには不向きなPRE

 こうしたPREの課題への対応としては、ほかの公共インフラと同様、民間の資金とノウハウの活用が有力な選択肢となっている。しかし、公営住宅や学校の割合が高いことからもわかる通り、PREは経済性より社会性の要素が強い。料金設定の自由度が少なかったり、学校のようにそもそも料金自体が存在しなかったりする。このため、施設の運営を民間に任せたとしても、そこに十分な収益性を見いだすことは難しい。

 従ってPREについては、空港や道路のようなコンセッション方式が最適解とはなりにくい。内閣府の資料においても、PREの利活用事業については、PPPの範疇ではあるものの、コンセッションなどPFIの枠外とされている(図表3)。

図表3:PPP/PFIの概念図
(資料:内閣府民間資金等活用事業推進室、「PFIの現状について」(2017年6月))
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 PREに関する官民連携事業では、公有地に定期借地権を設定したり、公共施設を商業施設と合築・併設したりする手法がよく使われてきた。例えば、公共側が公有地の一部に定期借地権を設定し、借地権者となる民間事業者から収受する資金を使って、老朽化した公共施設を建て替えるというスキームだ。

 このスキームは元々、米国ワシントンDCのオイスター・スクール建て替えプロジェクトで採用されたものだが、日本でも広く研究され、使われるようになった。象徴的なのは、東京都の豊島区庁舎や渋谷区庁舎の建て替えプロジェクトであるが、先駆けとなったのは、文京区にある養徳学舎のプロジェクトだ(図表4)。

 養徳学舎は、奈良県が所有する県出身者向けの学生寮だが、旧建物は老朽化が進んでいた。そこで民間事業者のヒューリックが寮を建て替え、完成後の建物を奈良県に譲渡した。

図表4:奈良県養徳学舎建て替えプロジェクトのスキーム
(資料:ヒューリックの資料をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成)
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 ヒューリックは同時に、敷地の一部を奈良県から定期借地し、賃貸マンションを建設。県が支払う新しい学生寮の買い取り代金は、ヒューリックが支払う定期借地権設定の権利金などと相殺している。これにより奈良県は、資金負担なく老朽化した養徳学舎を建て替えることができ、ヒューリックは好立地でマンション開発ができた。

定期借地権を活用したBiVi藤枝

 一方、定期借地権を設定した公有地上に、公共施設を含む複合施設を民間事業者が建設するスキームもある。公共側は、完成した複合施設のテナントとして一部フロアを賃借し、そこで公共施設を運営する。その際、民間事業者に支払う賃料を、地代や固定資産税などの受取と相殺し、資金負担の極小化を図るというものだ。

 静岡県藤枝市にある複合施設のBiVi藤枝は、このスキームを用いた事例だ。JR藤枝駅に近接する旧市立病院跡地に、市が20年間の事業用借地権を設定。民間事業者の大和リースが、そこに図書館を併設した商業施設を建設し、所有・運営するものだ。

 建物は地上5階建て、延べ床面積約2万9千㎡の規模で、3階フロアに図書館が入居した。この図書館について藤枝市が支払う賃料は、市が受け取る地代などとほぼ相殺されるため、藤枝市は資金負担なく、新しい図書館を整備できたことになる(図表5)。一方、大和リースも、駅前の好立地で商業施設を所有・運営することができた。図書館と商業施設で、集客上の相乗効果もあるという。

図表5:BiVi藤枝の整備スキーム
(資料:大和リースの資料をもとに三井住友トラスト基礎研究所作成)
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 PREに民間施設を合築・併設するスキームや、証券化を通じて投資資金を活用するスキームについては、次回のコラムで解説する。

福島 隆則(ふくしま たかのり)
三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第1部 主席研究員
福島 隆則(ふくしま たかのり) 1967年生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(MBA)。自治体のPPPアドバイザリー業務や、インフラ投資の調査・コンサルティング業務に従事。内閣府「民間資金等活用事業推進委員会」専門委員。経済産業省「アジア・インフラファイナンス検討会」委員。国土交通省「インフラリート研究会」委員。国土交通省「不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)の活用のあり方に関する研究会」委員など。早稲田大学国際不動産研究所招聘研究員。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。著書に『よくわかるインフラ投資ビジネス』(日経BP社、共著)、『投資の科学』(日経BP社、共訳)。

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