自動運転は全国各地で実証実験が進められている。過疎化によって公共交通が撤退している地域の支援を目的とするケースが目立つが、それだけではない。自動車産業が盛んな愛知県では、地域支援に加えて、県内の産業をより活性化することも目的として自動運転車の実用化を促進している。2021年度は市街地や空港、公園などで自動運転の実証実験を行った。
愛知県では2016年度から、自動運転に関わる実証実験の事業を進めている。その目的は、大きく2つある。1つは、高齢者の移動支援や、山間地など交通が不便な場所で日常の足を確保する社会課題の解決。もう1つは産業振興だ。同県は自動車を中心とした産業が盛んであり、自動運転は今後の自動車産業の大きな柱の1つになると捉えている。
2017年には、自動運転システムに関係する企業・大学や、自動運転システムの導入を目指す県内の市町村などが参画する「あいち自動運転推進コンソーシアム」が設置された。コンソーシアムの目的は、企業・大学と市町村とのマッチングなどによって県内各所における自動運転の実証実験を推進し、自動運転に関わるイノベーションを誘発して新たな事業を創出することだ。また、2021年3月には「あいち自動車産業アクションプラン」が策定され、その施策となる5本柱の1つにも「自動運転の社会実装」が定められている。
こうした取り組みに関して、愛知県経済産業局産業部産業振興課次世代産業室主査の中野茂寛氏は、「幅広い企業が連携して自動運転に取り組むよう促すことが、自動車産業の構造転換への対応の観点から地方創生や地域活性化につながると考えている」と語る。
2021年度は3つの地域で実証実験を実施
2021度は、2016年度からの取り組みをさらに推し進め、交通事業者などが実運行において再現可能、かつ持続可能なビジネスモデルを構築することを目指し、3つの地域においてそれぞれの目的に沿った実証実験を行っている(表1)。
名古屋市内では、都心の幹線道路を含むルートにおいて約3カ月の自動運転車両の運行を行い、「都心における自動運転を利用した移動」をテーマに、自動運転技術を用いたモビリティサービスの実現を目指す。常滑市の中部国際空港島では、「公道と空港制限エリアの同時運行・管理」をテーマに、公道と空港制限エリアにおいて一元的な遠隔監視の下で2台の自動運転バスを同時運行させるほか、長久手市のモリコロパーク(愛・地球博記念公園)では、「リニモ駅から園内目的地へのシームレスな移動」をテーマに、駅から目的地までを自動運転車でつなぐことで、スムーズな移動の実現を目指す。
この記事では、「都心における自動運転を利用した移動」と「公道と空港制限エリアの同時運行・管理」をテーマにした実証実験を紹介する。