アイシン精機が提供するデマンド型交通サービス「チョイソコ」は、2021年1月時点で全国13地区で展開されている。高齢化・過疎化が進んだ地方都市では、運転免許証を返納した住民が公共交通を利用しようとしても、以前と比べて多くの路線が廃止され交通難民が増えている。こうした課題を改善すべく、自治体はコミュニティバスや乗合タクシーを導入しようとしているが、そこにも運行経費の負担をどう抑えればいいのかなどといった課題がある。アイシン精機は、自治体の乗合サービス運用の負担を軽減する仕組みを構築し、「チョイソコ」の名称で全国展開を進めている。

 近年、地域住民の足を確保するコミュニティバスを導入する地方自治体が増加しているが、コミュニティバスの1人1回当たりの輸送コストは上昇傾向が続いている。例えば、国土交通省中部運輸局の調査では2017年度のコミュニティバスの1人1回当たりの輸送コストは695円となっている(図1)。一方で、コミュニティバスの運賃は地域によって差があるが概ね100~200円と低廉で、運賃収入に対してコスト負担が大きく、運行を続けるほど自治体側の負担が大きくなっていく。

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(図1)1回1人当たりのコミュニティバスの輸送コスト(上)とコミュニティバス運行コストの負担の内訳(下)(出所:国土交通省中部運輸局の資料より抜粋)
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エリアスポンサーからの収入で運用コストを補填

(写真1)豊明市では、2019年4月から道路運送法第21条第2項に基づく有償サービスの実証実験を行っている。写真は「チョイソコとよあけ」で使われている車両(撮影:元田光一)
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 アイシン精機が提供する「チョイソコ」は、こうした地域が抱える交通不便や地方自治体の課題を解消し、主に高齢者の外出促進に貢献しようとするデマンド型交通サービスだ(写真1)。会員登録された利用者からスマホや電話で予約を受け、最適な乗り合わせと経路を計算して目的地まで送迎する。第1号の導入事例である愛知県豊明市の「チョイソコとよあけ」をはじめ、各地で導入が進んでいる。

 「チョイソコ」は、利用者からの運賃収入だけでなく、利用者が行きたいと思う施設や店舗などを「エリアスポンサー」として集め、そのスポンサー収入を運営費に充てるスキームが注目を集めている(図2)。コミュニティバスの運用コスト負担を軽減させるための仕組みである。

(図2)アイシン精機が提供するデマンド型交通サービス「チョイソコ」の事業イメージ(資料提供:アイシン精機)
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 「チョイソコ」のエリアスポンサーは、協賛金を払うことで自社施設などに乗降所を設置でき、それにより利用者の集客が期待できる。豊明市の場合、自治体を除いたエリアスポンサーの協賛金は3000円~5万円/月の価格帯。多いのは1万円/月で、3000円/月は個人商店や美容院などが多い。

* 自治体もエリアスポンサーの1つとなる。

豊明市では60カ所のエリアスポンサーが集まる

(写真2)エリアスポンサーの一覧は、市役所などに掲示される(撮影:元田光一)
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 豊明市で運行している「チョイソコとよあけ」を例にとると、2021年1月時点で約60カ所のエリアスポンサーを集めている(写真2)。サービス開始の当初からそれだけの数を集めるのは難しい。サービスを継続することで徐々にエリアスポンサーが増えていくが、アイシン・エイ・ダブリュ ビジネスプロモーション部部長兼アイシン精機イノベーションセンター主査の加藤博巳氏(写真3)によると、「例えば自治体から70万円/月を負担してもらう場合、最初は全額負担してもらう。そして、スポンサーが20万円くらい集まったら、以降の月は50万円/月を負担してもらうことになる」という。

 エリアスポンサーからの収入は、運営費への充当ではなくサービス向上のために使うことも想定できる。「例えば月曜から金曜まで運行している場合、エリアスポンサーの増加によって増えた収入を土曜日の運行に充てるといった選択肢も提案している」(加藤氏)。

 また、アイシン精機が豊明市での実証実験で力を入れているのが、到着予測時間の精度向上だ。実際に到着した時間をビッグデータで蓄積し、それらのデータを時間や曜日、天気、運転手の違いなどの属性を元に分析して到着予測時間の精度を上げる実験をしている。一方、予約受付センターでは、人間のオペレーターが利用者の目的地を見て配車を判断している(図3)。

 例えば、病院に寄ってから駅に行く予約をした利用者に対しては、オペレーターは利用者が病院に寄った後に電車に乗ることを前提に、少し早めに駅に到着できる車を選ぶことがある。病院も歯科医院や整形外科医院といった事前予約が必要な診療科と、そうではない診療科などを考慮しながら配車の時間を推薦しているという。「こうしたオペレーターの対応は、3年間の運用で積み上げたノウハウになっている」(加藤氏)。

 地域のゴミ集積所を停留所として利用しているのも、「チョイソコ」の工夫の1つだ(写真4)。ゴミ集積所は基本的に自治体か自治会が管理しているので、利用許可が取りやすい。「公道に停留所の目印を立てる場合は、警察への届け出が必要になる。ゴミ集積所ならばパネルを貼り付けるだけ。停留所は住民からの意見を聞いて場所を変えていくので、そういった変化にも対応しやすい」(加藤氏)。

(図3)オペーレーターが利用者の状況に応じて配車を判断(資料提供:アイシン精機)
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(写真3)アイシン・エイ・ダブリュ ビジネスプロモーション部部長兼アイシン精機 イノベーションセンター主査の加藤博巳氏(撮影:元田光一)
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(写真4)ゴミ集積所に設置された停留所(撮影:元田光一)
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地元のタクシー会社やバス会社とも親和性を高める

 こうしたデマンド型交通サービスの運用コストには、燃料費や通信費、オペレーターの人件費などもあるが、最も負担が大きいのが車両の運行委託費だ。ほとんどの自治体が、車両の運行を地元のタクシー会社に委託している。「チョイソコ」のようなデマンド型交通サービスは、タクシー会社にとって競合する存在と見られることが多いが、実際の事業モデルは必ずしもそうではない。

 地元タクシー会社への「チョイソコ」の運行委託にはいろいろな形態があるが、例えば、平日の9~16時まで7時間車両を運行する場合、1日当たりの運行収入を2万円/台と設定・保証する。例えば乗車運賃が200円の場合、1日に10人が乗車したら2000円の現金収入がタクシー会社に発生するが、アイシン精機からも1万8000円が支払われる。すなわち、乗客数にかかわらず平日に20日運行すれば、月40万円の収入が必ず保証されることになる。ほかにも、搭乗実績に応じて月100人以上乗ったら1時間あたり〇円、101~150人なら〇円などといった従量制を採用する自治体もあるという。

 さらに、タクシーは「チョイソコ」の運行時間帯以外は、通常の営業ができる。「タクシーが最も利用される朝や夕方、夜に営業できる。コロナ禍の影響で収入が厳しくなってきたタクシー会社としても、この条件を出せば興味を示してくれるところが多い」(加藤氏)。

 「チョイソコ」は、タクシー会社だけでなくバス会社とも親和性を高めている。例えば、ある自治体では地元バス会社の運行管理者が「チョイソコ」のオペレーションも引き受けている。これに対しアイシン精機はバス会社にオペレーター委託費を支払い、共存を目指している。。

人が出掛けたいと思う動機をつくる

 デマンド型交通サービスも利用者が増えれば1人当たりの輸送コストも下がっていくが、人は必要がなければ移動しない。一方で、高齢者の生活形態や活動形態も変化し、以前と比べて老後も健康で、興味があることは積極的に取り入れるようになった。そこで、アイシン精機では買い物や通院だけでなく、できるだけ利用者に出掛けたいと思わせるイベントを告知している。豊明市の場合はもともと高齢者が利用対象となっていたので、市の健康長寿課などと一緒に高齢者向けイベントの開催をPRし、イベント開催地の近くに停留所を設置した。

 さらに、アイシン精機は独自イベントを企画するなどコトづくりに力を入れている。独自企画は、アイシン精機のスタッフが豊明市周辺をリサーチして利用者に対してアンケートを行い、人気が高い企画から実現させている(図4)。

(図4)アイシン精機が独自に企画したイベント例(資料提供:アイシン精機)
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 こうした企画を、「チョイソコ通信」というニュースレターにして会員に発送している。最初はメールで配信したが、一度開封したメールは見返さない。そのため、コストはかかるが自治体ごとに紙に印刷して郵送している。「冷蔵庫などに貼ってもらって、今日は何があるかなあと見てもらえるようにマグネットもつくった。封筒には協賛会社の広告も入れられる」(加藤氏)。

移動手段の提供だけでなく新たなソリューションも創出

 アイシン精機は今後、移動手段の提供だけでなく新たな価値を生み出す自治体向け事業を創出しようとしている。例えば、「チョイソコ」の車両を活用したリアルタイムでのデータ収集だ。豊明市では車両に付けたさまざまなセンサーを使って、道路の破損などの路面情報を検知している。さらに、カメラや大気汚染センサーなども使い、道路標識の劣化や二酸化炭素濃度の検出までを行っている。2021年度からは塾に通う児童を送迎したり、「チョイソコ」が営業していない時間帯を使った、農作物集荷サービスの実証実験などを行おうとしている。

 その他にも、オンデマンド交通だからこそ可能になるサービスもあるという。「医療施設が行う送迎は病院と自宅の間しか運行できない。チョイソコならば病院でリハビリをした後にスーパーやカラオケなどに連れて行くなど、高齢者の行動範囲を広げてあげることもできる」(加藤氏)。

 さらに、異業種企業との連携によるサービスの創出としてトヨタファイナンスとの協業で、小学生が「チョイソコ」を利用した際に顔認証システムによって本人確認を行い、その記録を両親に送信するような試みも計画している。

全国に展開する「チョイソコ」事業

 2021年1月現在、「チョイソコ」には全国で約7500人が登録している。豊明市の登録者全体での平均年齢は74歳だが、各地のチョイソコ利用者全体の平均年齢はさらに高く79.4歳になっている(図5)。

(図5)「チョイソコとよあけ」での搭乗実績(資料提供:アイシン精機)
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 加藤氏は、「豊明市では住民に迷惑をかけることなく順調に運行できるようになり、乗り合い送迎のシステムではほぼ完成したと思っている」と語る。ドライバー向けの操作タブレットも余計な機能をどんどん削っていき、今は操作ボタンを3つに絞って、初めてタブレットを触る人でも使えるようカスタマイズを続けてきた。

 こうした経験やノウハウを全国展開に生かそうとしている。2021年1月現在で、「チョイソコ」は全国の13地区で展開されており、年内での運行開始が予定されている地区も多くある(図6)。

(図6)「チョイソコ」の全国展開状況(2021年1月時点)(資料提供:アイシン精機)
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 加藤氏は現時点での感触として、「チョイソコ」の導入は、交通の不便さが深刻化な地域の方が使われやすいと感じているという。「例えば、鉄道が敷かれていない長崎県五島市の離島(富江半島地区に20年10月から導入)では、バスの運行が少なくタクシーもあまりない。こういった地区では、チョイソコの運行を開始するとすぐに満員になる。五島市では当初、導入から6カ月間の予定で実証実験を行なう計画だったが、周辺地域にも走行エリアを広げてほしいという要望に応え、21年4月から3部落を追加して9月まで実証実験を継続する」(加藤氏)。

 それに対して、他の交通機関があるところは期待しているほど利用されていないという。「自治体がバス会社に遠慮して、チョイソコを駅にアクセスさせないケースもある。なにより、成功する自治体では担当者が熱心に取り組み。住民への周知もわれわれと一緒になって動いてくれることで、利用促進につながっている」と加藤氏。自治体の取り組み姿勢の違いも利用度に影響しているようだ。

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