過疎化や高齢化などによって運営が難しくなった公共交通機関が撤退すると、その地域には日常の買い物や医療機関に行くにも苦労する移動難民が生まれ、さらに過疎化が進んでしまう。そんな負の連鎖を断ち切るべく、自治体ではその土地の風土や慣習などを生かしたさまざまな取り組みを行い、モビリティの課題を解決しようとしている。富山県朝日町が導入した「ノッカルあさひまち」は、住民同士の助け合いの精神を生かして、モビリティの課題を解決する公共交通サービスだ。

 富山県の東端部に位置する朝日町は、黒部市や新潟県糸魚川市、長野県白馬村と接し、町の東・南部には白馬岳や朝日岳などを主峰とする北アルプス連峰がそびえる。さらに、北アルプス連峰に源を発した小川や笹川、境川といった河川が朝日町を横断して日本海に注いでいるなど、海や山、川に恵まれた風光明媚な町であり、その約60%が「中部山岳国立公園」と「あさひ県立自然公園」に指定されている。

 朝日町が導入した「ノッカルあさひまち」は、元々住民が所有している自家用車を利用し、移動する予定がある人が通勤や買い物のついでに、移動手段がない高齢住民らを居住地と中心市街地の間で送迎するという、道路運送法で制度化されている「自家用有償旅客運送」に則ったサービスだ(図1)。

(図1)自家用有償旅客運送の制度を活用した「ノッカルあさひまち」の仕組み(資料提供:朝日町)
(図1)自家用有償旅客運送の制度を活用した「ノッカルあさひまち」の仕組み(資料提供:朝日町)
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 朝日町ではスズキと博報堂からの協力を得ながら、2020年8~12月に無償で住民にノッカルのサービスを利用してもらう実証実験を行い、2021年1月からは有償での実証実験を始めている。

安全性と利便性を担保したノッカルの運用

 ノッカルの利用者は、乗車日の前日17時までにパソコンもしくはスマートフォンでウェブページから乗車を予約するが、電話でも予約が可能だ。利用するには朝日町が発行する1枚200円のバス回数券を使用し、1人で乗車する場合は3枚(600円相当)、2人以上で乗車する場合は1人2枚(400円相当)が必要になる。運行は、あいの風とやま鉄道線の泊駅がある町の中心部もしくは温泉施設と、7つのエリアに分けられた集落がある地区を結ぶコース、および泊の中心部を周回するコース(図2a)。

(図2a)「ノッカルあさひまち」の運行コース(資料提供:朝日町)
(図2a)「ノッカルあさひまち」の運行コース(資料提供:朝日町)
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 ノッカルではあらかじめ停留所が決められており、運行時刻も各コースで定められている。停留所は従来から朝日町で運行されているコミュニティバスの停留所を使っているが、コミュニティバスよりも利便性が高まるように、バス停とバス停の間にもノッカル専用の停留所を設けている。

(図2b)「ノッカルあさひまち」の時刻表と停留所(草野・赤川エリア)の例(資料提供:2点とも朝日町)
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(図2b)「ノッカルあさひまち」の時刻表と停留所(草野・赤川エリア)の例(資料提供:2点とも朝日町)
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(図2b)「ノッカルあさひまち」の時刻表と停留所(草野・赤川エリア)の例(資料提供:2点とも朝日町)

 安全面の配慮として、ノッカルのドライバーになるには事前に2種免許を取得するか、国土交通省が定めた講習を受ける必要がある。また、ドライバーが使用する自家用車の車検有効期限と法定点検の有効期限を確認し、運行中の万が一の事故に備えた自動車保険についても、朝日町の負担で掛けられている。ドライバーに対する講習や、スマートフォンとアルコール検知器を使って行う運行前の点呼なども含め、ノッカルの運行管理は町内にあるタクシー会社の黒東自動車商会が担う。