経済成長期に大都市圏の周辺に続々と開拓されたニュータウン。現在は高層マンションの建設などによって、住宅需要が郊外から都市部に移り、若年層人口が減少することで急激な高齢化が進んでいる。こうしてオールドニュータウンと呼ばれるようになった街では、高齢者の移動を支援するモビリティの整備が喫緊の課題だ。オールドニュータウンの1つとなった大阪府池田市の伏尾台エリアでは、こうしたモビリティの課題を住民同士の助け合いによって解決しようとしており、その取り組みを市や民間企業が支援している。

住民による相互扶助から始まった送迎サービス

池田市(いけだし)
池田市(いけだし)
大阪府の北部に位置する。市域は南北に細長く、南部には阪急電鉄と国道171号が通り、大阪国際空港と接している。北部は伏尾台に自然に囲まれた郊外住宅地が広がる。面積22.14km2。人口10万3272人(2022年2月末現在)

 大阪府池田市は、市の南部に位置する中心街から大阪市内(梅田)まで電車で20分ほどで通えるベッドタウンだ。北部の伏尾台エリアも電車とバスを乗り継いで40分ほどで大阪市内に通勤できる。

 この立地を生かし、伏尾台エリアは1970年から郊外型ニュータウンとして宅地が開発された。池田市南部の鉄道駅(阪急電鉄石橋阪大前駅・池田駅)からは離れているものの、新名神高速道路の出入り口(箕面とどろみIC)に近く自動車での移動に便利な場所で、1980年代には小中学校や府立高校などがエリア内に開校し、ピーク時は約8000人の住民がいた。

 しかし現在の伏尾台エリアは、少子高齢化によって住民の数も5000人台まで減少。高齢化率も45%に近くなり、小学校の閉校など他のオールドニュータウンと同様の課題を抱えることになった。さらに、もともと山地を造成したエリアであるため坂道が多く、高齢者にとってはスーパーや診療所、最寄りのバス停などへの移動の負担が大きいという点も課題となっている(写真1)。

 こうしたモビリティの課題を、伏尾台の住民による相互扶助によって解決しようと実施されているのが、住民組織「ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)」(以下、協議会)が運営する地域内無償送迎サービス「らくらく送迎」だ(写真2)。

 発端となったのは、住民から「自家用車を使用して住民を送迎できないか」との相談を受けた池田市が、総務省から500万円の補助金を取り付けて2018年10~12月に行った実証実験だ。池田市が自家用車有償旅客運送者になり、協議会に運行を委託する形で国土交通省の認可を取って、運転手となる住民の自家用車12台を運行車両として登録。送迎の範囲は自宅から、スーパーや病院、コミュニティセンターなどが集まる「伏尾台センター」(写真3)までとし、運賃は1人1回250円。伏尾台センターのバス停からは阪急バスの路線バスが複数発着しており、鉄道駅や郵便局など他の施設に行く場合はここからバスで向かうことになる。

(写真1)どこに行くにも坂道での移動が必要になる伏尾台(写真:元田光一)
[画像のクリックで拡大表示]
(写真1)どこに行くにも坂道での移動が必要になる伏尾台(写真:元田光一)
[画像のクリックで拡大表示]
(写真1)どこに行くにも坂道での移動が必要になる伏尾台(写真:元田光一)
(写真2)「らくらく送迎」のサービス提供の様子(写真提供:ほそごう地域コミュニティ推進協議会)
(写真2)「らくらく送迎」のサービス提供の様子(写真提供:ほそごう地域コミュニティ推進協議会)
[画像のクリックで拡大表示]
(写真3)伏尾台の中心部に位置する阪急池田伏尾台マンション。ここの1階にスーパーや病院、集会施設(伏尾台コミュニティプラザ・下写真)などが集まっており、催しが開かれる広場なども含め一帯で「伏尾台センター」を構成している(写真:元田光一)
(写真3)伏尾台の中心部に位置する阪急池田伏尾台マンション。ここの1階にスーパーや病院、集会施設(伏尾台コミュニティプラザ・下写真)などが集まっており、催しが開かれる広場なども含め一帯で「伏尾台センター」を構成している(写真:元田光一)
[画像のクリックで拡大表示]
マンションの1階にある「伏尾台コミュニティプラザ」(左)。協議会の事務所、フリーサロン、子育て支援ルーム(右)が設置されている(写真:2点とも元田光一)
[画像のクリックで拡大表示]
マンションの1階にある「伏尾台コミュニティプラザ」(左)。協議会の事務所、フリーサロン、子育て支援ルーム(右)が設置されている(写真:2点とも元田光一)
[画像のクリックで拡大表示]
マンションの1階にある「伏尾台コミュニティプラザ」(左)。協議会の事務所、フリーサロン、子育て支援ルーム(右)が設置されている(写真:2点とも元田光一)

 実験期間中は利用者として150人が事前登録し、ボランティア12人の住民ドライバーによって52回の送迎が行われた。利用者からの反応としては、「伏尾台センターだけでなく、他の場所にも行きたい」「料金をもっと安くして欲しい」などの声が上がった。

 ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)事務局長で、「らくらく送迎」のサービス運用に協力する一般社団法人伏尾台コミュニティの代表理事も務める春山俊一氏(写真4)は、「地域内でも目的地が限られるのでは、外出の利便性が得られない」と痛感したという。実験終了後には、「通院のために250円でも良いから続けて欲しい」といった要望が寄せられたこともあり、「事業免許を受けなくても運行できる無償無料の送迎サービスとして継続するしかない」と感じ、「らくらく送迎」を始めることとした。

(写真4)ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)事務局長兼伏尾台コミュニティ代表理事の春山俊一氏(左)と、ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)副会長兼伏尾台コミュニティ理事の竹之下伸治氏(右)(写真:元田光一)
(写真4)ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)事務局長兼伏尾台コミュニティ代表理事の春山俊一氏(左)と、ほそごう地域コミュニティ推進協議会(伏尾台地区)副会長兼伏尾台コミュニティ理事の竹之下伸治氏(右)(写真:元田光一)