世界的に開発競争が激化する自動運転車。Google系の米Waymo(ウェイモ)をはじめ、市街地などの公道を使った自動運転車の実証実験が世界各地で進む。実証実験は日本でも頻繁に行われるようになった。だが、公道を使った自動運転車の走行は期間限定がほとんどで、日常的に実証実験が進む米国に比べると散発的な印象は否めない。ただし、例外もある。金沢大学が石川県珠洲市で実施中の実証実験だ。

 金沢大学は自動運転機能を備えた試験車両を使い、金沢市内では毎週、珠洲市内では毎月、市街地を含む公道を使って定常的に実証実験を進めている(図1)。公道での実証実験は、2015年2月に珠洲市で始めた。珠洲市内での実証実験は頻度こそ高くはないものの、これまでの実証走行で同市内の幹線道路をほぼ網羅する。総延長距離は約60kmに達し、日本国内では類例のない規模になっている。

図1●金沢大学の自動運転車。周囲の状況を検知する主なセンサーとして、ミリ波レーダーを9台、カメラを6台、LiDARを3台配置した(撮影:日経BP総研クリーンテックラボ)
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 なぜ、金沢大学は珠洲市内で大規模な実証実験を進めるのか。珠洲市が抱える事情を知ると、同市内で実証実験する意義が見えてくる。そして、その意義は珠洲市に限ったことではなく、日本の地方都市の多くが超高齢社会で抱える課題の解決に直結することが分かる。

高齢者の移動手段として白羽の矢

図2●珠洲市役所企画財政課課長の金田直之氏(撮影:日経BP総研クリーンテックラボ)
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 珠洲市の人口は2018年5月末の時点で1万4573人。人口減少とともに高齢化が進んでいる。人口に占める65歳以上の住民の割合は既に40%台後半で、珠洲市役所企画財政課課長の金田直之氏は「2020年には確実に50%を超える」と言う(図2)。

 市民の移動には自家用車は欠かせないが、高齢化が進むに従って自動車の運転に支障を来すケースが増え、買い物や通院などの移動が困難になる高齢者が増えることが懸念されている。そこで、“市民の足”の候補として、珠洲市が白羽の矢を立てているのが自動運転車である。

 金沢大学が珠洲市で実証実験する狙いも、まさにここにある。通常、自動車を使ってきた人たちが高齢化で利用できなくなったとき、果たして移動手段を自転車や徒歩に切り替えるだろうか。実証実験を主導する金沢大学准教授の菅沼直樹氏は、自動車の利用者がそのほかの移動手段に切り替えるのは難しいとみる。金沢大学は新たな移動手段として自動運転車の完成度を高める実験を進めるとともに、市民に受け入れてもらうためのフィージビリティスタディを珠洲市で実施している形だ。