公道を使った自動運転車の走行は期間限定がほとんどで、日常的に実証実験が進む米国に比べると散発的な印象は否めない。ただし、例外もある。金沢大学が石川県珠洲市で実施中の実証実験だ。今回、筆者は金沢大学の自動運転車に同乗し、実際に珠洲市内での自動走行を体験することで期待値が高まる背景の一端を垣間見ることができた。

 自動運転車の実用について珠洲市の期待値が高まる背景には、同市が抱える課題への早期対応だけでなく、車両の完成度が着実に高まっていることがある。今回、筆者は金沢大学の自動運転車に同乗し、実際に珠洲市内での自動走行を体験することで期待値が高まる背景の一端を垣間見ることができた。

キーポイントは同乗者の安心感

 今回、同乗した自動運転車が走行したルートは、珠洲市役所のある市街地からスタートし、郊外にある珠洲ビーチホテルに至る約7.8kmの一般道の往復である(図1)。総延長距離が約60kmある実験ルートの一部であるが、対向車や歩行者と頻繁に遭遇する市街地から郊外までカバーし、走行環境は多岐にわたる。

図1●自動運転車の走行中の様子(動画)。行き先を設定すれば自動走行を始める(撮影:日経BP総研クリーンテックラボ)

 走行する道路は片側1車線で、歩道が完備された幅員の十分にあるところもあれば、ガードレールがあるだけの狭いところもある。ガードレールがなく、路肩に側溝がある箇所もある。信号機のある交差点や信号機のない交差点での右左折、見通しの悪いT字路など、事故が起こりやすいような場所も当然含まれている。

 なお、公道走行実験については、金沢大学から石川県警に対して公道実験の詳細、例えば誰が運転席に座るか、走行するルートはどこか、走行するおおよその時間帯などを連絡してある。警察庁による「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」に沿ったものだ。

 走行時の天候は晴れ。路面はドライ状態である。金沢大学の菅沼氏によれば、雨天でも自動走行に問題はないという。ただし、ゲリラ豪雨や台風のような激しい降雨のときや、路面に大きな水たまりが多数あったりするときには走行実験を中止することがある。雨粒をセンサーが障害物と誤認識したり、対向車などが水たまりから跳ね上げた水滴を誤認識したりといった可能性があるからだ。

 同乗時に行った実験内容は大きく2つ。1つは、季節によって変わる道路環境でのデータ取得である。走行ルートは従来と変わらないが、季節によって路肩や道路近傍の草木の茂りが変わる。そのため、こうした変化を車両に取り付けたセンサーがどのように検知して車両を制御したのかを確認する必要がある。

 もう1つは、新型車両のチューニング用データの取得である。同乗した自動運転車は、金沢大学が2018年4月から投入した新型の実験車両。トヨタの大型ミニバン「アルファード」をベースに、金沢大学が開発した自動運転システムを組み込んだ(図2)。同システムは、小型車「プリウス」をベースにした以前の実験車両で用いてきた技術を踏襲したものだが、新型の試験車両は車体が大きく、重く、かつ形状が変わったため、センサーの取り付け位置や車両の“走る・曲がる・止まる”といった動作制御をチューニングする必要がある。

 新型の実験車両を投入した当初はセンサーの検知距離が以前の実験車に比べて短く、センサーのチューニングが欠かせない。同乗時には、こうしたチューニングのためのデータ取りをしていた。取得したデータは金沢大学に持ち帰って解析し、自動運転システムのブラッシュアップに生かす。

図2●自動運転システムのコンピューターは荷室部に搭載。コンピューターは合計3台あり、うち1台はGPUを搭載するNVIDIA製 車載AIコンピューター「DRIVE PX 2」。これは、サイドミラーに設置したカメラからの画像データから物体を検知するために使う。なお、今回試乗した段階ではサイドミラーのカメラシステムは用いていなかった。残り2台のコンピューターは、自動運転のメインの処理を実行。コンピューターのスペックは、市場に出回るデスクトップPC程度とし、特殊な品種ではないとする。負荷に応じて、1台利用と2台利用を選択。今回試乗した珠洲市での走行では1台で済む(撮影:日経BP総研クリーンテックラボ)
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 なお、金沢大学の自動運転システムは、1998年に研究に着手したときから着々と積み上げてきた技術で、具体的には非専用道路での自律走行が可能な認識能力や安全かつ自然な走行を可能とする判断能力などをつぎ込んだものである。