政令指定都市ながら課題となる人口流出

 兵庫県の南部に位置する神戸市は、県庁所在地として人口約152万人(2020年6月現在)を有する政令指定都市である。もともとは神戸港を中心とする港町として栄え、戦後の高度経済成長期までは東京や横浜、名古屋、大阪、京都とともに六大都市と呼ばれていたが、近年では札幌や福岡に人口を追い抜かれている。とはいえ、今なお全国有数の経済都市であり、貿易や鉄鋼、造船、観光などの産業を中心に、ファッションや医療、食料品などの産業も盛んである。

 一方で、神戸市においても高齢化による人口減が進み、神戸創生戦略における将来推計人口では、国が目標とする出生率を実現した場合でも、神戸市の人口は2015年の約154万人から2060年には約134.9万人まで減少すると推計されている。同市では1995年の阪神・淡路大震災によって神戸港の一部機能が他の都市に移ったり、工場や事業所が移転や閉鎖したりすることで、それらの産業に関わっていた市民が他都市に流れていくという一時的な人口流出があった。2012年以降は死亡率が出生率を上回る自然減が社会増に比べて大きくなり、人口減を加速させている。

 今回、実証実験が行われた東有野台団地や秋葉台団地といったエリアは、臨海部で発達した産業を担う働き手のために、50年ほど前に神戸市が内陸の山側に造成を続けてきたニュータウンの一部である(図4)。それぞれ神戸電鉄沿線の駅周辺に作られ、東有野台エリアは一部低層の集合住宅があるが基本は戸建てが中心となっており、秋葉台エリアは戸建てと集合住宅が混在している。当時の30~40代の世帯が終の棲家として購入したが、成人した子どもが町を出て行っても親は住み続けることから、他の地域よりも早く人口減少や高齢化が進んでいる。現在、両エリアの高齢化率は4割を超えており、神戸市の平均約27%に比べてもかなり高い。

(図4)実証実験が行われたエリア(資料提供:神戸市)
(図4)実証実験が行われたエリア(資料提供:神戸市)
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 神戸市では従来から、郊外の住宅団地に対しては駅周辺に商業施設を置き、さらにセンター機能として団地の中心部に飲食店や小売店などを配置していた。しかし、近年の人口減と高齢化によって利用者が減少し、それらの施設の維持が難しく、小規模スーパーなどの店舗が撤退せざるを得ない状況になっている。

 こうした住宅地では通勤は電車を利用していても、買い物や日常生活での移動では車の利用が中心になる。しかし、運転免許証の返納を考えている高齢者がバスを利用したいと思っても、すでに人口減によって路線が減少している。また、山間部を走っている神戸電鉄の駅は谷筋にあり、周辺の高台に作られた住宅からだと駅に行く時は下りだが、帰る時は上り坂になってしまう。そういった地形の特性から、高齢者が鉄道を利用して買い物に行くのも楽ではない。いわゆる“移動弱者”となる高齢者が増えてきていた。

 神戸市では、こうしたニュータウンエリアの住民からの、生活利便施設の設置やモビリティ支援などの要望を受け、地域公共交通をどう維持していくのかなどについて検討していた。一方で今年になって、コロナ禍の影響を受けて売り上げが落ち込んでいる飲食店舗から、日本移動販売協会を通じて、人が集まっているエリアにキッチンカーで出店したいという事業提案を受けた。

 そこで、キッチンカーを積極的に活用して飲食店を住宅地に持っていけば、在宅する家族によって家事負担が増えた主婦を支援できるし、移動に伴う住民のウイルス感染の危険性も抑えられる。さらに、市内の飲食店に対しての売り上げ支援にもなることから、神戸市が主体となってキッチンカーによる事業を進めることにした。