新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって町の様子が様変わりし、これまでは考えられなかったさまざまな課題の解決が新たに求められるようになってきた。神戸市は、そうしたコロナ禍による経済と郊外での不便さの課題を同時に解決しようと、飲食店が不足している郊外の住宅団地でキッチンカーを活用する「住宅団地へのキッチンカー提供実験」を行った。9月には第2弾も予定している。

 日本ではコロナ禍による緊急事態宣言の発令による外出自粛の影響で、通常だと昼間人口が少なくなる郊外のニュータウンのような団地でも昼間人口が増えた。一方で、昼間人口が激減した都心では飲食店の売り上げが大きく落ち込んでしまい、経営が厳しい状況になっている。そこで、神戸市は飲食店と家庭、地域支援策の1つとして郊外の住宅団地の市有地を利用してキッチンカーを提供する、飲食サービスの実証実験を行った(図1)。

(図1)実証実験で期待できる効果(資料提供:神戸市)
(図1)実証実験で期待できる効果(資料提供:神戸市)
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人ではなくて店舗が移動

 キッチンカーは、神戸市北区の東有野台団地内の市所有地と、同市西区の秋葉台団地内にある公園に設置された(写真1、2)。両エリアは都市計画における第一種低層住居専用地域で、本来は一定規模の店舗が制限されているが、それぞれの場所に3台のキッチンカーを設置し11時から19時まで営業した。実証実験の期間は5月7日から20日までの2週間だったが、4月末から準備を行い、ゴールデンウィーク明けから2週間の期間を設定したところ、偶然、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言の期間と日程が一致したという。

(写真1)キッチンカーが設置された東有野台中公園西隣の市所有地での様子(写真提供:神戸市)
(写真1)キッチンカーが設置された東有野台中公園西隣の市所有地での様子(写真提供:神戸市)
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(写真2)キッチンカーが設置された秋葉台団地内の公園での様子(写真提供:神戸市)
(写真2)キッチンカーが設置された秋葉台団地内の公園での様子(写真提供:神戸市)
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 神戸市では今回の取り組みにおいて、キッチンカーで出店する市内の飲食店に対しては、キッチンカーのレンタル費と市有地の使用などに関わる費用を無償とし、準備費用の一部を助成した。また利用者への支援として、購入時にアンケートに協力した場合は、100円分の割引を神戸市が負担した。

新型コロナ対策を講じ、26店舗が参加

(図2)新型コロナウイルス感染予防のための主な対策(資料提供:神戸市)
(図2)新型コロナウイルス感染予防のための主な対策(資料提供:神戸市)
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(図3)秋葉台団地におけるキッチンカーの出店スケジュール(資料提供:神戸市)
(図3)秋葉台団地におけるキッチンカーの出店スケジュール(資料提供:神戸市)
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 緊急事態宣言下での安全面での取り組み(図2)としては、各店舗に対して衛生管理対策としてマスクやゴム手袋の着用に加えて、来店者用のアルコールスプレーの設置、車内の定期的な清掃や消毒を依頼。利用者に対しては、アルコール飲料は提供せず、敷地内での飲食も禁止とした。その他、購入時に列に並ぶ際には2メートルの間隔を空けるなどの3密対策については、神戸市の職員が現地で対応した。

 実証実験では、神戸市が店舗の出店者調整を日本移動販売協会に委託。今回は緊急対応として、1週間程度で出店の準備ができ、需要がまだ不明確な中で赤字も覚悟して欲しいという条件で、同市内にある和食店やステーキ料理店、フレンチバルなど6店舗から応募があり出店を調整できた。ただ、それだけでは料理のメニューを豊富にできないので、通常からキッチンカーで営業している20店舗にも参加してもらった(図3)。

 神戸市は日本移動販売協会に対して、現場管理や出店者の調整、キッチンカーの手配や営業許可の取得などの事業を委託した。委託金額は2週間で1カ所100万円となり、2カ所合わせて200万円となった。

政令指定都市ながら課題となる人口流出

 兵庫県の南部に位置する神戸市は、県庁所在地として人口約152万人(2020年6月現在)を有する政令指定都市である。もともとは神戸港を中心とする港町として栄え、戦後の高度経済成長期までは東京や横浜、名古屋、大阪、京都とともに六大都市と呼ばれていたが、近年では札幌や福岡に人口を追い抜かれている。とはいえ、今なお全国有数の経済都市であり、貿易や鉄鋼、造船、観光などの産業を中心に、ファッションや医療、食料品などの産業も盛んである。

 一方で、神戸市においても高齢化による人口減が進み、神戸創生戦略における将来推計人口では、国が目標とする出生率を実現した場合でも、神戸市の人口は2015年の約154万人から2060年には約134.9万人まで減少すると推計されている。同市では1995年の阪神・淡路大震災によって神戸港の一部機能が他の都市に移ったり、工場や事業所が移転や閉鎖したりすることで、それらの産業に関わっていた市民が他都市に流れていくという一時的な人口流出があった。2012年以降は死亡率が出生率を上回る自然減が社会増に比べて大きくなり、人口減を加速させている。

 今回、実証実験が行われた東有野台団地や秋葉台団地といったエリアは、臨海部で発達した産業を担う働き手のために、50年ほど前に神戸市が内陸の山側に造成を続けてきたニュータウンの一部である(図4)。それぞれ神戸電鉄沿線の駅周辺に作られ、東有野台エリアは一部低層の集合住宅があるが基本は戸建てが中心となっており、秋葉台エリアは戸建てと集合住宅が混在している。当時の30~40代の世帯が終の棲家として購入したが、成人した子どもが町を出て行っても親は住み続けることから、他の地域よりも早く人口減少や高齢化が進んでいる。現在、両エリアの高齢化率は4割を超えており、神戸市の平均約27%に比べてもかなり高い。

(図4)実証実験が行われたエリア(資料提供:神戸市)
(図4)実証実験が行われたエリア(資料提供:神戸市)
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 神戸市では従来から、郊外の住宅団地に対しては駅周辺に商業施設を置き、さらにセンター機能として団地の中心部に飲食店や小売店などを配置していた。しかし、近年の人口減と高齢化によって利用者が減少し、それらの施設の維持が難しく、小規模スーパーなどの店舗が撤退せざるを得ない状況になっている。

 こうした住宅地では通勤は電車を利用していても、買い物や日常生活での移動では車の利用が中心になる。しかし、運転免許証の返納を考えている高齢者がバスを利用したいと思っても、すでに人口減によって路線が減少している。また、山間部を走っている神戸電鉄の駅は谷筋にあり、周辺の高台に作られた住宅からだと駅に行く時は下りだが、帰る時は上り坂になってしまう。そういった地形の特性から、高齢者が鉄道を利用して買い物に行くのも楽ではない。いわゆる“移動弱者”となる高齢者が増えてきていた。

 神戸市では、こうしたニュータウンエリアの住民からの、生活利便施設の設置やモビリティ支援などの要望を受け、地域公共交通をどう維持していくのかなどについて検討していた。一方で今年になって、コロナ禍の影響を受けて売り上げが落ち込んでいる飲食店舗から、日本移動販売協会を通じて、人が集まっているエリアにキッチンカーで出店したいという事業提案を受けた。

 そこで、キッチンカーを積極的に活用して飲食店を住宅地に持っていけば、在宅する家族によって家事負担が増えた主婦を支援できるし、移動に伴う住民のウイルス感染の危険性も抑えられる。さらに、市内の飲食店に対しての売り上げ支援にもなることから、神戸市が主体となってキッチンカーによる事業を進めることにした。

利用者の反応は良好

 キッチンカーの利用者に対して神戸市が実施したアンケートは、2週間で4912枚を回収できた。利用者の傾向としては東有野台、秋葉台ともに約6割が女性で、年齢層は両エリアともに60代以上が約3割を占めているが、全体的に幅広い世代が利用している(図5、6)。女性の利用が多かったという結果について、神戸市都市局都市計画課係長の乃口智栄氏は、「現地で見ていると家族で来る利用者も目立ち、その場合は主婦が会計することが多いので、アンケートにはある程度偏りがありそうだ」とみている。

(図5)利用者の性別(資料提供:神戸市)
(図5)利用者の性別(資料提供:神戸市)
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(図6)利用者の年齢層(資料提供:神戸市)
(図6)利用者の年齢層(資料提供:神戸市)
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 利用者の居住エリアについては、それぞれのエリアの地元や周辺地域から来た利用者が約7割くらいだが、約2割がそれ以外の地域からの利用となっている(図7)。この結果については、「新聞やテレビの報道で取り上げられたことが理由であるとみている」(乃口氏)。神戸市としては徒歩や自転車での利用を想定していたが、遠方からの利用者は自家用車を使ってやってきたと見られ、「住宅地の中なので駐車場の設備がなく、路上駐車対策が課題として残った」(乃口氏)。

(図7)利用者の居住地(資料提供:神戸市)
(図7)利用者の居住地(資料提供:神戸市)
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 キッチンカーで料理を購入した利用者の満足度はどちらのエリアも高く、「大変良い」もしくは「良い」と答えた人が99%となった(図8)。また、今後もキッチンカーを利用したいとの回答も9割を超える結果となっている。

(図8)キッチンカーを利用した満足度(資料提供:神戸市)
(図8)キッチンカーを利用した満足度(資料提供:神戸市)
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 飲食店の必要性については、どちらのエリアも「付近に飲食店が必要」という思いを持つ回答が多く、飲食店以外で必要と感じる施設に関しては、一番多いのが両エリアとも「パン屋」となり、それ以外では「コンビニエンスストア」や「小規模スーパー」「喫茶店」などが続いている。

 今後のキッチンカーの取り組みについても「必要」という意見が両エリアとも9割を占め、その際に実現して欲しい要望としては、「駐車場が欲しい」「注文してからもっと早く商品が受け取れる工夫をして欲しい」「野菜の移動販売もやって欲しい」などがあった。

 一方、出店した店舗に対するヒアリングでは、「キッチンカーで営業場所を移せたことが大変ありがたい」「キッチンカーの購入を検討しているが、実際のオペレーションにいい経験になった」「住宅団地なので利用者も少ないと思って出店したが、予想を大きく上回る来店で飲食店の可能性が再認識できた」など、参加して良かったという意見が多く見られた。また、実証実験の継続について「同じ場所で出店したい」など、団地に愛着を示した店舗もあった。

 取り組みを通しての気づきとしては、駐車場を要望する店舗から「駐車スペースがなくて周りに迷惑をかけるのも困る」といった意見があり、「住宅団地のニーズを把握しながら、駐車場をどうするのかを今後の課題と考えたい」(乃口氏)。他にも、出店した店舗から「他の店舗とメニューが被らないように考える必要がある」「実店舗との連携をどうするか考えなければならない」といった感想があった。

 さらに、住宅団地でのキッチンカー事業の可能性については、「可能性が大いにあると感じた」「最初は諸条件が悪いと思ったが、店舗が何もない地域だからこそ強いニーズを感じた」などの意見があった。

 新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言は一旦解除されているが、従来通りには繁華街の賑いが戻らないことも考えられる。アフターコロナ/withコロナ時代への対応を考えていく中で、「店舗側も自らの経営形態を考えるツールの1つとして、キッチンカーを積極的に検討し始めたようだ」(乃口氏)。

9月からキッチンカー事業の第2弾も

 神⼾市は、今回のキッチンカーに対するニーズは、緊急事態宣⾔が出ていた状況下での特徴的な需要だったかもしれないともみている。しかし、もともと飲食店が少なく利便性に課題のあるエリアでは、もう少し状況を見ながら地域のニーズを見極める必要があると考え、9月から再度キッチンカーによる実証実験を開始する。

 キッチンカーを出店する場所については、基本的には5月に実証実験を行ったエリアと同様に、「UberEATSや出前館のような飲食宅配サービスの提供が不十分、かつスーパーやコンビニから500m 以上離れたエリアの中で、ある程度住宅が密集している場所を選ぶ」(乃口氏)とし、市内の6カ所の住宅団地(多聞台、美穂が丘、秋葉台、君影町、中里町、東有野台)を選定している。期間も拡大し、9月から12月末までの4カ月間実施する。ただし、その間毎日出店するのではなく、1カ所当たり月に6回程度の実施を検討。毎週曜日を決めて、平日週1回プラス土日は隔週で1回といった計画を考えている。

 次回の実証実験を実施する団地のほとんどは、すでに団地内に移動販売車が営業していることから、キッチンカーと移動販売車の連携も想定している。そのため、「既存の移動販売車が出店している場所に、キッチンカーを出店する」、もしくは「キッチンカーが出店する場所に、移動販売車の出店場所を増やしてもらう」という調整をしている。ただし、移動販売車は1日のうち30分程度の営業となるので、「キッチンカーが営業している時間帯の一部のみ、移動販売車が併設されている状態になる」(乃口氏)。

 また、9月からの実証実験では、レンタルキッチンカーを貸与する市内飲食店を広く公募する。選定基準は「必要な管理体制」「継続して飲食事業を行う意欲」「住宅団地のニーズに合致するメニューやコンセプト」「資金計画」など。応募者多数の場合は、市内在住者を優先する。市内飲食店の公募は7月22日にスタートし、8月下旬までに参加店舗を決定して9月1日から事業を開始する(図9)。

(図9)事業者選定スケジュール(資料提供:神戸市)
(図9)事業者選定スケジュール(資料提供:神戸市)
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 9月の実証実験においてレンタルキッチンカーの手配、出店者の選定、現場管理、アンケートの実施などを行う運営事業者は、モビリティを活用したランチスペース事業やイベント事業を提供しているMellowを公募で選定。神戸市が約1400万円で業務委託する。

 他にも、5 月の実証実験では無料だった出店料として、出店者(市内飲食店舗、キッチンカー事業者ともに)から売り上げの10%(12月は7%)を徴収する予定だ。これは、郊外の住宅団地でのキッチンカーの出店を、単に実証実験やイベントとして終わらせるのではなく、「将来的に持続可能なスキームに落とし込んでいくために、採算性が成り立つかどうかを検証するため」(乃口氏)である。

 営業時間についても、5月の実証実験での来客状況を踏まえ、ピーク時間帯の11~14時と、16~18時とする方向で調整中。「飲食店やキッチンカー事業者が、実店舗や他の場所での出店などと両立させることを配慮して検討している」(乃口氏)。

 9月の実証実験でも、ニュータウンや郊外の住宅団地の利便性向上を目的に、将来そこに飲食店や生活利便機能を誘致する際に、店舗のような固定型がいいのか、移動型がいいのかのなどを検討していく。「土地に定着しない形を含めてどういった営業形態を団地が求めているのかを見極めていく」(乃口氏)という。

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