少子高齢化が深刻な地方では、今や公共交通の維持は喫緊の課題だ。この問題は早晩、大都市郊外のベッドタウンにも押し寄せるとみられており、やがて日本全体を見舞う大きな課題になりかねない。この課題を解決すべく、公立はこだて未来大学発のベンチャー、未来シェア(北海道函館市)は、前橋市や函館市など各地で自動配車システムの実証を重ねている。

 公共的な交通手段が抱える危機を解決する手段として、ライドシェアの活用や自動運転車の導入に期待が集まる。だが、導入の道のりは平たんではない。前者は既存の交通手段との競合が懸念される。急いで投入したところで、既存のバス事業やタクシー事業を苦境に立たせてしまえば、公共的な交通手段の事業危機をかえって深刻化させてしまう。後者に至っては、自動運転車が登場するとみられるのは2020年以降であり、公共交通に利用できるのはまだ先。普通の暮らしの“足”になるまでには時間を要する。移動手段が細ってくるのは現在進行形の問題であり、自動運転車の登場を待っていられない。

 だが、八方塞がりというわけではなく、解決の糸口はある。その好例が、公立はこだて未来大学発のベンチャーである未来シェア(北海道函館市)が手掛ける、完全自動配車システム「SAVS(Smart Access Vehicle Service)」だ。SAVSは、人工知能(AI)を活用した配車アルゴリズムによって、利用者の需要に応じて乗り合い車両を効率的に走行させるというシステムだ(図1)。複数のデマンド(利用者による乗車の要求)に対し、乗車地と下車地を効率よく走行ルートに取り込む組み合わせの最適化にAIを使う。

図1●SAVSのシステム概要(出所:未来シェア)
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大都市内から過疎地の交通まで対応可能

 SAVSは、空車や空席率が高い状態で走行する車両をなくしつつ、乗車の需要のあるところに車両を配車できるのが特徴だ。配車する車両には、タクシーやバスといった既存の公共交通手段を活用できる。乗りたい場所で車両に乗車でき、かつ車両に乗車するまでの待ち時間を短くできるので、利用者にとっての利便性が高い(図2)。

図2●SAVSの特徴例(出所:未来シェア)
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図3●未来シェアの松舘氏(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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 同時に、SAVSは車両の稼働率を高めることが可能なため、必要最小限の車両を運行できるので、公共交通の事業者にとっては採算性を確保しやすいメリットがあると考えられる。大都市内の交通手段に適用できるだけでなく、過疎化が進んだために路線バスが廃止されたり、コミュニティーバスの運営が行き詰まっていたりする地域からも注目を集めており「公共交通の維持や確保に困っているところから、当社に助けを求める声も多い」(未来シェア 代表取締役の松舘渉氏)という(図3)。

 乗用の車両だけでなく、SAVSは荷物などの配送車も配車可能である。そのため、物流の最適化も図れる。SAVSの指示に従って配車できる車両であれば取り扱えるため、自動運転車との相性も高い。将来、ドライバー不足が生じたとき、有人車両不足が生じた分、自動運転車に切り替えて併用するといったことが可能だ。

実現形態はタクシー、バス、送迎サービスの3タイプ

 未来シェアはSAVSの実用化に向け、日本各地で実証実験などを進める。直近では、前橋市における交通課題の解決を目指した調査・研究に着手した。前橋市内のバスやタクシー、自家用車の利用状況に関するデータを基に、SAVSを使う場合の市民の移動状況をシミュレーションし、例えば、市民の高齢化が進んだときに自家用車を運転できなくなった高齢者の移動を、どれくらいの車両があれば公共交通で効率的に賄えるかなどを確認する(*1)。

*1 前橋市とNTTドコモは、ICTを活用したまちづくりを推進し、住民の利便性向上を目的とした連携協定を2018年5月10日に締結。その一環として、NTTドコモと未来シェアが共同開発しているモビリティサービスプラットフォームを活用した実証実験など、AIを活用した地域交通網の導入方針案を2018年秋ごろまでに作成する予定

 未来シェアは、SAVSで実現するサービスを「乗り合いタクシー」「乗り合いバス」「乗り合い送迎サービス」の大きく3タイプに分けて検討している。

 乗り合いタクシーのタイプは、リアルタイムな乗車希望に対して車両を即時配車するというもの。配車済みの車両の空き座席を乗り合いに活用する。自宅から最寄り駅までの近距離移動や観光地・商業施設間の移動、高齢者の“足”として機能するドアツードアの移動といった、ラストワンマイルのサービスを想定したものだ。

 乗り合いバスのタイプは、ルートや時間を固定しない送迎サービスである。現行の送迎バスや路線バスは路線が決まっており、時刻表に沿って運行するのに対し、乗り合いバスのタイプは、バス停はあるが路線や時刻表はない。利用者の「乗車したい」というデマンドに応じて、送迎バスを運行させる。利用者が増えれば増えるほどバス停が増えていき、やがてドアツードアに近い形になるだろう。利用する場合、利用者はスマートフォンのアプリを使って乗車と下車地の要求を出すことになる。

 スマホを使えない人に向けて、コールセンターを設けたり、スマホを使わずに呼び出しや行き先などを簡便に入力できるデバイスを使ったりすることも想定する。なお、乗り合いバスのタイプについて、未来シェアはNTTドコモと組む。未来シェアのSAVSとNTTドコモのリアルタイム移動需要予測の技術を組み合わせ、NTTドコモが開発してきた「AI運行バス」のさらなる高度化を図る。

 乗り合い送迎サービスのタイプは、事前予約で乗り合いの送迎車両を配車するというもの。例えば、空港と自宅の間でのドアツードアの送迎や、病院やデイケアなどの送迎などを想定する。現状では、乗り合いで送迎するとき、どの順番で利用者をピックアップして移動し、下車させていくか、どのルートを通るかなどについては、ドライバーの“勘”に頼っている。SAVSを使えば、送迎に必要な台数やルート、乗車・下車の順番を事前に把握できるので、“勘”が効かない経験の浅いドライバーでもプロ並みの配車が可能になるというわけだ。

 病院やデイケアなどの施設では、それぞれが独自に送迎車両を運行している場合がほとんどだろう。こうした状況は、地域全体で見れば路線が被るなど無駄が多い。しかもドライバー不足のため、送迎バスの運行が難しい施設もあるようだ。これらの送迎車両を可能な限り共用することとし、すべてAIで配車すれば、効率が上がるというのが未来シェアの考えである。

函館市内などで実証実験、インバウンド観光にも試用

 未来シェアの設立は2016年7月とわずか2年前。だが、SAVSの開発は2001年まで遡る。当時、産業技術総合研究所で研究に着手したオンデマンドバス配車シミュレーションが原点である。研究テーマはその後、公立はこだて未来大学に引き継がれ、2013年には函館市内で実際の道路網と車両を使ったSAVSの実証実験を始めた。

 2015年には、人工知能学会が函館市内で開催されたときに合わせ、4日間におよぶ大規模実証実験を行った(図4)。ここでは約12km四方の市街地内で、タクシー車両30台をSAVSを使って自動配車させた。実験には学会参加者を中心とした約300組が参加し、4日間の期間中に500件以上の乗車要求(デマンド)を処理したという。前述した乗り合いタクシーのタイプでの実証実験となる。

図4●2015年に函館市で実施した実証実験の概要(出所:未来シェア)
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 2016年の未来シェア設立以降は、日本各地で実証実験を進める。各実証実験にはそれぞれテーマを決めて意義付けし、SAVSが各種用途に対応できることを確認している。

 例えば、2016年12月には東京の臨海副都心エリアであるお台場で、デマンドが集中的に発生したときに過密な乗り合いの運行にSAVSが対応できるかどうかを実証した。7人乗りのミニバンを乗り合い車両として用意し、モニター40組に参加してもらい、2km四方の狭い領域で積極的に乗り合い車両を移動に利用してもらった。この実験で1時間当たり40デマンドの処理に対応できたという。

 2017年には、観光客の移動を想定した実証実験を長野県の諏訪エリアや鳥取県境港市で実施した。諏訪エリアは、DMO(観光物件や自然、食、芸術・芸能などに精通し、地域と協同で観光地づくりを行う法人)との協力を想定したもの。タクシー9台を乗り合い車両として使い、20組40人のモニターが参加する形で7km四方の地域で配車した。諏訪湖付近の6つの地方自治体にわたる領域内で、観光客がオンデマンドで移動することを念頭に置いた。

 境港市での実証実験は、インバウンドの観光需要を想定したもの(図5)。外国人のクルーズ船客と日本人ドライバーのタクシーとの間で、オンデマンドでの移動が支障なく実現できるかを確認した。結果的には、スマホで行き先や乗車位置を設定すれば、言葉の壁は支障がないことが分かった。6台の乗り合い車両を使い、外国籍のモニター20組50人が参加。利用者が配車を要求するナビゲーションアプリには英語版を用いた。旅行サービスに紐づくサービスを想定していることから、JTB中国四国と協力し、中国運輸局・山陰インバウンド機構から受託する形で実証実験を行った。

図5●境港市での実証実験の概要(出所:未来シェア)
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 日本各地の港ではクルーズ船の誘致を積極的に進めているものの、「港の周囲を観光するクルーズ船客の移動の“足”がないことが課題。課題の解決策として、SAVSが生かせる」(未来シェアの松舘氏)。今後もクルーズ船客を対象とした、インバウンドの観光需要に向けた実証実験を継続する予定という。

 2018年になると、例えば住宅地や病院が多数ある名古屋市東部において、タクシーが暮らしの足として定着できるかどうかを確認することを狙って実証実験をした。つばめタクシーと協力してタクシー車両を含む30台の乗り合い車両を用意。273人がモニターとして参加し、22日間にわたって実験した。当初、自家用車が使えない人や、バスで移動するには体調面で不安な人などの利用を想定していたが、実際にはビジネス利用が最も多かったという。利用者の声としては、料金が安いこと、そして、事前に料金が分かったことへの評価が高かったという。

 各地での実証実験を経て今、未来シェアが検証する対象はより大きな規模になろうとしている。それが前述した前橋市での取り組みである。超高齢社会に向けて、都市での高齢者の移動を自家用車から乗り合い車両にシフトさせる取り組みに着手した。

SAVS実用の最大の課題は、既存事業者の理解

 前橋市では、市民の移動に自家用車は欠かせない。まさに自動車社会である。その自動車社会で、自家用車の利用を控えねばならない状況になる可能性が出てきた。市民の高齢化が進んだため、高齢者の事故が増えつつあるからだ。自家用車で移動する高齢者が増え続けると、事故増加が止まらなくなると懸念されている。こうした課題の解決策として候補に挙がるのが、市民の移動手段を自家用車から公共交通にシフトさせること。そのシフトを効率的に進めるために白羽の矢が立ったのがSAVSの利用である。

 ただ、SAVSで配車する車両を前橋市内に投入しようとすると、既存の公共交通の担い手であるバス会社やタクシー会社の反発や懸念が起こりかねない。一人当たりの利用料金の低額化などで、事業環境が悪化するのではないかと心配するからだ。そうした懸念を払拭し、バス会社やタクシー会社と協力しつつ市民のモーダルシフトを進めるべく、未来シェアは実地データを用いた精緻なシミュレーションを実施している。具体的な数値を示しながら、既存の公共交通手段の活用が欠かせないことを公共交通事業者に示し、理解を得たい考えである。

 シミュレーションには、アンケート形式で収集したパーソントリップデータを用いた。パーソントリップデータとは、人が移動する際の出発地と到着地などをまとめたものである。未来シェアによれば、前橋市内での人の移動のうち、65歳以上の高齢者で公共交通手段を使う人は1日で合計600〜700トリップ(*2)だったのに対し、65歳以上の高齢者で自家用車を使う人は1日で合計1万7000トリップと桁違いに多く、圧倒的に自家用車の利用で占められていることが分かるという。

*2 トリップ=人がある目的のために、ある地点から別の地点に移動する単位

 そこで、未来シェアは、自家用車による高齢者の移動をどのくらいの乗り合い車両で賄えるのかをシミュレーションしてみた。SAVSで自動配車する乗り合い車両を90台とし、利用者の待ち時間は最長10分まで許容できるとすると、65歳以上の自家用車利用者の2%が公共交通利用にシフトするまでは待ち時間は10分程度内に収まることが分かった。だが、1ポイント増えて3%が公共交通利用に移動しただけで、待ち時間は20分を超える。さらに5%になると平均待ち時間は50分にもなってしまうという結果が出た(図6)。

図6●前橋市におけるSAVS利用を想定したシミュレーション例(出所:未来シェア)
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 前橋市内でタクシーは合計220〜230台あるとされ、これらを全て乗り合い車両としてSAVSで自動配車しても、自家用車を利用する65歳以上の高齢者の公共交通シフトは賄えない。つまり、公共交通シフトに要するタクシー車両数は現時点で圧倒的に不足しており、乗り合いでタクシーを利用する人が増えても、トータルでのタクシーの配車回数が減ることはない。乗り合いによるタクシー利用は、タクシー会社の事業を圧迫するものではないことを示している。こうした数字を示していくことで、未来シェアは乗り合い車両に拒否感があるタクシー会社の翻意を促していくという。

過疎地、観光地にも可能性

 未来シェアでは、乗り合い車両が社会課題の解決につながるとの理解は広まりつつあるとみる。これまでの実証実験やシミュレーションからは、「乗り合い車両の利用頻度が高くなるので、タクシー会社にとって事業拡大のチャンスでもある」ということも明らかになってきた。だが、未来シェアによれば、「チャンス」と捉えるタクシー会社はまだまだ少数派という。

 こうした状況を打破するには、「実例を示していくのが早道」(松舘氏)。幸い、前橋市の場合は、市がSAVSの利用に積極的であることから、実用化への期待がかかる。さらに、実際に効果を目に見える形で明らかにすることで、フォロワーが次々に出てくることも考えられる。

 また、前橋市のような都市化された自治体だけでなく、状況打破の突破口は地方の過疎地にもあると未来シェアでは考えている。

 SAVSの普及には、公共交通事業者による反発や懸念と並ぶもう1つの大きな障壁として、法制度がある。「タクシーは貸し切りに限る」「乗り合いはバスに限る」というのが原則だからだ。各地にある地域公共交通会議の承諾があれば乗り合いタクシーの運行は可能になるものの、現状で乗り合いタクシーが認められているのは、過疎化などによって公共交通が乏しい地域に限られている。逆に言えば、過疎地域はSAVS利用の下地が整っているといえる状況なのだ。

 さらに未来シェアは、観光用途にも突破口があるとみる。前述した観光客の移動を想定した実証実験のように、旅行商品に含まれる移動ツールとして、タクシーを乗り合いで使うというものだ。タクシーの利用は旅行商品の中に含まれるという立て付けであり、移動するごとに費用、つまり運賃は発生しない。このため、一般的なタクシー運行とは異なるので現行の法制度で実現できるという。乗り合いタクシーの稼働率の高さや移動要求(デマンド)の多さを立証すれば、「地域のタクシー会社の認識が変わるはず」(松舘氏)。

本当のMaaSはその先にある

 この旅行商品に付随した移動ツールとしての乗り合い車両の利用は、今後のMaaS(mobility as a service)を考えていく上で、重要なカギが含まれている。乗り合い車両の利用はそれ自体が目的ではなく、観光するための手段にすぎないということだ。現在のMaaSは移動自体をサービスと捉えており、移動自体で事業を成り立たせようとしている。MaaSは本当にそれだけか。

 本来、人が移動するのは移動自体が目的ではなく、「何かするために移動するはず」(松舘氏)。そう考えると、MaaSの次のフェーズは、目的と移動をセットにしたサービスの開発にありそうだ。例えば、観光ツアーに付随した移動、病院への通院に付随した移動など、交通が付いているサービスと位置づけ、移動自体で料金を取るのではなく、目的を成し遂げるサービス全体で料金を設定するという考え方になる。未来シェアは、こうした目的と移動をセットにしたサービス開発を有望視しているという。

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