現在、日本において有人島(住民基本台帳に人口登録がなされている島)として数えられている離島は、300島以上あるといわれている(2018年4月現在)。高齢化による人口減少が深刻化している島も多いが、一方で、自然や独自の風習が残る観光地として海外から注目され、インバウンドが急増しているケースも多い。人口減少と観光客増加によるモビリティの課題はどこにあるのか。昭和の時代には、映画化もされた小説「二十四の瞳」の舞台として注目され、最近では瀬戸内国際芸術祭で注目を浴びている香川県の小豆島から、離島が抱えるモビリティの課題を探ってみた。

 瀬戸内海に浮かぶ小豆島は瀬戸内海国立公園の中心として、約170km2の面積を持つ日本で19番目に大きな島である。20島ほどの属島を含め、人口は約2万8000人(2017年現在)。もともと3町で構成されていたが、平成の大合併によって土庄町と小豆島町の2町に整理された。両町は面積も人口もほぼ同じ規模だが、小豆島の玄関港は高松港にも近く島の西部に位置する土庄港になる(写真1・図1)。

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(写真1・図1)小豆島の玄関港となる土庄港は、高松港や新岡山港などと結ぶフェリーや高速艇によって、35分から1時間で本土と行き来できる(撮影:元田 光一)

運転免許証の自主返納で交通弱者に

 小豆島の人口構成を見てみると、高齢化による年齢構成の偏りや人口減少といった状況から、日本の未来が見える島とも言われている(図2)。小豆島には大学がないため、18歳になるとほとんどの若者が島を出てしまう。そうした若者たちは、卒業後も就職によってほとんどが東京や大阪などの都市圏に残るので、生産年齢人口の減少が深刻化している。

(図2)1947年にピークを迎えた小豆島と2008年にピークを迎えた日本の人口推移を比較すると、似たような傾向が一足早く見られる(出所:小豆島地域公共交通協議会が作成した四国運輸局セミナー資料)
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 モビリティの側面から見ても、高齢化が進むことによる課題が見えてきた。運転免許証を自主返納する島民が増え、交通弱者が増えつつあるのだ。

 四国新聞の調査によると、2017年における香川県内の65歳以上の運転免許自主返納率は、小豆島町が3.03%、土庄町が2.83%と県内で1、2位を争う高さだ。

 小豆島では1人1台の車所有が当たり前になっているが、運転免許証を返納した交通弱者が増えていく状況を踏まえ、高齢者の生活を支援する公共交通の充実が急務となっている。とはいえ、小豆島でもバスの運転手が高齢化によって既に不足している状況だ。どうやって公共交通の充実を図るのかが、モビリティにおける大きな課題となっている。

自治体と住民によるバス会社の設立

 この課題の解決を目指し、土庄町と小豆島町は共同で2009年に、公共交通の利便性の向上や公共交通空白地域の解消、持続可能な公共交通体系の構築などを目的とした「小豆島地域公共交通協議会」を設置。同年には、土庄町と小豆島町が半分出資し、残りは町民が出資したバス会社として小豆島オリーブバスも設立した。

 これによって、バスの運賃を大きく見直し、従来は遠方まで利用すると1100円を超えていた運賃を、一気に上限300円にまで下げた。また、フリーパス乗車券も従来の2000円から、半額の1000円に引き下げている。

 このような努力により、観光客も含めてバスの利用者は増加している。2016年3月には、小豆島全体の変革により学校や病院の統合が一気に進んだことから公共交通を全面的に見直し、バス路線の再編などを含む「小豆島地域公共交通網形成計画」を策定した。

実証実験から見えた自動運転の受容性

 公共交通としての小豆島オリーブバスでも、前述のようにバス運転手の確保が大きな課題になっている。その解決のためにも自動運転バスの導入が期待されているが、実際に大型の自動運転バスが公道を走るようになるにはまだ時間がかかるだろう。現時点では、将来的にどのように自動運転という技術を取り入れていくのかを、実証実験などを通じて検証していくことが重要である。

 2019年3月には、香川大学、明治大学、群馬大学の協力によって、「3大学自動運転公道実験@小豆島」が2日間開催された(図3)。実証実験の目的の1つは、小豆島における自動運転の受容性を明らかにすることだ。

(図3)島民に配られた「3大学自動運転公道実験@小豆島」の告知パンフレット
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 実験車両には群馬大学が自動運転用に改造したトヨタのミニバン「アルファード」が使用され、島民や観光客に小豆島の代表的な観光ポイントであるオリーブ公園とオリーブナビ小豆島の間(約700m)で自動運転を体験してもらった。最終的には、島民と観光客を合わせて224人が試乗している。

 今回の実証実験では、試乗後に「自動運転について」「小豆島特有のモビリティに関する問題について」という2つの項目でアンケート調査を行った。アンケートでは試乗した人の約80%が、「自動運転を公共交通に導入することに賛成」という結果が出た。

 また、アンケートでは、島外から来た観光客にも自由に回答してもらったが、「瀬戸内国際芸術祭の開催など明らかに人が多くなる時期も、バスは通常運行だったので不便だった」など、「島外からの観光客目線の公共交通」と「島外に出ない住民目線の公共交通」との間で、公共交通の役割について大きな認識の開きがあることが分かってきた(表1)。

(表1)3大学自動運転公道実験@小豆島でのアンケートから見られた、特徴的な島民の傾向
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 実証実験のアンケートとは別に、自動運転に関して島民や島内事業者などに電話インタビューを行った結果、「自動運転車に乗って何をしたいかなどの話を、島民と継続する場がない」「自動運転が公共交通に入っていく具体的なイメージが浮かばない」といった意見が出た。

 このようなアンケート結果や意見を受けた「小豆島プロジェクトの成果報告」の内容が、6月5日に東京都内で開催されたシンポジウム「自動運転とサイバーリスク〜香川・群馬・明治の3大学連合による小豆島実証実験をもとに〜−道交法におけるデータ記録のあり方−」で紹介された。同シンポジウムでは、「自動運転に対しては技術の受容性はあるが、それを用いた公共交通の受容性についてはまだ足りない」「自動運転を用いた公共交通の受容性向上には、継続的な努力が不可欠」と小豆島での実証実験の総括が行われた。

 さらに、「自動運転技術は信頼できるけど、マイカーの方が便利だから使わないと思う」といった意見があったことも紹介され、公共交通のあり方そのものを検討する必要性も示された。

離島のモビリティ充実にはMaaSの導入も重要

 土庄町企画課係長の笠井雅貴氏(写真2)は、小豆島のモビリティの充実を考える際には「島民の人口は減っているが、そこだけを考えて公共交通の課題解決を図るわけにはいかない。MaaSへの取り組みも重要だ」と語る。「島外からやって来る観光客をいかにスムーズに目的地に運べるか」という、インバウンドの増加に伴う課題も解決しなくてはならないからだ。

(写真2)土庄町企画課係長の三木千代和氏(左)と笠井雅貴氏(撮影:元田 光一)
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 インバウンドの移動を考えた場合、中国や台湾からの乗客が増えている高松空港から、いかにスムーズに小豆島に来てもらえるか。そして、小豆島内でいかにスムーズに観光地やホテルに移動できるかを考える必要がある。

 例えば、高松空港から高松港(写真3)まではリムジンバスが走っており、そこから船で土庄港に渡ればすぐにバスに乗れるようにするなど、すべての交通手段をシームレスにつなげる必要がある。「1つの公共交通ですべての移動を賄う方法を考えるよりも、複数の公共交通でいかにスムーズに乗り継ぎをさせるかが重要だ」(笠井氏)。

(写真3)小豆島と四国本土を結ぶ重要な拠点である高松港へは、髙松空港からリムジンバスで45分ほどかかる(撮影:元田 光一)
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 小豆島におけるMaaSには、観光客の間で利用が増えているシェアサイクルも組み込まれるかもしれない。

 小豆島から高松に通勤したり、逆の通勤パターンもあるなど、船も普段の島民の生活を支える足である海上交通は、観光産業の面から見ても重要だ。ところが、船とバスの連携にはシビアな課題がある。観光客が島内でバスに乗り切れずに船の時間に間に合わなかった場合には、その後の行動に大きく影響が出るからだ。

 例えば、高松港と土庄港を結ぶ航路として、航行時間が約60分のフェリーが15本/日、航行時間が約35分の高速艇が16本/日と本数は多いが、土庄港からの最終出港がそれぞれ20時10分と20時50分で、これに乗り遅れると代替交通手段がない(写真4)。島内の道路はほとんどが1車線なので、渋滞になるとタクシーを使ってもバスより早く着くことはできない。

(写真4)高松港と土庄港を結ぶフェリー(左)と高速艇(右)は、小豆島島民の生活の足になっているだけでなく、観光客にとっても貴重な交通手段(撮影:元田 光一)
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 そこで、最近では観光客によるシェアサイクルの利用が増えているという。土庄港とホテルとの間で荷物を運んでくれるサービスもあるので、船で到着後すぐに自転車に乗って手ぶらで観光ができる。帰りも、早いうちに荷物だけを土庄港まで運んでもらえば、渋滞を気にせずに自転車で島内を観光できるようになる。

課題はキャッシュレス・システムと通信インフラ

 MaaSを実現する場合、地域の交通事業者のキャッシュレス・システムの標準化が課題となる。そう語るのは土庄町企画課係長の三木千代和氏だ。

 「基本的にMaaSの運用にはキャッシュレスの決済機能が必須になるだろう。しかし、地域の交通事業者の大部分は、独自のキャッシュレス決済を取り入れている。そのため、様々なシステム間の連携が難しい」(三木氏)。

 通信インフラの充実も離島におけるMaaS実現の課題になる。小豆島では本土から海底ケーブルで光回線が引かれているため、島内の通信インフラは充実しているが、本土から離れていたり人口が少ないなどの理由から光回線が引かれていない離島もある。

 とはいえ、MaaSが実現できれば、利用するルートによって島内施設の料金割引などさまざまな付加サービスを考えることもでき、モビリティの充実だけでなく経済効果にも期待できる。自動運転よりも実用化は早そうだ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/052500076/080600016/