横須賀市は古くから造船や自動車製造など、ものづくりが栄えた中核都市だ。しかし、工業都市としての発展が早かったことから、製造業の衰退によるさまざまな課題を他の都市に先駆けて経験している。横須賀市はそれらの課題を、地元企業と協力して最先端技術の活用で解決しようとしている。産官学が一体となって新しいモビリティの社会実装を進める「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」もその1つだ。

特徴的な地形が抱える移動の課題

 人口約39万5000人(2019年8月現在)で、中核市に指定されている横須賀市。神奈川県南東部に位置し、東は東京湾、西は相模湾に面しているため、江戸時代から国防の拠点とされてきた。昭和の時代になっても軍港都市として栄え、現在も米国海軍の施設や海上自衛隊の基地などが置かれている。

横須賀市(よこすかし)
横須賀市は神奈川県の南東、三浦半島の中央部にある。面積は約100平方kmで、人口は約39万5000人

 戦後は東京や横浜に通勤するなど首都圏のベッドタウンとして発展してきた横須賀市だが、2つの大きな街の課題を抱えている。

 1つは、「谷戸(やと)」と呼ばれる、リアス式海岸のように谷が入り組んでいる地域における高齢化だ。

 横須賀市内は山地や丘陵地が多く平坦地が少ない。このため、住宅に適した場所がなかなか確保できず、市街地に比較的近い山地や丘陵を開発し、住宅地として利用してきた。

 しかし、谷戸地域では自動車が通れる道路が少なく、買い物の際には自宅まで荷物を抱えたまま、急な階段を100段以上も上がっていかなければならない場所もある(写真1、2)。この地形が原因で、買い物宅配サービスや大型家電の配送などを断られることもあるという。

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(写真1)横須賀市の特徴的な住宅密集地「谷戸」は、自動車が通れない坂道や急な階段も多く残っている(写真:元田光一)

 谷戸地域はこのような利便性の低さから高齢者には住みづらく、近年では郊外住宅地などの他地域と比べ、空き家や空き地が増加している。その結果、地域内でのコミュニティの希薄化が進み、地域ぐるみの防犯や災害対応が困難になるなど、生活環境等の悪化が心配されている。

 もう1つは市の公共交通を支える路線バスの運転手の高齢化問題だ。横須賀市は、人口密集度が1km2当たり約4000人弱と高く、市内の路線バス網も比較的充実している。しかし、将来的には高齢化によるドライバー不足によって路線バスの減便やコースの見直しなどが考えられ、現状維持が難しくなるという課題がある。さらに、横須賀市には「三笠記念艦」といった施設や観音崎、相模湾などの観光地もあり、年間で800万人くらいの来訪者があるが、それらの観光地をつなげる公共交通がうまく接続されていないことも課題だ。

 そこで2018年3月、谷戸地域での生活や物流の利便性の確保も含め、公共交通の将来的な課題解決やさらなる観光客の誘致という課題解決のために、産官学が一体となってスマートモビリティの社会実装を進める「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」を設置した。