国土交通省は地域が抱える様々な交通課題の解決と、低炭素型モビリティの普及を同時に進められる「グリーンスローモビリティ」(電動小型低速車)の活用を推進している。そうした中で、福山市は2018年11月、観光地が抱える交通課題解決のためにグリーンスローモビリティの実証調査に参加。実証調査終了後の翌19年4月には、誰でもが利用できるよう緑ナンバーを取得して営業運転を開始した。福山市が実証調査後すぐに営業運転を開始した経緯、現状と今後についてリポートする。

 広島県東部にあり、瀬戸内海の中央に位置する福山市は、1998年に中四国地方で2番目の中核市に指定された人口約47万人の都市である。JFEスチールをはじめとする鉄鋼関連製造や造船、機械製造などの企業が集積するほか、国産デニムの7割が生産されるなど、福山市はものづくり産業で発展する備後圏域において、経済文化の拠点となっている。

 一方で、福山市は「まるごと実験都市ふくやま」を掲げ、「ふくやまICT戦略」に基づく7つの重点分野を中心とした実証実験を積極的に推進している。モビリティ分野では、「自動運転」や「オンデマンド乗合タクシー」など地域課題を解決する新しいサービスを生み出す事業に取り組んでいる。その中で、同市は国土交通省が公募した「平成30年度グリーンスローモビリティの活用検討に向けた実証調査支援事業」に応募し、全国で実施された5つの実証調査地域の1つとして採択された。

日本遺産認定の鞆の浦で実証調査を実施

(写真1)江戸時代からの面影を残す石造りの常夜燈がある鞆の浦の港(写真撮影:元田光一)
(写真1)江戸時代からの面影を残す石造りの常夜燈がある鞆の浦の港(写真撮影:元田光一)
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(写真2)石畳が残る鞆町の生活道路は車のすれ違いも難しいほど狭い(写真撮影:元田光一)
(写真2)石畳が残る鞆町の生活道路は車のすれ違いも難しいほど狭い(写真撮影:元田光一)
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 福山市がグリーンスローモビリティの実証調査の場として選んだのが、江戸時代から「潮待ち」の港として栄え、「瀬戸内海国立公園」の一部にも指定されている観光スポットである「鞆の浦」がある同市鞆町だ。鞆の浦は歴史的な建造物が多く残る景勝地であり、2017年10月にユネスコの「世界の記憶」に登録された後、2017年11月には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。さらに、鞆の浦の近世港町をテーマとしたストーリーが2018年5月に日本遺産に認定されるなどによって、年間200万人を超える観光客を集めている(写真1)。

 一方で、鞆町の人口はここ30年で半分の約3700人にまで減少し、高齢化率も47.8%と福山市の28.5%を大きく上回っている。生活道路は古くからの地割をそのまま残すため狭く、三叉路やクランクのほか、急な坂道も多い(写真2)。さらに、近年の観光客増加に伴い、区域に通過交通や観光交通が流入し、地域住民の生活や緊急車両の通行にも支障を来している。

 鞆町では、交通量抑制など交通処理対策が地域住民の悲願となっており、交通不便を解消するために、鞆港湾内を横断する道路港湾整備事業(埋立架橋計画)も計画された。しかし、古くからの風情を残す景観が乱されるという理由から計画は中止。その後、山側トンネルを含むバイパス整備へと方針変更された。

 鞆町には、広島県東部の芦田川以西のエリアを中心に営業するバス会社の鞆鉄道が運行するバスが2路線とタクシー会社2社の営業所があり、それらが住民の日常的な移動や観光交通を担っている。しかし、地域内でバスやタクシーが通行できる道路は限定されており、バスの便数も少ない。福山市は鞆町における課題解決のために、地域と行政が協働で取り組む施策を、「鞆まちづくりビジョン」として2018年3月にまとめた。そこでは、「安全に安心して通れる生活道を含む交通システムの構築」「町中に流入する交通量の抑制」「観光客の散策環境の整備」「高齢者等の外出・買い物支援」などの検討が挙げられていた。

 こうした背景から、福山市ではグリーンスローモビリティの実証調査に応募した。その理由として、小型や低速などグリーンスローモビリティが持つ様々な優位性を挙げている(図表1)。

小型 狭路やクランク、急な坂道が多い町並を快走でき、高台の観光施設にもアクセスできる
低速 スローライフな鞆町の生活スタイルに融け込み、石畳の古い町並をゆっくりと楽しめる
安全 高齢者や観光客が多い町中を安全に移動でき、歩行者や自転車と共存できる
開放感 低床車両で高齢者が乗り降りしやすく、港町の音や潮風の香りを感じながら移動できる
環境性 マイカーからの転換により流入交通を抑制し、CO2を削減できる
(図表1)グリーンスローモビリティが持つモビリティとしての優位性