観光客誘致に伴う観光収入増で支える

 現在、全国各地で自動運転による実証実験が行われているが、実際に新交通システムを地域で導入しようとした際に大きく前に立ちはだかるのが、経済的な持続性という壁だ。永平寺町も人口約1万8500人(2019年12月1日現在)という小さな町なので、財政的なゆとりはない。

 そこで考えられたのが、年間50万人以上(福井県観光営業部観光振興課調べ)が訪れる、曹洞宗大本山「永平寺」への観光客誘致の促進だ(写真6)。自動運転によって永平寺観光の利便性を向上させて集客し、そこで落とされた観光収入を基盤として地域住民へのモビリティサービスを支えるという考え方だ。

(写真6)永平寺は2019年5月に国の重要文化財にも指定された、福井県を代表する観光スポットの1つ(写真:元田光一)
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 今回の半年間にわたる実証実験の利用者は3000人を超えたが、そのうち85%が観光客だった。永平寺町総合政策課主事の山村徹氏(写真7)は、「もともと交通空白地における課題解決は、何をやっても収益を上げることは難しい。永平寺町では、観光客から得られる収益を地域のモビリティサービスに振り分けることを前提に、収支計画を立てようと考えている」と語る。

(写真6)永平寺町総合政策課主事の山村徹氏(写真:元田光一)

 山村氏によれば、永平寺町が今回の実証で得られた成果の1つとして、「自動運転車両が走っていることが当たり前になると、住民の方が気をつけてくれるようになった。実証を続けていく中で、ひやりとするような事例がなくなった」と、運用を継続すれば受容性が上がっていくことが上げられた。

 一方、課題として見えてきたこととして、「時速12kmで決められた道路上しか動けないとなると、元気な高齢者は自分で自動車を運転する方が早いと思ってしまう。観光客からも、永平寺口駅から永平寺門前まで時速12kmで移動すると、40分もかかるため敬遠されることも多い」(山村氏)。

 こうした課題の解決には、車両の走行速度を上げること以外にも、観光客向けにはサービスで対応する方法も考えられる。自動運転車の利用者に行ったアンケートを見ても、ドライバーとの会話が楽しかったという意見が多数見られたという。「今回担当してもらったドライバーは地元のシルバー人材や大学生などで、気さくな人が多かった。レベル3の自動運転ならば、後ろを向きながら観光ガイドや接客することも許される。とはいえ、担当する人によってサービスに差がついてしまうことも避けたいので、今後はVRやARなどの技術を使った観光ガイドの制作など、民間企業からの協力も得ながらいろいろと知恵を絞りたい」(山村氏)。

 今後、永平寺町における自動走行の実証実験としては、1人の遠隔ドライバーが複数台の自動運転車両を運用する遠隔型自動走行などを計画している。2020年度に国交省による新しい道路交通法(レベル3の保安基準の決定)が施行されたタイミングで、次のレベルでの実証実験に入る予定だ。