基本十カ条の第四条は「公民連携の資金は銀行にある」です。

 公民連携で進められている岩手県紫波町のオガールプロジェクトの中核施設「オガールプラザ」は、2012年6月に一部を開業し同年9月に全館開業しました。町の施設(図書館と使い勝手の良い各種スタジオをそろえた情報交流館)が施設の真ん中に配置され、産直施設「紫波マルシェ」、飲食店、学習塾、クリニック医院などが同居しています(フロアの配置図はこちら)。

 公民合築施設「オガールプラザ」の事業主であるオガールプラザ株式会社は、紫波町と事業用定期借地権契約を結んで敷地を借り受け、計画から開発、管理運営までを一貫して行っています。開発に必要な資金は、国土交通省所管の財団法人民間都市開発推進機構と町、およびエージェント企業(地主である紫波町の代理人としてオガールプロジェクト全体を管理する企業。第二条参照)であるオガール紫波株式会社からの出資、そして、地元金融機関(東北銀行)からの融資で賄いました。つまり、民間施設部分について、行政からの補助金などは一切活用していません。

[画像のクリックで拡大表示]
オガールプラザの公共施設部分は紫波町が買い取り、民間施設部分は行政からの補助金は一切活用せず、出資と融資で資金を調達した(図中の「民都」は民間都市開発推進機構のこと)(資料:オガールプラザ)

一番力を注がなければいけないのは完成後の「稼ぐ計画」

 地域活性化事業や今般の地方創生などの政策が出てくると、地方自治体も民間も、行政からの補助メニューをあてにして事業を組み立てようとしがちです。確かに、補助金をもらった方が、建設費など多額の費用について先々の返済額を大幅に減らすことができるのですから、誰しもが補助金メニューを物色することは至って普通のことと言えます。

 でも、そこに落とし穴があるのです……。まず、事業者は補助金をもらうために、補助金の出し手である行政の考えに沿った事業計画をつくることになってしまいます。しかし本来、事業者が向き合わなければならないのは、活性化を目指す事業そのものです。では、活性化とは何でしょうか。人が賑わい、そこで時間を過ごし、そしていくらかのお金を落としていくようにすることです。これができてこそ、活性化は実現します。

 我々は「人が賑わい、そこで時間を過ごし、そしていくらかのお金を落としていく」ようにすることを「稼ぐ」と表現していますが、残念ながら行政の方々は「稼ぐ」ことが一番苦手な方々です。一方、補助金は建設コストなどイニシャルコストに充当されるのが一般的です。つまり、完成後に力を注がなくてはならない「稼ぐ行為」以前の補助金なのです。

 従って、補助金があるがゆえに施設を建設することはできても、本来、一番力を注がなければいけない完成後の「稼ぐ計画」を蔑ろにしてしまう。そんなケースが、「稼ぐ」ことが苦手な行政が主導するプロジェクトでは数多く存在しています。

 だからこそ、活性化事業には銀行(金融機関)から融資を受けることが必要なのです。なぜなら、銀行という外部の厳しい目で事業が審査されることにつながるからです。人口増加を基に高度経済成長が望めない昨今においては、大変重要なことだと思います。そして、活性化事業の実施前に、その継続性を評価する銀行の審査を受けることによって、事業に介在している無駄は省かれ、筋肉質な事業に変貌を遂げることができるのです。

厳しくチェックされた産直施設の経営計画

[画像のクリックで拡大表示]
人気産直施設「紫波マルシェ」。2014年度の年間売り上げ(27年5月決算・速報値)は4億6600万円(前年比113%)、レジ通過者数26万4549人(前年比106%)と、消費税アップにもかかわらずオープンから3年連続で売り上げを伸ばした。実は、金融機関からの事前チェックが一番厳しかったのがこの産直施設だった(写真:日経アーキテクチュア)

 オガールプラザの場合は、行政に頼る道を断った民間が、補助金に頼らなくても確実に継続できる事業計画を作成するために、政府系金融機関(財団法人民間都市開発推進機構)と市中金融機関(東北銀行)に事業の可否について相談して進めていきました。そして、金融機関から幾度となく浴びせられた、むだをなくすための指摘事項を正面から受け止めて事業を構築していきました。我々はこれを「愛の千本ノック」と表現していますが、この過程で特に指摘と改善を促されたのが「各年のキャッシュフロー」の確実性です。

 それを実現するために、我々は減価償却期間が短い木造建築を採用することに決め、損益では赤字でもキャッシュフローは確実にプラスを維持し内部留保を高めるスキームにしました。木造建築が事業の条件となったために、事業規模を3階建てから2階建てにスケールダウンしました。理由は、一番稼ぎの低い3階の建設コストが木造で建設した場合極度に高くなってしまい、不動産事業としての経営が難しくなるからです。

 また、金融機関から特にチェックされたのが、皆さん驚かれるかもしれませんが、産直施設(紫波マルシェ)の経営計画でした。

 なぜ不動産の店子の経営計画を金融機関が厳しくチェックするのか!?全国各地で見られる再開発事業等で事業が行き詰まる原因の多くは、テナントの経営不振です。なぜそのような事が起こるのかと言えば、その多くは、事業の計画段階でテナントのリーシングで安堵してしまい、事業者および金融機関がそのテナントの経営計画までは厳しくチェックしていないことが原因です。オガールプラザ整備事業の場合は、金融機関が、テナント入居率を100%にしてスタートするのは当たり前で、その先にあるテナントの経営計画をも審査し資金供給に至った点が従来型の公民連携の事業とは違うところです。まさに事業に関わるすべての関係者が金融機関によって鍛えられたのです。

 オガールプラザでは、民間都市開発推進機構の出資によって地元金融機関からの融資を引き出しました。テナントもほとんど地元資本です。名実ともに域内経済を活性化する事業として成り立っているのです。

事業が中止になることを恐れない

 民間による公有資産活用のメリットは官民双方にあります。まず官にとっては、手持ちの資金が少なくても必要な公共サービスを提供できる上、土地代、固定資産税による歳入が増えることです。また、建設の際には民間のテナントと同居することによって採算性が重視されるため、公共施設部分の施工単価も格段に安くなります。

 一方、民間側にとってもメリットが存在します。我々が考えたのは、消費を目的としない人を集めるプロセスを踏んだことです。オガールプラザ事業では、図書館などの公共施設部分を集客装置に見立て、民間テナントを募り集客の相乗効果を狙ったのです。公共サービスを受けるために来館する人たちは、民間テナントにしてみれば大事なお客様なのです。公共施設と商業・サービス業テナントとの組み合せを実現し、経済的に採算性のない公共施設を集客装置と見立て、民間テナントの営業のアシストをさせる仕組みをつくりました。その一方で民間テナントが支払う賃貸料収入の一部を、その公共施設の維持管理費に充てることにしたのです。

[画像のクリックで拡大表示]
公共施設である図書館と情報交流館を集客装置に見立てた(写真:オガールプラザ)

 そして、このような民間による公有資産活用というスキームの最大のメリットは、民間が金融機関の協力を得ながら企画、建設、管理、運営を一括で担っていく中で、その金融機関との協議の結果、「将来的に事業が自立することができない」と結論付けられたなら、事業そのものが中止になるということです。

 読者の皆様には、事業が中止になることが公民連携事業の大きなメリットなの!?と思われる方もいらっしゃると思います。しかし、誰も責任を取らず、情緒的に進められる従来型の行政主導の地域活性化事業では、完成後も維持管理のための多大な資金が必要となります。これは将来にわたって負債を残すことと何ら変わりありません。前述した通り、人口が増える時代は終わりました。公共が維持する不動産(ハコモノ)を軽率に建設する時代はすでに終わっているのです。

変わりつつある地方の金融機関

 しかしながら、このように金融機関と共に地域に必要な事業を構築する上で大きな問題があります。それは、地方の金融機関が公民連携事業に前向きに取り組む体制やノウハウを持っているのか、という問題です。公民連携事業は、いわば公共が担っていたあまり稼ぐことができない事業を扱うことになります。つまり、金融機関にとっては最初から事業の継続性を評価するのは難しい案件ということになります。担保主義で地域に資金を供給してきた金融機関は、すぐにあきらめてしまうかもしれません。

 でも、時代は変わりつつあります。公民連携事業への融資に挑戦しようと思っている金融機関は確実に増えてきています。事実、私が最近講演を依頼されるセクターの一番は金融機関です。つまり、それくらい、地域の金融機関も貸出先の開拓に苦しんでいる証拠だと思います。

 公民連携事業に必要な資金は、みなさんの街に必ずある金融機関にありますよ!

一般社団法人 公民連携事業機構
「公共が持ち得る施設機能と民間が持ちうる産業機能を融合し、低投資かつ効率的な経営を実現する『公民連携事業』の具体的推進を通じ、より幅広い国民福祉を実現する」ことをミッションに、まちづくりの実践経験豊富な清水義次氏、岡崎正信氏、木下斉氏が2013年5月に設立(三氏のプロフィールはこちら)。2015年7月から、東北芸術工科大学と共同で、eラーニングと集合研修による公民連携力の実務と実践を1年間で身に付ける「公民連携プロフェッショナルスクール」を開校。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/060300006/070200010/