バークレーから全米に広がる「種の図書館」

エコロジーセンターに設置されたBay Area Seed Interchange Library。米国で最初の「種の図書館」だ(写真:宮原 一郎)
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 バークレー市で活動するNPO、エコロジーセンターは、市からの委託によるごみのリサイクル回収業務、ファーマーズマーケットの運営、若者向けの環境教育研修などを行っている。

 このエコロジーセンターのオフィス兼店舗の1階に、BASIL(Bay Area Seed Interchange Library)と名付けられた「種(たね)の図書館」がある。ここが米国で最初につくられた「種の図書館」だといわれている。

 「図書館」といっても、そこには胸くらいの背丈のキャビネットが1つ置いてあるだけだ。キャビネットの引き出しの中には、もともと地元で育てられてきた野菜や草花の種が、封筒に入れられ分類・整理して所蔵されている。

 種をまいて育てたいと思った人は、利用登録をして、ここから種を2-3粒持って帰る。そして育って実がなったら返しに来る――。「種の図書館」の利用法をごく簡単に説明するとこういうことになる。

 BASILの創設者の一人で、パーマカルチャー(農業を軸とする持続可能なライフスタイル)関連の書籍「The Vegetable Gardener's Guide to Permaculture: Creating an Edible Ecosystem」などを著しているクリストファー・シェイン氏に、「種の図書館」をつくった理由を聞いた。すると、端的にこんな答えが返ってきた。

 「GMO(遺伝子組み換え作物)に対抗するためです」

 大企業の特許による種の独占が行われている現状では、誰もが自由にまける種を継承する「種の図書館」が必要、というわけだ。

 「『種の図書館』は、米国を中心に500カ所・25カ国にまで広がっています」――。こう語るのは、レベッカ・ニューバーン氏。カリフォルニア州のリッチモンド公立図書館に、公立図書館初とされる「種の図書館」を設置した人物だ。

 「BASILを見てすばらしいと思いました。どの地域にもあるべきだし、モデルをつくればどこでもやれると考え、リッチモンドで種の図書館(Richmond Grows Seed Lending Library)をつくったのです」(ニューバーン氏)

 法的な面から「種の図書館」のサポートをしているのが、サステナブル・エコノミクス・ロー・センター(Sustainable Economies Law Center、カリフォルニア州オークランド市)のニール・サパー氏だ。

 「私たちは、個人としての生産活動のハードルを下げるための取り組みを行っています。今の制度は、自分が育てた種をシェアする行為と、種を売る行為とが区別されていません。このため、個人として生産者になろうとしたときに手間がかかりすぎるという問題があります」とサパー氏は説明する。

 つまり、「種の図書館」で種を交換するにも法的な面で支障をきたす可能性があるということだ。実際、ペンシルバニア州では、「種の図書館」が州の農業省から種子法に違反しているという通知を受けたりもしているという。「(シェアと販売の)両者を区別する法律が必要です。これまで4つの州で法律をかえることに成功してきました。これからは、国際的に種の交換のルールをつくっていく必要があるでしょう」とサパー氏は語る。

「種の図書館」の重要人物たち。左からレベッカ・ニューバーン氏、クリストファー・シェイン氏、ニール・サパー氏(写真:宮原 一郎)
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エコロジーセンターで開催される年に1度のお祭り「種の交換会(Seed Swap)」。自分たちが採った種や育てた苗を持ち寄り交換する。アメリカン・ルーツ・ミュージックを奏でる生バンド演奏があったり軽食をふるまうエリアがあったりと、なごやかな盛り上がりを見せていた。今回、運よく「種の図書館」の重要人物3人がそろって参加していたので、その場で話を聞くことができた(写真:宮原 一郎)
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 バークレー発の「種の図書館」は、全米に広まっている。この記事に先立って紹介した、同じくバークレー発の小中学校向け食育プログラム「エディブル・スクールヤード」(関連記事)は、さらに広く普及が進んでいる。もちろん創設者の功績が最大ではあるが、バークレーという街の個性が、これらの取り組みを孵化(ふか)させたという面もあるだろう。人が街を育て、街もまた人を育てる。そんなサイクルの中から、独自性と普遍性を持ち合わせた強いコンテンツが生まれ、育っていくのではないだろうか。