キャンパスに自動走行システムをMaaSとして導入

 NTUは、自動運転の開発拠点としての存在感を高めており、2018年4月に、同国の公共交通運営会社のSMRTおよびオランダの自動運転開発企業である2getthereとの3者共同で、自動運転システムを導入するプロジェクトを進めることで合意し、MOU(覚書)に署名した、と発表した。

 導入を計画している自動運転システムは、2getthereが開発した「GRT(Group Rapid Transit)」である。座席は8人分、計24人乗りで、磁気ペレットからなる軌道上を自動走行するタイプで、最高時速は40㎞である。2017年11月にNTUキャンパス内の350mのルートで実証走行が行われており(図4)、MOUを受けて2018年から本格導入を進め、2019年までにNTUキャンパス全体に拡大する計画である。毎日200~300人の乗客にサービスを提供する予定という。

図4 NTUキャンパス内に試験導入された2getthereが開発した自動走行システム「GRT(Group Rapid Transit)」(出所:NTU)

 前述したようにNTUはNavyaの「Autonom Shuttle」の走行テストも始めており、複数の自動運転車両を並走させる。複数の車両を使うことで利用者の利便性がどう上がるのかを検証すると共に、比較検討して最適な自動運転システムを評価する意味もあるとみられる。GRTはさらに、同国西部のジュロン地区で建設された環境配慮型の工業団地「CleanTech Park」でも走行させる計画という。また3者は、AI(人工知能)やセンサーデータを融合させるセンサーフュージョン向けのアルゴリズムや、フリート走行管理システムについても共同開発する。

 NTUによると、GRTの導入は、同大学がSMARTおよび工業団地運営会社のJTC Corporationと共同で進めている複数の交通手段を最適に活用するMaaS(Mobility as a Service)プロジェクトの一環である。キャンパス内に導入されたシャトルバスや自転車、電動スクーターなどを、「Jalan-jalan」というスマートフォン向けアプリケーションで最適な手段とルートを検索、予約できる。すでに、2017年11月からNTUとCleanTech Parkで運用が始まっており、電動スクーターの予約だけで、2018年4月までに6万7000回を数えたという。ここに、GRTや自動運転シャトルバスが加わることでさらに利便性を高めようとしている。

 「Jalan-jalan」を開発したのは、SMRTの資金提供により2018年2月に設立されたスタートアップのMobilityXだ。同社はこのプロジェクトの成果を生かして、シンガポールや東南アジアでMaaS事業を展開していく計画である。同年10月には豊田通商が第三者割当増資による出資をし、MaaS事業の共同開発と海外展開に関するMOUを結んだ。

 シンガポールは、同国内の既存交通システムであるMRT(Mass Rapid Transit)やバスなどの公共交通機関に加えて、「Beeline」などのオンデマンド型シャトルバス、自動運転バス、さらには自転車や電動スクーターなど多様な交通手段をMaaSによって、統合的にサービス提供できる構想を持っており、NTUの成果やMobilityXの活動がその有力候補になる可能性が高い。

米nuTonomyに民間企業として初の自動運転車の公道走行試験を許可

図5 nuTonomyの自動運転車の公道走行試験の様子(出所:nuTonomy)
図6 Grabのスマートフォン向けアプリケーション画面例。ワンノース地区から目的地を入力すると、自動運転車がマップ上に表示され、自動運転で迎えに来てくれる(出所:nuTonomy)

 LTAが民間企業としては初めて自動運転車の公道走行許可を与えたのが、米国の自動運転車開発ベンチャーであるnuTonomyである。同社は2016年4月にノースワン地区での公道走行許可を得て、同年8月から走行試験を開始した(図5)。nuTonomyは、2016年9月に東南アジア諸国でライドヘイリング・サービスを手がけているシンガポールGrabと提携し、Grabの配車アプリケーションを使って(図6)、自動運転車を使った同サービスの実証をスタートした。

 nuTonomyは2017年10月、米国の大手自動車部品メーカーであるAptiv(旧Delphi)によって4億5000万ドルで買収された。Aptivは、2018年8月にLTAから自動運転車の公道走行試験許可を受けて、検討を進めてきたが、nuTonomyの買収によって、両社の自動運転車の開発スタッフが結集して合計200人となり、シンガポールにおける実証事業も規模が拡大することになる。

公共交通機関や輸送トラックの自動運転化も推進

 LTAは、公共交通機関の自動運転化も重要なテーマとしており、2017年4月にシンガポールのエンジニアリング会社であるST Kineticsと共同で、電動バスの自動運転プロジェクトを推進していくと発表した。LTAが2015年に発行したRFI(Request for Information)に対して、ST Kineticsが落札したもの。

 ST Kineticsが提案している自動運転バスのコンセプトは、40人乗りでGNSSや各種センサー・レーダーシステムによって、200m先までの他の車両や歩行者を検出・認識し、運行計画を立て、レベル4の自動運転を可能にする。車車間通信や車・インフラ間通信機能を備えて、他の自動運転バスやインフラとシームレスに協調しながら運行する。1時間に30㎜の降雨でも自動走行できるように開発していくとしている。2020年までの3年間に、NTUやジュロン島などで走行試験を行い、将来的にはオンデマンド型のバスサービスを市民に提供していく考えだ。

 LTAは、自動運転トラックの開発にも取り組んでおり、2017年9月からジュロン島で、自動運転トラックの走行試験を始めた。当面は6~8㎞の固定ルートを走行するが、将来的には公道での走行試験も行う予定という。