ドイツ第2の都市ハンブルクを流れるエルベ川沿いにあるハンブルク港は、ドイツ最大の港湾施設だ。欧州でも第2の規模を誇り、コンテナターミナルを4つ、クルーズターミナルを3つ備え、年間約9000の船舶が寄港する。

 この欧州を代表する港湾のクルーズターミナルでは、寄港しているクルーズ船に対し、陸上の系統網から電力を供給するOPS(Onshore Power Supply System:陸上電力供給システム)が2017年から稼働している(図1)。OPSを所有・運用しているのは、ハンブルク港を管理する市営のHPA(Hamburg Port Authority)である。

図1 ハンブルク港に寄港中のクルーズ船「AIDA」。OPSによる電力供給を受けている(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
[画像のクリックで拡大表示]

 通常、クルーズ船は寄港中にディーゼルエンジンを稼働させて発電し、乗客に対して船上でさまざまなサービスを提供している。OPSから電気を調達することで、ディーゼル燃料の消費を削減する分コストダウンが可能になる。HPAとしては、こうした電力供給サービスを船舶に提供することで、港湾としての魅力を向上させて寄港数を増やし、収益アップにつなげる狙いがある。

 さらに、港湾施設からのCO2排出量を削減する効果も期待できる。背景には、ドイツ政府やEU(欧州連合)が交通部門の低炭素化を推進していることがある。特にEUは2013年、2050年までに交通部門の温室効果ガス排出量を60%に低減するという指令を発表したことから、港湾部門でも低炭素化が課題となっていた。そこでHPAは、ドイツ政府の補助金を取得し、既存の建屋に隣接したデザイン面でも違和感のない形でOPS用の建屋を建設した(図2)。

図2 OPS用の設備が入っている建屋。右は既存のHPAの建屋(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
[画像のクリックで拡大表示]

水力発電など再エネ100%の電力を供給

 ハンブルク市は電力事業に積極的で、地域エネルギー会社(シュタットベルケ)であるHamburg Energieが小売事業を2009年から手がけている。ノルウェーから水力発電による電力などを調達し、再生可能エネルギー100%の電力を販売している。同市はまた2014年に、配電網を大手電力会社の独Vattenfallから買収して、100%株式を保有する配電事業者であるStromnetz Hamburgを設立した。

 これにより、風力発電や太陽光発電の立地に合わせた配電網の整備を進めるなど再エネを優先する電力事業を展開している。そこで、ハンブルク港のOPSにも再エネ100%の電力を供給し、環境価値の高いクリーンな電力を船舶向けに供給できることをアピールしている。

 ハンブルク港向けにOPSを開発したのは、独Siemensである。同社でOPS事業を担当する担当者は、「周波数変換機能を持つOPSでこれだけ大規模なシステムは初めて」と語る。

 ドイツにおける系統周波数は50Hzだが、船舶の約80%は60Hzを採用しており、電圧もバラバラである。そこで、同港に導入したOPSは、寄港した船舶の周波数に変換し、電圧も調整して臨機応変に電力を供給できるシステムを開発する必要があった。60Hzの船舶の場合は6.6kVと11kVに、50Hzの場合は6kVと11KVに対応している。システム出力は12MVAである。

 OPS向けに導入した設備は、地域配電網と船舶を連系するためのスイッチギアや周波数変換器(図3)、変圧器(図4)などの電力機器である。さらに、空調、換気、安全設備などを含めて、調達額は850万ユーロに上ったという。

図3 OPS用に設置されたスイッチギアや周波数変換器の操作パネル(出所:Siemens)
[画像のクリックで拡大表示]
図4 導入された変圧器(出所:Siemens)
[画像のクリックで拡大表示]

 Stromnetz Hamburgが保有する地域配電網とは、スイッチギアを介して10kVで連系しており、変圧器で2.1kVの中圧レベルに下げて、周波数変換を行う。周波数変換は、順変換器(交流を直流に変換)と逆変換器(直流を交流に変換)を組み合わせて、交流→直流→交流に変換するバック・ツー・バックDCリンク方式を採用した。

給電ケーブル車が自動走行、遠隔操作で接続

 船舶が持つ給電用のコネクターに接続するためのケーブル管理システムには、港湾作業者が扱いやすいように工夫を加えた。

 例えば給電ケーブル。普段は埠頭にある倉庫に収納されている(図5)が、船舶が接岸し給電を開始する際には、約300mにわたって埠頭上を自動走行する(図6)。地域配電網と接続するケーブルは、埠頭の地下に収納され、乗客の乗降や荷物の積み降ろし作業の邪魔にならないようにしている。倉庫やケーブルは、高潮でも耐えられる耐久性を持たせているという。

図5 ケーブルシステムを収納する倉庫(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
[画像のクリックで拡大表示]
図6 ケーブルを船舶に接続するためのロボットアームを搭載している移動車(出所:Siemens)
[画像のクリックで拡大表示]

 船舶側の給電用コネクターは、船舶によって位置がまちまちであり、潮位によっても高さが変わってくる。ケーブルシステムはその位置を検知して接続作業を行う(図7)。

 給電ケーブルのコネクターは、ロボットアームの先端に取り付けられており(図8)、遠隔で操作する。同システムには電力用のほかにも船舶とOPS施設を結ぶ通信用のケーブルが組み込まれており、監視すると共に制御できるようにしている。

図7 ケーブルを船舶に接続している様子(出所:Siemens)
[画像のクリックで拡大表示]
図8 ロボットアーム先端に取り付けられたコネクター(出所:Siemens)
[画像のクリックで拡大表示]

 このケーブル管理システムは、Siemensと独Stemmann Technikが共同で開発した。開発したOPSとケーブル管理システムは、国際標準規格であるIEC/ISO/IEEE 80005-1 (埠頭と船舶間の中圧接続)とIEC 62613-2 (コネクターおよびソケット)に適合しており、同規格に基づいた他社のOPS設備と互換性を持たせている。これにより、世界中の港湾で使うことができる。

 船舶が接岸してケーブルを接続した後は、HPAの担当者と船舶の担当者が通信ケーブルを通して連絡し合い、共通のインターフェースを見ながら、給電作業を行う。

 HPAのコントロールセンターは、船舶の電力メーターなどから情報を取得する。周波数を確認して、スイッチギアを閉じて電力を流し、船舶はディーゼルエンジンを停止させる。接続・給電作業はすべて自動化されているという。

 ユーザーインターフェースを使いやすくし、自動化を進めたことにより、給電作業はすべてHPAの担当者自身が行っている。SiemesはOPSのメンテナンスは定期的に行っているが、担当者は常駐していない。「HPA向けに2日間研修を行っただけで、自ら操作できるようになった」(Siemens)という。

船舶オーナーの経済メリットを追求へ

 ハンブルク港に寄港するクルーズ船がOPSにより電力供給を受けるには、船舶側にスイッチギアと接続用コネクターなどの専用設備が必要である。そのために新たに設備投資をしなくてはならず、まだ一部の船舶に留まっている。

 理由としては、ハンブルク港以外の港では導入されていないために、設備投資を回収するのが難しい点が挙げられる。停泊中の電力供給によりディーゼルエンジンを止めることによる燃料費の削減効果や、静粛になることによる作業環境の改善などのメリットがあるものの、初期投資分をカバーできないと考える船舶オーナーがまだ多いという。

 OPS対応の設備を導入した代表的なクルーズ会社としては独AIDA Cruisesがある。同社のクルーズ船は、欧州ではハンブルクのほか、アムステルダムやロンドンに寄港するが、ハンブルク以外ではOPSが使えない。

 このためSiemensは、「多くの港にOPSを導入してもらい、船舶のオーナーにとって経済メリットが出るような環境を整えたい」という。実際、同社はノルウェー、中国、シンガポールなどで、今回開発した最新のOPSを導入する商談を進めており、クルーズ船も含めた各種の船舶に対応するOPSの普及を進めたいとしている。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/061000040/