エネルギーの生産計画を自動化・精密化

 新地域熱供給システムでは熱導管を管理するにあたり、熱水の温度や供給量(Mass Flow)、圧力といった基本データをセンサーでモニタリングして、データを取り込む仕組みを作り込んだ。ABBの定義では、各データは、供給量や圧力の制御データなどのOT(Operational Technology:運用技術)領域と、顧客にスマートメーターを設置して通信技術によって情報を取り込んだり、配管シミュレーション技術によって情報を得たりするIT(Information Technology:情報技術)の二つに分類される(図4)。

図4 スマートシティ・ソリューション「ABB Ability Collaborative Operations」のデータ管理フロー。OTおよびIT分野のデータソースからデータを取り込み、データベース化して、分析する。さらに顧客向けに見える化して提供し、レポート作成までサポートする(出所:ABB)
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 取り込んだデータは、共通形式に変換されたゲートウェイ経由で、クラウド上の共通データベースに格納され、目的に応じて分析する。さらに、Mälarenergiの担当者が管理しやすいように、データを見える化し、レポート類などを発行して関係者間で情報共有している。Mälarenergiによると、こうした各種データの見える化によって特にメリットがあったのは、「適切な温度の熱水が適切なタイミングで顧客に到達できるようになったことだ」という。これは、取り込んだデータに天気予報情報など外部データを加味して、独自開発したアルゴリズムを使い、各顧客に対して熱水を熱導管で供給するまでの時間と温度、および供給量を予測することで可能になった。

 実際の生産では、どのエリアの顧客に対しても、最適な温度と供給量を提供できるように計画される。さらに、電力分野の市場取引も加味して、エネルギー分野の収益が最大化するように最適化する。同ソリューションの導入前は、熟練技能者が経験と外気温などのデータから手動で生産計画を立てていたが、より正確で客観的なプロセスに改革できたという。

 見える化の一例としては、供給地域をマッピングし、各エリアに送られる熱水の温度と供給量を地図上で見やすく表示している(図5)。同社はそのために、1万5000件の顧客施設のほか、熱導管の50カ所にセンサーを設置して、温度を測定している。図5で、緑色の円は熱水を各エリアに供給する循環ポンプを設置したポンプステーションを示す。熱導管ネットワークを地図上に表示することもできる。

図5 地域熱供給システムに「ABB Ability Collaborative Operations」を導入したモニター画面。地図上に供給エリアやポンプステーションの位置、熱導管ネットワークが表示され、供給量や温度などの情報が得られる(出所:ABB・Mälarenergi)
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 ポンプステーションを通過する熱水の温度や圧力もリアルタイムでチェックしており、熱水の消費量のデータもモニタリングしている。地域全体と共に、各エリアの消費データを見える化している。供給量のデータを合わせて見ることで、どの程度の需給ギャップが生じているのかも確認できる。こうした消費量のデータを蓄積して、分析することで、「今後需要予測をさらに精緻にして、熱水の生産計画や熱供給システムの設備投資計画に役立てたい」(Mälarenergi)としている。

 Mälarenergiは将来的には、「熱水を供給するビジネスから、サービスを提供する新しいビジネスモデルを追求したい」という。例えば、快適環境を提供するコンフォート・アズ・ア・サービス(Comfort as a Service)や、顧客施設の室温を21℃に保つことを保証するようなヒーティング・アズ・ア・サービス(Heating as a Service)である。

 さらに、熱供給システムのアルゴリズムの開発と最適化に取り組む一方で、他のインフラサービスにも拡大しようとしている。現在、上水道のスマート化の検討がスタートしたという。特に問題となっているのは、水道管からの漏水である。そこで、IoTとクラウドによって、効率よく漏水を検知し、対処できるようなアルゴリズムの開発を進めている。ABBとしては、Mälarenergiと共同開発したスマートシティをモデルケースとして、ここで開発したソリューションやアルゴリズムを他地域に横展開する狙いがある。