図1 ヴェステロース市の全景(夜景)。電力や地域熱・冷房供給、上下水道などのインフラを同市所有のMälarenergiが供給している(出所:Mälarenergi)
[画像のクリックで拡大表示]
図2 ヴェステロース市のメーラレン湖畔の風景(撮影:日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ)
[画像のクリックで拡大表示]

 スウェーデンの首都ストックホルムから西に約100km、風光明媚なメーラレン湖に面したヴェステロース市(図1、図2)が、スマートシティ化に向けたプロジェクトを本格化している。まず、地域熱供給システムのスマート化に取り組み、新システムを2019年1月から稼働。今後、上下水道やエネルギーなどのインフラ分野まで広げる考えだ。

 ヴェステロース市は、人口約12万人のスウェーデン第5の中堅都市である。同市が保有する地域ユーティリティー会社のMälarenergiがスマートシティプロジェクトの中心的存在である。同社は、同市および周辺地域に居住する住民とC&I(商業・工業施設)約15万件に、電力、地域熱(冷)供給、上下水道、ブロードバンドといったインフラサービスを提供している。150年もの歴史を持つ典型的な地域に根差した公益サービス企業で、従業員は750人、売上高は約3億3000万ユーロである。

 ヴェステロース市は、レジリエンス性が高く環境負荷が低い都市計画を進め、欧州を代表するスマートシティになる目標を掲げている。インフラを運用するMälarenergiは、そのための重要な役割を果たすことになった。

多岐にわたるインフラシステムを統合管理へ

 Mälarenergiは2014年からスマートシティ化の検討をスタートし、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やクラウドなどのデジタル分野のシステム開発を重点テーマとした。これは、スマートシティを目指すうえで、エネルギーや上下水道など多岐にわたるインフラを管理するシステムを個々に導入して複雑性が増しているという問題を解決するためだ。

 そこで、「デジタル技術を駆使してこれらを統合化し、効率的に運用することを目指した」と同社の担当者は語る。こうして、今まで個別に管理していたインフラシステムのオペレーションを一元化するコントロールルームを構築し、運営コストを削減する目標を立てた。

 Mälarenergiは、IoT分野のシステム構築で実績のあるスイスABBと提携することにし、2017年からスマートシティ向けソリューション「ABB Ability Collaborative Operations」の導入を進めた。クラウドは、ABBと提携関係にある米Microsoftの「Azure」を採用した。実はABBの前身会社の一つであるASEAは、ヴェステロース市に本社を置いていた電気機器メーカーで、ABBは現在でも同市に拠点を置いている。同じ市に属する企業として両社は歴史的に深いつながりがあり、実際ABBはこれまでもMälarenergi向けに数多くのシステムを納入してきた。

 このため、同じ市の企業市民として、未来の社会はどうあるべきかを一緒に議論できるパートナーとして共同開発を進めたという。また、エネルギーや水などライフラインに関わるユーティリティー会社には高いセキュリティーが求められるため、ABBとMicrosoftのソリューションが持つ高い信頼性が重要だったとしている。

廃棄物活用のCHPプラントを建設

 Mälarenergiは、提供しているインフラサービスのうち、まず地域熱供給システムのスマート化に取り組み、2019年1月から「ABB Ability Collaborative Operations」を導入した新システムの稼働を開始した。地域熱供給は、電力と並んで同社の事業の柱であり、熱の供給源として北欧最大規模のCHP(Combined Heat and Power:熱電併給システム)プラントとボイラーを保有している。同社のCHPとボイラープラントは、1538GWh/年の熱水を生産し、熱導管を通じて各施設に供給している。ヴェステロース市では98%の施設が同社の地域熱供給システムを導入しており、同市周辺の地域にも送っている。熱導管の総延長は2019年時点で869kmにのぼる。

 CHPとボイラープラントは、1963年に1号基「Block1」と2号基「Block2」を建設して以来、現在までに6基所有している。特に、2014年に稼働した「Block6」は、建設当時は世界最大の廃棄物活用のCHPプラントだった。地域の家庭から出るごみと、購入したバイオマスを燃料とし、150MWのボイラーと50MWのタービンを稼働する。熱水供給量は、全体供給量の約半分を占める。

 同社は現在、新しいCHPプラントとして、130MWの「Block7」(図3)を建設中で、2020年中の稼働を計画している。「Block7」でも家庭からのごみと共に、木材廃棄物を燃料として使う計画であり、その際には、石炭を燃料としている「Block1」および「2」を廃棄処分にする予定だ。これにより、「熱供給のほぼ100%が再生可能エネルギー由来となる」という。

図3 Malarenergiが2020年中の稼働を目指して建設中の「Block7」。家庭からのごみとバイオマスを燃料とし、生産した熱水を地域熱供給システムに流している。稼働時には、同社の熱供給のほぼ100%が再生可能エネルギー由来となる(出所:Mälarenergi)
[画像のクリックで拡大表示]

エネルギーの生産計画を自動化・精密化

 新地域熱供給システムでは熱導管を管理するにあたり、熱水の温度や供給量(Mass Flow)、圧力といった基本データをセンサーでモニタリングして、データを取り込む仕組みを作り込んだ。ABBの定義では、各データは、供給量や圧力の制御データなどのOT(Operational Technology:運用技術)領域と、顧客にスマートメーターを設置して通信技術によって情報を取り込んだり、配管シミュレーション技術によって情報を得たりするIT(Information Technology:情報技術)の二つに分類される(図4)。

図4 スマートシティ・ソリューション「ABB Ability Collaborative Operations」のデータ管理フロー。OTおよびIT分野のデータソースからデータを取り込み、データベース化して、分析する。さらに顧客向けに見える化して提供し、レポート作成までサポートする(出所:ABB)
[画像のクリックで拡大表示]

 取り込んだデータは、共通形式に変換されたゲートウェイ経由で、クラウド上の共通データベースに格納され、目的に応じて分析する。さらに、Mälarenergiの担当者が管理しやすいように、データを見える化し、レポート類などを発行して関係者間で情報共有している。Mälarenergiによると、こうした各種データの見える化によって特にメリットがあったのは、「適切な温度の熱水が適切なタイミングで顧客に到達できるようになったことだ」という。これは、取り込んだデータに天気予報情報など外部データを加味して、独自開発したアルゴリズムを使い、各顧客に対して熱水を熱導管で供給するまでの時間と温度、および供給量を予測することで可能になった。

 実際の生産では、どのエリアの顧客に対しても、最適な温度と供給量を提供できるように計画される。さらに、電力分野の市場取引も加味して、エネルギー分野の収益が最大化するように最適化する。同ソリューションの導入前は、熟練技能者が経験と外気温などのデータから手動で生産計画を立てていたが、より正確で客観的なプロセスに改革できたという。

 見える化の一例としては、供給地域をマッピングし、各エリアに送られる熱水の温度と供給量を地図上で見やすく表示している(図5)。同社はそのために、1万5000件の顧客施設のほか、熱導管の50カ所にセンサーを設置して、温度を測定している。図5で、緑色の円は熱水を各エリアに供給する循環ポンプを設置したポンプステーションを示す。熱導管ネットワークを地図上に表示することもできる。

図5 地域熱供給システムに「ABB Ability Collaborative Operations」を導入したモニター画面。地図上に供給エリアやポンプステーションの位置、熱導管ネットワークが表示され、供給量や温度などの情報が得られる(出所:ABB・Mälarenergi)
[画像のクリックで拡大表示]

 ポンプステーションを通過する熱水の温度や圧力もリアルタイムでチェックしており、熱水の消費量のデータもモニタリングしている。地域全体と共に、各エリアの消費データを見える化している。供給量のデータを合わせて見ることで、どの程度の需給ギャップが生じているのかも確認できる。こうした消費量のデータを蓄積して、分析することで、「今後需要予測をさらに精緻にして、熱水の生産計画や熱供給システムの設備投資計画に役立てたい」(Mälarenergi)としている。

 Mälarenergiは将来的には、「熱水を供給するビジネスから、サービスを提供する新しいビジネスモデルを追求したい」という。例えば、快適環境を提供するコンフォート・アズ・ア・サービス(Comfort as a Service)や、顧客施設の室温を21℃に保つことを保証するようなヒーティング・アズ・ア・サービス(Heating as a Service)である。

 さらに、熱供給システムのアルゴリズムの開発と最適化に取り組む一方で、他のインフラサービスにも拡大しようとしている。現在、上水道のスマート化の検討がスタートしたという。特に問題となっているのは、水道管からの漏水である。そこで、IoTとクラウドによって、効率よく漏水を検知し、対処できるようなアルゴリズムの開発を進めている。ABBとしては、Mälarenergiと共同開発したスマートシティをモデルケースとして、ここで開発したソリューションやアルゴリズムを他地域に横展開する狙いがある。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/080200047/070100048/