米国ボストン市からクルマで約3時間、いくつもの州立森林公園沿いに壮大な山岳風景を眺めながらドライブすると、山間の盆地に開けた市街地を持つラトランド市に着く。同市に本社を構えるユーティリティ企業(電力の販売や送配電事業などのインフラを提供する企業)であるGMP(Green Mountain Power)は、バーモント州の約26万5000の住宅およびC&I(商業・工業施設)に電力を中心としたサービスを提供している(図1)。電力供給は再生可能エネルギーを中心とし、蓄電池やマイクログリッドによる非常時対応のサービスにも力を入れている。

図1 ラトランド市にあるGMPのEIC(Energy Innovation Center)。顧客向けに同社が提供している蓄電池などのエネルギー機器やソリューションを展示している(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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 GMPは、2014年にユーティリティ企業として世界で初めて、社会や環境に良い影響を与えている企業や組織などに対して与えられる「B Corporation認証」を取得して、一躍注目された。さらに2019年4月には、2025年までに100%カーボンフリーエネルギーを、2030年までに100%再エネを供給するという目標を発表した。そのために、風力発電や水力発電由来の電力を外部から調達すると共に、域内に太陽光発電システムを建設して自家消費も進める。蓄電池を増設し、系統安定化と共にレジリエンス性を高める計画である。

 同社が大胆な再エネ目標を掲げられる背景には、市政府と固い協力関係を結んでいることがある。ラトランド市は、ニューイングランド地区(北東部 6 州の総称)を代表する「ソーラー都市となる」計画を持っており、同計画を主導しているのがGMPである。

2MWの太陽光、3.4MWhの蓄電池を処理場跡に設置

 GMPとラトランド市がこの計画を代表するモデルケースと位置付けているのが、同市郊外に建設したメガソーラー/蓄電池併設プロジェクト「Stafford Hill Solar Storage Farm」である(図2)。バーモント州は、2011年8月に米国東海岸地域を襲った大型ハリケーン「アイリーン」の被害を受け、大規模な停電が発生したことから、災害時の電力供給を求める声が高まっていることに対応したものである。

図2 廃棄物埋め立て地跡に建設されたメガソーラー/蓄電池併設プロジェクト「Stafford Hill Solar Storage Farm」の外観(出所:GMP)
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 同市の廃棄物処理場の跡地に2MWのメガソーラーを建設し、2MW/1MWhのリチウムイオン蓄電池と2MW/2.4MWhの鉛蓄電池システムを設置し、2015年から稼働を開始した。蓄電池システムは合計4MW/3.4MWhになる。平常時は同社の配電網(7.2kV)に電力を供給する。災害などの非常時は系統網から遮断(アイランディング)し、近くの高校の施設に設けた避難用設備に照明や空調などに必要な電力を24時間7日間供給できるという。「化石燃料を使う発電機を使わずに、再エネ電源と蓄電池だけでマイクログリッドを構築したケースとしては全米で初めて」(GMP)という。

 建設費はメガソーラーが577万ドル、蓄電池システムが420万ドルだった。金額などは明らかではないが、建設に当たってはバーモント州や米国エネルギー省などから補助金を得ており、ラトランド市も支援しているという。また、GMPはラトランド市に対して、同跡地のリース代として年間3万ドルを支払っており、同市にとっては埋め立て地跡の有効利用という意味もある。

 GMPによると、マイクログリッド建設後は、むしろコスト効率が高いという。これは、再エネ電力を販売するエネルギー代のほか、同地域のISO(Independent System Operator:独立系統機関)であるISO New Englandにリチウムイオン蓄電池からの電力をアンシラリーサービスとして提供しその対価を得られるからだ。現在は、アンシラリーサービスのうち、周波数調整市場に参加している。このメガソーラー/蓄電池併設のマイクログリッド設備によって平均約18.7セント/kWhの売り上げがあり、これは通常のメガソーラーの売電価格である17.1セント/kWhを上回っているという。

バーモント州の企業が設計・施工を担当、米国製の設備・部品を採用

 同プロジェクトの設計や施工を同州の企業に任せ、設備・部品は米国製を使って地域経済に貢献しようとしていることも特徴である。

 鉛蓄電池は米Enersys、リチウムイオン蓄電池は米Tesla Motors製で、エネルギー管理システムやPCS(パワーコンディショナー)、接続箱、集電箱などの電気関連設備はバーモント州に本社を持つDynapowerが担当した(図3)。集電箱は48個設置し、各パネルの状況をモニターする通信設備を設けスマート化している(図4)。

図3 「Stafford Hill Solar Storage Farm」に設置されたPCSと蓄電池システム。両側の緑色のコンテナがそれぞれリチウムイオン蓄電池と鉛蓄電池(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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図4 通信機能を備えた接続箱(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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 メガソーラーのEPC(設計・調達・建設)も同州のgroSolarが担当した。太陽光パネルは米Sunivaのシリコン単結晶パネル(図5)、架台は、埋め立て地跡であるためコンクリートブロックの置き基礎で、米Patriot Solar Groupが製造した(図6)。

図5 シリコン単結晶の太陽光パネル。設置角度は15度(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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図6 コンクリートブロックの置き基礎(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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 7722枚の太陽光パネルから2系統に分けて集電され、それぞれ接続箱を経由して、1系統はPCSとリチウムイオン蓄電池が入ったコンテナに、もう1系統はPCSと鉛蓄電池が入ったコンテナに入力される。各コンテナではPCSと蓄電池が相互にやり取りしながら、配電網への逆潮流や災害時のアイランディングを最適運用している。なお、鉛蓄電池はエネルギー容量が大きいために、災害時の長期の電力供給やGMPのピークカットなどに使われている。リチウムイオン蓄電池は素早い応答性を利用して、ISO New England のアンシラリー市場に参加して対価を得ている(図7)。

図7 2016年8月12日における「Stafford Hill Solar Storage Farm」の太陽光発電出力、鉛蓄電池、リチウムイオン蓄電池の充放電。青色が太陽光発電で昼間に高出力になる。赤色が鉛蓄電池で、主に昼間に太陽光発電を充電し、夕方のピーク時に放電してピークカットしている。緑色がリチウムイオン蓄電池で、アンシラリー市場向けに細かい充放電を繰り返しており、夕方のピーク時にはピークカットのために放電もする(出所:GMP、Sandia National Laboratories)
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 GMPとラトランド市、バーモント州当局は、「Stafford Hill Solar Storage Farm」の稼働状況を検証した結果、経済面やレジリエンス向上面で有効性が確認されたとしており、同州全域の変電所に、蓄電池併設システムを建設する計画を持っている。

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