シンガポールは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)などの新しいデジタル技術を活用して、モビリティ、住環境、ヘルスケアサービス、スマートハウス、エネルギー、環境保護、公的サービスなど、市民生活にかかわるあらゆるサービスをスマート化するプロジェクト「Smart Nation Singapore」を推進している(関連記事)。このうち、特にデジタル化とスマートハウスの面で注目されるのが、同国北東部の沿岸部に位置するプンゴル地区で進められているプロジェクトである。

デジタル技術搭載の新街区を建設へ、2023年に完成

 政府系開発企業のJTCを中心とするコンソーシアムは2020年1月、プンゴル地区に新デジタル技術を搭載した新街区「PDD(Punggol Digital District)」の建設をスタートさせると発表した。JTCがPDDのマスタープランを作成し、海沿いの50haの開発地区に、オフィスビル、住宅、大学、コミュニティスペース、商業施設などを建設する。2020年1月から建設が始まっており、2023年には完成する予定である(図1)。

図1 PDD(Punggol Digital District)のマスタープランの街区イメージ。海沿いの50haの開発地区にビジネスビル、住宅、大学、コミュニティスペース、商業施設などを建設(出所:JTC)
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 PDDの完成時には、IoT、AI、データ分析、サイバーセキュリティ、フィンテック(Financial Technology)、デジタルマーケティング関連のIT企業を中心に誘致することで、2万8000人の雇用を生み出すという。大学としてはSIT(Singapore Institute of Technology:シンガポール工科大学)が入居予定で、1万2000人の学生が通学することになる。

 PDDでは、再生可能エネルギーの導入と省エネルギー化を進めることによるCO2削減を狙う。このため、JTC、SIT、HDBのほか、同国政府所有の電力・ガス事業者であるSPグループが参加して、ビルや住宅の屋根上に太陽光発電システムを搭載すると共に、蓄電池を設置して再エネの利用効率を上げる。加えて、電力消費の最適化で省エネ化を進め、年間1500tのCO2削減を達成する計画としている。

JTCとSITが研究施設を相互に活用して産学連携を推進

 PDDの重要な目的の1つが、産学連携を進めて、デジタル技術などを研究・開発するハブにする考えだ。そのために、JTCが建設する企業向けビジネスパークとSITが入居するビルは隣接して建設され、相互に行き来できる渡り廊下が設置される予定である(図2)。さらに、JTCビジネスパーク内にSITの研究室や教育施設を、SITビル内にスタートアップなどが起業のための開発を進める施設を設置し、相互交流を深めることで、共同研究を促進し、新事業を立ち上げる場とする考えである。

図2 PDDにおけるSIT(シンガポール工科大学:左)とJTCビジネスパークの完成予想イメージ。両ビルの間には渡り廊下がつくられ、相互に研究施設やスタートアップ向け開発拠点を設けることで、産学の交流を図る(出所:JTC)
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 JTCビジネスパークとSITビルの間の地上には、同地区最大の目抜き通りとして、長さ800mにおよぶ歩行者用道路「キャンパス大通り」が建設される。ここには、各種イベントや戸外で食事ができる多目的なスペースとして利用され、産官学の担当者が交流する場を提供する。キャンパス大通りの先端は海に面しており、小売店や飲食店が営業するウオーターフロントエリアとする。そこからは、観光地であるコニー島にアクセスでき、観光客も集めるスポットにする計画である。

スマートシティプラットフォーム「ODP」のモデルケースに

 PDDには、シンガポールの企業や政府機関が共同で開発したスマートシティプラットフォーム「ODP(Open Digital Platform)」が初めて採用される。ODPは、JTCのほか、総合エンジニアリング会社のST Engineering、シンガポールの政府系研究機関のCSA(Cyber Security Agency of Singapore)、IMDA(Infocomm Media Development Authority)が共同で開発したもので、プラグ・アンド・プレイ方式で迅速に導入でき、設置コストと導入効率を向上できる特徴があるとしている。

 ODPのシステムは、IoT、データ分析、実データと仮想データを連携する「Digital Twin」をコアサービスとし、各種情報を交換・管理する統合システムから成る。さらに、標準化されたミドルウエアを介して、縦割りのシステム・サービスと、横断的な各種ITインフラ・ネットワーク・センサーの両方を統合的に管理する構造となっている。

 縦割りシステムとしては、スマートグリッド、顔認証・セキュリティ、都市の物流・ロボット配送、地域冷房などがあり、それらはパソコンやスマートフォン、デジタルサイネージ、AR(仮想現実)などの端末を介して、様々な行政や公共関連、セキュリティなどのサービスに使われる。個々のシステム構築に当たっては、外部の企業と連携して、アプリケーションを作成したり、データ分析や個別のセンサーネットワークを構築する。一方で、横断的なネットワーク、ストレージ、サーバーセキュリティ、オペレーションセンターやデータセンターなどのITインフラおよび設置したセンサーネットワークなどは一元管理し、縦割りシステムと連携させる。

 これにより、ビルの入館ゲートの顔認証システムと物流システムなどを連携できる。例えば、担当者が朝入館すると、それを自動配送システムが感知して、必要な荷物などを迅速に届けることが可能になる。また、スマートグリッド、スマート施設管理システム、地域冷房システムを統合管理することで、より効率的な冷房が可能になり、エネルギー消費量の削減につながるとしている。

 PDDでは、実際の活用事例を通じてODPの有効性を証明することで、標準的なスマートシティプラットフォームのモデルケースとし、シンガポール国内のみならず海外展開したい考えだ。

スマートハウス搭載の集合住宅を建設へ

 PDDプロジェクトと並行して、HDBはプンゴル地区北部の海岸地帯にスマートハウスの機能を盛り込んだ集合住宅「Punggol Northshore Residences」を建設中で、2020年末には1400戸が完成する計画である(図3)。集合住宅の設計に当たっては、同地区の風の通り方や強さ、太陽光からの日射状況、影の出来具合などをシミュレーションして、ビルにおける風の通り道を設計。室内の温度や換気を自然調整できるようにし、太陽光パネルの設置場所も最適化したという。

図3 プンゴル地区北部の海岸地帯にHDBが建設中の集合住宅「Punggol Northshore Residences」のイメージ図。1400戸の住宅と共有スペースに、スマート照明、スマートファン、スマート駐車システム、スマートメーターなどを搭載(出所:HD
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 同集合住宅にはスマートパーキングシステムを導入し、居住者と訪問者向けの駐車需要を監視・制御する。居住者向けには駐車スペースを固定化するのではなく、長期の駐車チケットを発行し、居住者がいない時には訪問者向け駐車スペースを確保し、居住者の多くが駐車する夜間は訪問者向け駐車スペースを減らすなどの制御をして、駐車スペースを最大限活用する仕組みを導入する。

 1400戸の各家庭にもスマートメーターやスマートエアコン、スマート照明が設置され、外部の侵入者を検知するセキュリティシステムが設置されるなどスマートハウス仕様になっている。また、集合住宅の屋上に設置された太陽光発電システムは、JCT、SPグループ、SITが共同でPDD内に構築しているスマートグリッドシステムおよび蓄電池システムと統合され、地域レベルで太陽光発電の利用と消費を最適化する計画である。

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