地域を元気にするCSV

記事一覧

自治体と連携して取り組む、使用済み紙おむつの再資源化プロジェクト(ユニ・チャーム)

一般社団法人CSV開発機構・編【2018.5.14】

高原豪久ユニ・チャーム代表取締役社長と本田修一志布志市長(当時)。連携して使用済み紙おむつの再資源化に取り組んでいる(写真:ユニ・チャーム)

 ユニ・チャームは、あらゆる世代が共に助け合って生きる「共生社会」の実現に向けて、「その人らしさ/自分らしさ」を尊重し合い、皆が自然に暮らせる社会をつくることを目的として、国内外で様々な戦略を展開している。高齢人口の増加に伴う「大人用紙おむつ」に関する取り組みもその1つである。

 2020年に日本の総人口の30%は65歳以上の高齢者になると予測されており、健康寿命の延伸は国家的な目標となっている。そうした中、適切な排泄ケアは健康寿命を延ばすために重要な要素といわれており、それに伴い紙おむつ需要の増加が見込まれる。

 一方、使用済み紙おむつのほとんどは焼却処理されているのが現状であり、市場拡大には、環境負荷低減に向けた再資源化に向けた技術開発も必要だ。ユニ・チャームはこの技術開発にも早くから着手しており、2015年には「使用済み紙おむつ資源化」の基本技術を完成。東京都市大学や北里大学との共同検証により、環境影響評価と再利用パルプの衛生安全性評価を実施。再利用のパルプは環境にやさしく、安全性も高い素材であることが確認され、2015年10月30日にニュースリリースを配信した。

 この情報により、全国の地方自治体から問い合わせが寄せられた。ユニ・チャームでは、社会実装に向けた実証実験の候補地検討を行った結果、リサイクルにおいて必要となる分別回収を既に実施しており、環境に対する熱意も高かった鹿児島県志布志市と連携していくことを決めた。

住民の協力でモデル収集、効果を実証

 志布志市は鹿児島県東部に位置し、人口は約3万人。増え続ける生活ゴミ処理対策として、「分ければ資源、混ぜればごみ」を合言葉に、2000年から本格的に分別収集を開始し、現在27分類で再資源化を推進。その結果、埋立てごみを8割削減することができるようになったが、残った2割の埋立てごみのうち、約2割が使用済みの紙おむつとなっており、その再資源化は一番の課題となっていた。

 志布志市、大崎町、曽於市の近隣2市1町のゴミ処理・再資源化の中核施設「そおリサイクルセンター」(所在地:大崎町、運営:有限会社そおリサイクルセンター)では、使用済み紙おむつの再資源化に向けて2008年ごろから収集および処理について検討を重ねてきていた。

 こうした背景を踏まえ、ユニ・チャームと志布志市は、2016年5月に「志布志市使用済み紙おむつ再資源化推進協議会」を発足。志布志市のゴミリサイクル処理を実施する、そおリサイクルセンターを拠点として実証実験をスタートした。

 ユニ・チャームの再資源化技術は、収集した使用済み紙おむつから低質パルプを回収し、その後独自のオゾン処理を加えることで、バージンパルプと同等の衛生的で安全な上質のパルプ(衛生材料用パルプ)へと再資源化を可能にしている。そおリサイクルセンターでは、この基本技術を活用してより効果的・効率的な処理技術に向けた実証実験を行っている。

上:紙おむつのライフサイクルとリサイクル技術開発の流れ。右:独自開発の「オゾン処理装置」((写真・資料:ユニ・チャーム)

 一方、志布志市では、ゴミ分別の27品目に加え、使用済み紙おむつについても市民に分別と排出の協力を要請。2016年11月からモデル収集を開始しており、分別された使用済み紙おむつを収集する体制を構築。現在は、さらに再資源化に適した収集方法について検討を実施している。

使用済み紙おむつを収集についての住民向け説明会の様子(写真:ユニ・チャーム)
専用の袋で収集された使用済み紙おむつ(写真:ユニ・チャーム)

 また、こうした使用済み紙おむつの再資源化によるパルプの再利用の環境影響評価を東京都市大学の伊坪徳宏教授と共同で実施。LCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いて、地球温暖化、水処理、土地利用の影響領域における環境負荷を算定し、焼却処理と比較した場合、再資源化処理は、温室効果ガス排出量が約3割、使用済み紙おむつの1トン当たりの処理に必要な水消費量は約6トン、土地利用は約180m2/年が削減されるという結果が得られ、環境に対して有効な手段であることがさらに明確となった(第30回環境情報科学学会〔2016年12月5日〕にて発表)。

使用済み紙おむつを焼却処理しないことで26%の削減効果(資料:ユニ・チャーム)
[画像のクリックで拡大表示]
パルプの有効活用により、木材からパルプ製造時に必要な多量の水を節約(資料:ユニ・チャーム)
[画像のクリックで拡大表示]
パルプの有効活用により、新たなパルプ生成のための森林伐採が減少(資料:ユニ・チャーム)
[画像のクリックで拡大表示]

2020年10月からの本格運用を目指す

 その後、同じくごみの再資源化に取り組む大隅半島の近隣4市5町(志布志市のほか、鹿屋市、曽於市、垂水市、大崎町、肝付町、東串良町、錦江町、南大隅町)とともに「大隅地域紙おむつ再資源化研究会」を発足。紙おむつ再資源化の規模拡大の可能性について検討を開始した。ここで賛同を得た2市4町とともに、2017年11月2日より、順次モデル収集を開始している。

 今後は、2020年10月の本格運用開始に向けて、各自治体との連携により取り組みを進めていく予定で、最終的には国内外で普及可能な紙おむつリサイクルシステムを確立することを目標としている。

■プロジェクトの歩み
  • 2015年10月30日 ユニ・チャームが使用済み紙おむつ資源化のニュースリリース
  • 2016年5月26日 志布志市使用済み紙おむつ再資源化推進協議会発足(第1回会合)
  • 7月21日 紙おむつ処理方法および実証計画協議
  • 8月17日 おむつ排出・処分状況聞き取り
  • 8月19日 モデル回収依頼
  • 8月26日 技術実証打合せ
  • 9月1日 2016年度第2回協議会開催
  • 10月13日 モデル回収説明会(各自治会、施設)(~28日)
  • 11月1日 3者協定締結
  • 11月14日 本田志布志市長とユニ・チャーム高原社長面談
  • 12月6日 ニュースリリース発信、志布志市記者会見、リサイクル協同実証試験開始
  • 12月19日 2016年度第3回協議会開催
  • 2017年1月25日 モデル自治体へのアンケート実施(~2/10)
  • 2月6日 広域化に向けて周辺市町への説明と意見交換(~10日)
  • 2月20日 2016年度第4回協議会開催
  • 5月9日・10日 広域化に向けて周辺市町への説明と意見交換
  • 5月19日 2017年度第1回協議会開催
  • 6月16日・19日 大隅半島市町訪問(東串良町、肝付町、肝属組合、錦江町、南大隅町、曽於市、垂水市、鹿屋市)
  • 8月24日 志布志市環境審議会(紙おむつ事業説明)
  • 8月29日 大隅半島課長会(低炭素化促進事業説明・協議)
  • 9月15日 大隅半島市町訪問(錦江町、南大隅町、東串良町、肝付町、垂水市、大隅肝属広域事務組合、鹿屋市、曽於市)(~26日)
  • 10月4日 2017年度第2回協議会開催
  • 11月2日 大隅地域モデル回収実施(~2018年2月末)
  • 11月8日 2017年度第1回大隅地域紙おむつ再資源化研究会開催
  • 2018年2月13日 2017年度第2回大隅地域紙おむつ再資源化研究会開催
■達成した数字
  • 一般焼却費以下 リサイクルランニング処理費用
    オゾン処理以外に洗浄分離、除菌、脱水などの工程を洗い直し新たな量産体制の構築と環境省へのCO2排出削減対策支援金への対応(予定)

ここを学びたい
――快適、幸福をメッセージする環境CSV事業を展開!!

赤池 学=一般社団法人 CSV開発機構理事長

赤池学(あかいけ・まなぶ)氏
1958年生まれ。81年筑波大学生物学類卒。96年、ユニバーサルデザイン総合研究所設立、2014年CSV開発機構設立。科学技術ジャーナリストとしても活動(写真:北山宏一)

 ユニ・チャームは創業以来、培ってきた不織布や吸収体の加工・成形技術を活かし、肌にやさしい、漏れない、締め付けない、紙おむつ「ムーニー」に代表されるベビーケア事業、生理用品「ソフィ」「センターイン」をはじめとするフェミニンケア事業のトップメーカーとして、業界をリードしてきた企業である。ここで特筆したいことは、同社の事業そのものがまず、「商品開発を通じたCSV」であり続けてきたことだ。

  さらに、1987年に「大人用紙おむつ」の販売に本格参入して以来、ヘルスケア事業としての排泄介護用品の普及拡大も牽引してきた。中・重度、及び軽度失禁の両方において、消費者ニーズを捉えた商品開発と市場創造に努めてきた結果、大人用紙おむつなど大人用排泄ケア商品(軽・中・重度失禁)を示すヘルスケア事業で現在、50%を超える圧倒的な店頭シェアを有している(ユニ・チャーム調べ)。

  軽度失禁市場はこれまで、女性用品が主流だったが、男性もまた軽い尿漏れに悩む人々が多いことから、男性用尿漏れケア専用品「ライフリー さわやかパッド男性用」の吸収量のラインナップを拡充し、早期のセルフケア実現に向けた取り組みを行ってきた。また、大人用のテープ止め紙おむつでは、加齢に伴う筋肉量や運動量の低下で足回りが細くなることによって発生する、足繰りの隙間からの漏れを低減する特許技術「すきまピタッとギャザー」を商品に搭載し、漏れ率を従来の4分の1に低減したのも同社である。

  こうした商品開発を通じたCSVを支えているのは、「地域や生活者を啓発・支援するCSV活動」である。

  ベビーケア事業においては、愛媛県四国中央市での「子育て応援乳児紙おむつ支給事業への協賛」、生産拠点のある静岡県掛川市への「お子様の出生届時にお祝いの品として贈るベビー用紙おむつの寄付」などを行ってきた。また、2014年からは、日本の病院向けに、2500g以下の低出生体重児専用紙おむつ「ムーニー エアフィット」などの開発・販売も行っている。

  フェミニンケア事業においても、アジア地域を中心に、「初潮教育」を展開してきた。女性の生理のメカニズムや生理用品の正しい知識を伝えながら、衛生改善を行い、女性の自立を支援してきたのである。

  今回取り上げたヘルスケア事業においても、健康寿命延伸に向けた積極的な取り組みにより、市場の活性化を図っている。その1つが、目的を持って社会と触れ合うことで、閉じこもりゼロを目指す、「ソーシャル・ウォーキング体験会」の推進だ。ソーシャル・ウォーキングとは、「社会参加&歩行」の造語で、人と関わり、楽しみながら歩くことを誰にも取り組みやすいカタチにした認知症予防のためのウォーキングで、東京都健康長寿医療センター研究所の監修のもと、同社が考案したものだ。こうしたCSV活動の根底にあるのは、「ヘルス(健康)からウェルネス(快適)へ、そしてウェルビーイング(幸福)へ」、という、温もりある企業メッセージである。

  近い将来、台湾やタイ、インドネシア、中国、インドといったアジア市場でも、日本以上のスピードで高齢化が進み、大人用排泄ケア用品の需要が本格化することが見込まれている。同社は今、世界一の超高齢社会と言われる日本で確立したケアモデルをアジア地域に普及させようとしていることも、特筆したいもう一つのポイントだ。

  中国では引き続き、Eコマース市場が拡大し、高品質で安心、安全な日本製の紙おむつとパンツタイプの紙おむつが急成長している。インドネシアでは、商品グレードアップによる収益性改善に着手した結果、市場シェアは圧倒的なNo.1を誇る(ユニ・チャーム調べ)。人口超大国インドでは、供給拠点となる三つ目の工場建設も予定している。そして、国内でも、アジア地域への輸出拡大と国内生産体制の強化を図るべく、福岡県京都郡苅田町に新たな工場用地も取得した。 本編では、「使用済み紙おむつのリサイクル」という、環境CSVについてレポートしたが、その背景にある多様で本質的なCSVの実践、そしてここで触れた公益活動と事業益を両立させる戦略的、かつ大胆な経営投資計画を、ユニ・チャームの実践から学んで欲しい。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/092400011/041700026/