岩手県釜石市の野田市長は、東日本大震災で被災したときの体験から、多数の犠牲者を出した鵜住居地区の防災センターにおける反省点と学校における防災教育の成果を語った。

釜石市長 野田 武則氏
釜石市長 野田 武則氏
2007年11月より釜石市長。現在3期目。岩手県沿岸市町村復興期成同盟会会長、被災者に対する国の支援の在り方に関する検討会委員などを務める(写真:北山宏一)
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 今日は日本大震災で我々が経験したことの一端をお話させていただきたい。二度とこういった悲劇を起こさない、あるいはまたそれぞれの地域で安心して暮らしていただくための環境づくりの一助になればと思う。

 まずは反省点からお話する。釜石市の鵜住居(鵜住居)地区には「防災センター」という建物があった。ここで多くの方が犠牲になってしまった。

 このときは、「防災センター」という名称自体が多くの誤解を生んでしまった。この建物は、防災センターという名称ではあるが、津波の際の一次避難場所ではなく、危機が去った後に避難生活を送るための「拠点避難所」という位置付けだった。このことについての周知が足りず、ここに多くの方が避難して犠牲になってしまった。

 また、震災前、地域の皆さんは高齢者が多いため、避難訓練をする時に「今回だけ何とか防災センターに避難することで許してくれ」という話が町内会からあった。市では「高齢者だけ」ということで2度ほどこれを許可してしまった。これが大きな過ちだった。ここが一次避難場所だという誤解を生んでしまった。まず、公的な施設に名前をどう付けるかということ。そして、「避難場所(一次避難場所)ではない」ということを強く伝えることが大切だ。

 これまで、「ここが避難場所だ」ということはきちんと伝えたてきたのだが、「ここは避難場所ではない」ということは強調してこなかった。大きな反省点だ。

子どもが親を説得して一緒に避難

 次に「よかった点」。震災直後に新聞やテレビなどで「釜石の奇跡」と報道された学校の防災教育についてお話する。釜石市では、学校管理下にあった学校の生徒が、高台を目指して避難をして全員が助かった。

 いざ災害に遭遇した時、避難場所に逃げ込むと、もうそこが安全な場所だと思い込んでしまいがちだ。そうではなく、「これはすごい大きさ津波である」ということを意識して、「ここでは危ない」「もっと高いところに行こう」という発想で行動するのは、現実には簡単ではない。このときは、決められた避難所に逃げて安心するのではなく、次の高台に逃げていくという行動をとれたのが非常に良かった。

 学校管理下ではなく、学校が終わった放課後、子どもたちが自宅に戻った後はどうだったのか。釜石小学校の児童を対象とした調査によると、学校からそれぞれの家に戻って、近くの釣りに友達と遊びに行ったり、あるいは友達とどこかに行ったりということだったのだが、この子どもたちも全員助かっている。親を説得して親と一緒に逃げた子どももいた。これはまさにすばらしいことだった。

下校後の児童も的確に避難した。片田敏孝群馬大学大学院教授をアドバイザーに迎えての防災教育が浸透していた結果だ(釜石市の資料を編集部で一部加工)
下校後の児童も的確に避難した。片田敏孝群馬大学大学院教授をアドバイザーに迎えての防災教育が浸透していた結果だ(釜石市の資料を編集部で一部加工)
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 当初、気象庁の発表では釜石は津波の高さが3mだった。3mの次が6m。そして10mと段階的に津波の高さが高い報道がなされたのだが、残念ながら3mの段階で電源が寸断され、住民には3mという情報しか伝わっていなかった。

 また、防潮堤があり防波堤があるということで、例えば1mの津波が来ると言われても、実際に来るのは10cm、20cmというのが常日頃だった。そうした繰り返しがあり、3mと言われても多くの人が実際に3mの津波が来るとは思っていなかった。

 当時釜石の防潮堤は4mあって、海の方には防波堤があったため、3mの津波が来るといっても実際は20cm、30cmだろうと大人は考えてしまう。だから逃げる必要はないのだという判断をしてしまう。それに対して子どもたちが説得をして、大人も一緒に逃げて助かったということがあった。

 これは自然にそうなったのではなく、防災教育の成果だ。今我々が進めているのは、まさに子どものときからこうした防災教育を行いながら、地域に住む住民の危機意識の喚起に重点を置くという施策だ。防災を考えるとき、ハードの重要性は十分認識をしている。しかしながら、防潮堤が高くなればなる分だけ、そこに住む住民の危機意識は低くなるとも言われる。その点を考えに入れながら、これからのまちづくりに努めていきたい。(談)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/120200020/122800006/