イベント型から持続的プロモーションへと広報戦略を転換

――観光客数の増加に貢献した取り組みとしては、シティプロモーションも注目度が高いですね。

 2期目の市政のキーワードとして「営業する市役所」と「シティプロモーション」を掲げましたが、特にシティプロモーションには力を入れました。

 2012年6月から始めたメディアのロケ支援事業「ADさん、いらっしゃい!」も、その1つです。

 これまで熱海の観光の集客はイベントが主でした。ところが、イベント当日は観光客が来てくださるけれど、終わればまたパタッといなくなる。しかも、運営にかなりの肉体労働が必要なため担当職員は疲弊し、事業者さんも自分のお店をほったらかしでイベントに参加しなければいけないので、長続きしない。それよりもメディアのロケを誘致して、良い場所や風景を撮影してもらい、番組で使ってもらえれば、それを見た多くの視聴者に熱海の魅力を伝えることができ、事業者さんに負担をかけることなく、効果的にプロモーションできます。

 そこで、市の職員がメディアのロケを支援する事業「ADさん、いらっしゃい!」を企画しました。通常のフィルムコミッションで行うロケ先の情報提供だけでなく、地元の出演者との交渉や連絡の調整、公共施設における撮影の申請補助、ロケ弁の手配など、番組制作担当者、いわゆるADさんの作業を市職員が、無料で徹底的にサポートするというものです。

 初めの年は62件くらいで、これでも多い方でしたが、「ADさん、いらっしゃい!」のサポートが「神対応」と評判を取るようになり、今では年間100件を超える映画やドラマ、情報・バラエティ番組などで熱海が露出しています。

――シティプロモーションで、公民連携の取り組みはありますか。

 2013年から、JTBと「意外と熱海」というブランド・プロモーションをスタートさせました。

 熱海市ではそれまで、プロモーションを民間に頼むとき、毎年、事業者を変えていました。そのため、コンセプトもその都度変わっていました。

 そんな状態では大きな効果を出せません。また、市役所の場合、予算が2月の議会で決まると、契約は5月か6月になるので、4月と5月の間は毎年プロモーションができなくなります。「なんとかしないと」という現場からの声もあって「3年ひと区切り」のプロモーションをこの年から始めました。プロモーション効果を考えれば当然のことかもしれませんが、観光を基幹産業にしながら熱海市政では初めてのことでした。

 2013年から3年間実施したブランド・プロモーション「意外と熱海」では、若い女性向けプロモーションとして、春であれば梅と桜、夏はお祭りと花火、秋はグルメとアートなど、熱海の季節の魅力を統一されたイメージやビジュアルで発信し続けました。2016年からの3年間は、第2ラウンドとなる「やっぱり熱海」を続けています。並行して2016年度のはじめには『ただいま熱海』というパンフレットをまとめました。こうして、やっと熱海のブランド・イメージが定着してきたのです。

熱海市発行の『ただいま熱海』。きれいな写真とポップなデザインで、海のリゾート、湯の街、グルメ、祭りやイベント、お土産などの切り口から熱海の魅力が紹介される若い女性向けのおしゃれなパンフレット(資料:熱海市)
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――それまでバラバラに誘客プロモーションを展開していた熱海市、商工会議所、観光協会などの観光関連団体が、「意外と熱海」という統一ブランドでプロモーションすることにより、以前よりも公と民の連携が進んだと聞いています。

 JTBの若い担当者のフットワークが良くて、地元の事業者としっかり話して、信頼関係を構築していきました。結果、それぞれの団体の接着剤の役目を果たしてくれました。

 例えば、その若い担当者の方と旅館組合の青年部のメンバーが中心となって、ブランド・プロモーションの一環として、熱海市発行のタブロイド判のPR誌『あたみ通信』をつくりました。そのなかでは、地元の旅館組合の30代から40代の若手、いわゆる「若旦那」たちと一緒に組んで、「夜を愉しむ」という特集を組んでいます。行政が出している発行物の中で「キャバクラ デビューするなら熱海が安心」なんて書いているのは、全国でも熱海くらいじゃないでしょうか。

「あたみ通信 Vol.03」の表紙と中身(部分)。「キャバクラ デビューするなら、熱海が安心」という見出しが躍る誌面は、行政の発行物とは思えない現場の熱気が伝わって来る(資料:熱海市。日経BP総研が一部抜粋)
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――最近こそ「ナイトタイム・エコノミー」は注目が高まっていますが、行政がこうして「夜の街」の宣伝をするというのは、かなり珍しい例だと思います。

 なぜならば、これが熱海の主要な産業の1つだからです。この産業にも元気がないと、まちの活性化は道半ばです。

 熱海は、人口3万7000人のすごく小さな町です。この町で最も大きな組織体は、熱海市役所なんです。ですから、この“市内最大の事業体”とも言える熱海市役所がどれだけいろいろなことに手を出すかで、町は大きく変わります。熱海市役所は、他の自治体の市役所とは違う。熱海市役所の活動は、たとえて言えば、豊田市にとってのトヨタ自動車、浜松市にとってのヤマハ発動機と同じくらい、熱海市の経済に対してインパクトがあると思っています。

 私の基本の考えは「官には官がやるべきこと、民には民がやるべきことがある」です。観光について、行政がやるべきことは「プロモーションとインフラ整備」。熱海の魅力を全国に発信するというのは、1つのお店やホテルではできない。道路や公園の整備も、行政しかできない。これらの領域は、行政がやります。でも、「お客様にリピートしていただくこと」は、官にはできません。「それは民のみなさんしかできないんです」と、私はいつも言っています。

――民間事業者がリピーターを増やすために、行政がなすべきこととは何でしょうか。

 「みなさん、頑張りましょう!」と声をかけるだけでなく、事業者のみなさんが頑張れば儲かり、努力すれば売上げが上がる仕組みをつくることだと思います。その具体的な事例が、先に紹介したA-PLUSであり、その認定のための商品の開発や改善をサポートするA-bizです。

 「お客様の満足度を上げるのが民の仕事だから、あとはよろしく!」と突き放すのではなく、民間企業のみなさんに「頑張ってみようかな」と思ってもらえる市政をこれからも目指していきます。