人口減少時代には新しい財源の考え方が必要

――熱海市の一般会計当初予算は、観光客数の回復と歩調を合わせるように、2009年度には約168億6900万円だったのが、2018年度には211億5000万円まで増えています。ここまで回復すると、次の課題は何だとお考えでしょうか。

 確かに、お客様は増えました。しかし、税収をみると、実は、決して増えておらず、下げ止まっているだけなんです。今後を考えると、人口と税収が増える見込みはありません。

 にもかかわらず、医療・介護の負担などは増えます。また、古い市営住宅を集約するなどインフラの老朽化への対応もあり、観光に充てる財源は間違いなく減っていきます。しかし、熱海に来られたお客様を飽きさせることなく、観光を盛り上げるためには、常に投資を続けて、新しい魅力をつくらなければならない。そのためには、新しい観光財源を考えなければなりません。

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 私は2018年9月の選挙の公約の1つとして「宿泊税」の導入を提案しました。あるいは、入湯税を上げるという選択肢もあります。いずれにせよ、市民の税金を観光財源に充てるには限界があります。観光のお客様から頂いた税金でお客様に観光サービスを還元するという形で仕組みをつくらなければ、観光地としての魅力を持続的に磨いていくことはできません。

 今は「3年連続で宿泊客数が300万人を超えた」などと喜んでいる場合ではありません。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの後には、景気の停滞が予想されます。あと2年くらいのうちに、財源確保を本気で考えないといけない。その検討部会を2018年12月に開きました。

 新しい観光の枠組みづくり、すなわち、新しい財源と新しい組織の枠組みをつくることによって、持続可能な観光地をつくる。これが今、取り組んでいる課題です。そんな新しい組織の枠組みの一つがDMO(Destination Management Organization)だと思っています。

官による観光振興から、民間専門人材による観光地経営へ転換

――全国の自治体でDMOの取り組みが行われていますが、まだ成功といえる事例は多くないように思われます。熱海市では、市からDMOへの業務移管も議論されているようですが(参考:「熱海市観光戦略会議 第2回会議 議事録」、2018年10月30日)。

 今の地方自治体のDMOの中には、観光協会の看板を掛け替えただけのものが多いという印象です。交付金がもらえるからということでDMOをつくっているケースもあるでしょう。だから、魂が入っていない。その点、熱海市には、魂の入ったDMOづくりの原型があります。

 「意外と熱海」のために、JTBの仕切りで、市役所、商工会議所、観光協会、ホテル旅館協同組合から、旅館の女将さんや商店の事業者さんまでもが同じテーブルについて、熱海の観光について話しあう会議があります。それが、DMOの原型になっているのです。

 市としても、市役所、商工会議所、観光協会、ホテル旅館協同組合のトップと大学教授からなる「熱海市観光戦略会議」を私が市長に就任して以来ずっと開いてきました。部会の1つとして「熱海型DMO構築」に関する勉強会もスタートさせました。熱海市のDMOは、官から観光振興を切り離し、適切なガバナンスの下、プロによる専門性とパフォーマンスの高い観光地域づくりの舵取り役として、また、市内にある6つの観光協会の支援組織として構築していく考えです。

――「人口と税収が増える見込みはない」とおっしゃいましたが、税収の減少に歯止めをかけるためにも、何か人口減少を食い止める取り組みを行っていますか。

 4期目の今、私は「熱海2030ビジョン」を掲げて、「観光・経済の活性化」、「教育・福祉の充実」、「仕事・くらしの変革」の3つの柱に基づき、「回復」から「躍進」する熱海の実現を目指しています。ただ、教育や福祉を充実して、たとえば「子育て」を手厚くすれば人口は増えるかというと、そんな簡単な話ではない。若者が外に出て行ってしまうのは、そもそも、ここで働こうという若者がいないからです。

 今、観光業界は、長時間労働でありながら、賃金レベルは高くないため、若者に敬遠されています。熱海では、海外に行って、外国語やマーケティングを勉強してきた人が、戻ってこられるような職場や環境が用意されていない。生意気ですけど、将来設計がちゃんと描ける業界にしないかぎり、観光業界はダメだと思っています。そこで、今回初めて「仕事・くらしの変革」という柱をつくりました。私は、若者が「熱海で働きたい」「観光業界で働きたい」と思えるようにしたい。熱海を「働きたくなる観光地」にしたいのです。

 「くらし」の面では、住宅問題も非常に大きい。産業界、特に宿泊産業の人手不足と住宅問題は密接に関連しています。この問題を民間の問題と切り捨てることなく、産業界とひざを突き合わせながら、行政と産業界で連携して課題解決を図っていかなければなりません。そうした中で、新たな官民連携の枠組みづくりが必要になってきていると感じています。

齊藤 栄(さいとう さかえ)
熱海市長
齊藤 栄(さいとう さかえ) 1963年3月17日生まれ。1988年、東京工業大学大学院修士課程(土木工学専攻)修了。同年国土庁(現国土交通省)入庁。2004年2月国会議員(衆議院)政策担当秘書を経て、2006年9月熱海市長 就任。4期目。