そして、ブライトンでは住民たちがいくつになっても生き生きとしていたことも印象に残っています。ホームステイ先の80歳を超えたおばあちゃんが、イースターやクリスマスなどのイベントのときに精一杯のおしゃれをしてまちに出かける姿を見て、年齢にかかわらず1人ひとりの個性に配慮した地域であることが見て取れたんです。

 この体験を通して「本当の豊かさとは何だろう?」と考えるようになりました。当時は80年代、バブル絶頂期で日本中にカネとモノが溢れていましたが、お金に代えられない豊かさがあるはずだと。ブライトンのゆったりとした空気が、私が生まれ育った静岡市に良く似ていたことも大きい。そこで「静岡市をワールドスタンダードなまちにしたい」との意識を持って1990年に静岡市議会議員に立候補したわけです。ですからSDGsへの取り組みは、30年来の思いが結実したものと言えるのかもしれません。

――SDGsが国連サミットで採択されたのは2015年9月ですが、当初からSDGsをまちづくりに取り込んでいこうと考えていたのですか。

 むしろ静岡市の思い描いていたビジョンと、SDGsのビジョンがタイミング良く合致したということです。静岡市では2015年4月から8年間のスパンで「第3次静岡市総合計画」をスタートさせましたが、並行して徐々にSDGsが浸透してきました。そしてSDGsの内容を見てみると、世界と地方都市の規模の違いはあれど、我々の総合計画にぴったりとフィットしていることがわかった。

 幸い、日本政府も熱心にSDGsに取り組んでいますし、その追い風に乗ってSDGsとリンクしたまちづくりをしていきたいと考え、すでに策定済みの総合計画とSDGsの目標を融合させることにしたのです。それが政府の目に止まり、SDGs未来都市に選定していただきました。

――昨年(2018年)の5月には、米ニューヨークの国連本部で市長自ら事例発表を行いました。これも大きな転機だと思います。

 国連の友アジア・パシフィックが主催したSDGs推進会議でのスピーチは、世界のモデル都市として認知度向上を図っていくための決意表明です。

国連本部でスピーチする田辺市長(写真:静岡市)
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教育やビジネスにも積極的にSDGsを生かしたい

――ところで、静岡市がSDGsに注力していることを市民はどれぐらい知っているのでしょう?

 現実的には、まだまだSDGsの認知度は低いままです。市民に行った最新のテレビ調査でもようやく15%程度ですから、まずは普及・啓発活動に力を入れる必要があります。そこで1月3〜12日にかけて「SDGs Week」を企画しました。SDGsを市民の皆さんにより身近に伝えていくために、パネル展示やダンス×SDGs、音楽×SDGsなどのパフォーマンスなどによるPR、日替わりでのイベントを集中的に仕掛けたのです。イベントの内容はSDGsが掲げる17の目標にちなんでいます。

 その集大成として最終日に開催したのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019 by TOKYO GIRLS COLLECTION」で、実に大きな反響がありました。市民への高い訴求はもちろんのこと、登場したモデルの方々もSDGs推進の役割を担っていることを意識されていたようです。モデルたちのそんな熱い思いがSNSを通じて拡散したことも、若者たちへの啓発を後押しする要因になっています。

 TGCでは、社会問題に関心が薄いとされる若年層に向けて「SDGsは未来の自分たちの問題である」との意識を高めようと、さまざまな活動を続けています。TGCの企画・運営を手がけるW TOKYO 代表取締役社長の村上範義氏が大学の後輩という縁もあり、SDGsの推進に向けて何かできないかと意気投合し、その一環として実現した形です。

最終日に開催したのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019 by TOKYO GIRLS COLLECTION」(写真:W TOKYO)
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――SDGsは2030年までの目標ですから、これからの時代を担う子どもたちへの啓発も重要になってきます。

 その通りです。SDGs Weekでは「静岡市SDGs中学生サミット」と題して、市庁舎の本会議場を使った本格的な会議を行いました。私や担当局長も参加し、市内43校の代表たちと意見を交わしながらSDGsへの理解を深めたのです。

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1月に開催した「SDGs Week」。ダンス×SDGs×トーク(上)や静岡市SDGs中学生サミット(下)など、多彩なイベントを開催(写真:2枚とも静岡市)
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 子どもたちに対しては、SDGsは「利他の心を育てる概念」であると教えています。日本人が古くから持っていた、持ちつ持たれつ、お互い様といった美徳が薄れてきて、自己中心的な風潮が強まってきています。しかし、次の世代のことを考えて行動しよう、世界のいろんなところに住んでいる人たちのことを考えて暮らしていこうといった利他の心を養うときに、SDGsは非常に効果的なのです。

――今後、SDGsを組み込むにあたっての具体的なアプローチを教えていただけますか。

 まずはまちづくりの計画において、ハード/ソフト含めてさまざまな施策にSDGsの要素を取り込んでいきます。とりわけ注力しているのが民間との連携です。私は常々、「SDGsは大きなビジネスチャンスですよ」というメッセージを、業種を問わず民間企業の方々に伝えています。どうしても最初はチャリティ、ボランティアといったイメージを持たれる企業が多いのですが、自分たちのビジネスにSDGsを取り込むことで商品価値を高めたり、プロモーションに役立てたりしてもらいたいのです。

 例えば今回のTGCのイベントでは地元のシャンソン化粧品がメインスポンサーとして名を連ね、若い女性に向けて積極的にアピールしました。また静岡市には江戸時代から続く伝統的な地場産業の蓄積がありますが、トップモデルが市の伝統工芸品であるかんざしを身に着けて登場したことで、新たな注目を浴びています。先ほども話したようにTGCはSNSも含めて高い影響力と波及効果がありますから、売り出し方によってこれまでとは違う価値が生まれる。これらの事例こそSDGsを起点としたイベントをビジネスチャンスに生かした好例と言えるでしょう。