国の「SDGs未来都市」に選定された自治体の1つである静岡市は、SDGsへの市民の関心を高めるために、講演会やファッションショーなどの「SDGs Week in SHIZUOKA」(1月3~12日)を開催した。同市は、地元企業や市民向けに「公民連携推進に向けた説明会」を開催するなど、公民連携にも積極的だ。田辺信宏市長にSDGs Weekの取り組みの狙いや公民連携の考え方について聞いた。

静岡市の田辺信宏市長(写真:廣瀬貴礼=人物は以下同)
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――なぜ静岡市では、SDGs未来都市を目指しているのでしょうか。

 そもそも8年前の市長就任時から「日本全体が成長拡大の時代から成熟・持続可能の時代になる」との認識がありました。人々があくせく生きる東京のような大都会ではなく、我々のような地方都市こそが、日本の中で最もQuality of Life(QOL、生活の質)を追求でき、本当の意味でのワークライフバランスが取れた生き方ができる都市環境なのではないか――そう考えたのがきっかけです。

 静岡市は首都圏からも近く、温暖な気候の中、自然環境に恵まれています。今日みたいに冬の寒さの中でも日光が燦々と降り注いでいるでしょう? 加えて人口70万人を擁する政令指定都市でもあります。静岡市なら、自分らしく人生を謳歌できるはずなんです。

30年来の思いが“SDGsのまちづくり”に結実

――参考にされたまちづくりなどはありますか。

 今から30年以上前、私は英国・ブライトンの大学院に留学しました。ロンドンから1時間ほど、海岸沿いの観光都市です。そこで2年間を過ごしましたが、ブライトンは非常に市民のQOLが高く、ゆとりのある生活を満喫できました。

 いたるところでユニバーサルデザインが整っていて、障害者であってもまちに出やすい環境になっている。低床バスだったりスロープが整備されていたりと、車イスの人たちが日常に溶け込んでいる姿に感銘を受けました。今でこそ日本でも当たり前の光景ですが、あの頃の日本はハートビル法すらない時代ですから驚きましたね。

 そして、ブライトンでは住民たちがいくつになっても生き生きとしていたことも印象に残っています。ホームステイ先の80歳を超えたおばあちゃんが、イースターやクリスマスなどのイベントのときに精一杯のおしゃれをしてまちに出かける姿を見て、年齢にかかわらず1人ひとりの個性に配慮した地域であることが見て取れたんです。

 この体験を通して「本当の豊かさとは何だろう?」と考えるようになりました。当時は80年代、バブル絶頂期で日本中にカネとモノが溢れていましたが、お金に代えられない豊かさがあるはずだと。ブライトンのゆったりとした空気が、私が生まれ育った静岡市に良く似ていたことも大きい。そこで「静岡市をワールドスタンダードなまちにしたい」との意識を持って1990年に静岡市議会議員に立候補したわけです。ですからSDGsへの取り組みは、30年来の思いが結実したものと言えるのかもしれません。

――SDGsが国連サミットで採択されたのは2015年9月ですが、当初からSDGsをまちづくりに取り込んでいこうと考えていたのですか。

 むしろ静岡市の思い描いていたビジョンと、SDGsのビジョンがタイミング良く合致したということです。静岡市では2015年4月から8年間のスパンで「第3次静岡市総合計画」をスタートさせましたが、並行して徐々にSDGsが浸透してきました。そしてSDGsの内容を見てみると、世界と地方都市の規模の違いはあれど、我々の総合計画にぴったりとフィットしていることがわかった。

 幸い、日本政府も熱心にSDGsに取り組んでいますし、その追い風に乗ってSDGsとリンクしたまちづくりをしていきたいと考え、すでに策定済みの総合計画とSDGsの目標を融合させることにしたのです。それが政府の目に止まり、SDGs未来都市に選定していただきました。

――昨年(2018年)の5月には、米ニューヨークの国連本部で市長自ら事例発表を行いました。これも大きな転機だと思います。

 国連の友アジア・パシフィックが主催したSDGs推進会議でのスピーチは、世界のモデル都市として認知度向上を図っていくための決意表明です。

国連本部でスピーチする田辺市長(写真:静岡市)
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教育やビジネスにも積極的にSDGsを生かしたい

――ところで、静岡市がSDGsに注力していることを市民はどれぐらい知っているのでしょう?

 現実的には、まだまだSDGsの認知度は低いままです。市民に行った最新のテレビ調査でもようやく15%程度ですから、まずは普及・啓発活動に力を入れる必要があります。そこで1月3〜12日にかけて「SDGs Week」を企画しました。SDGsを市民の皆さんにより身近に伝えていくために、パネル展示やダンス×SDGs、音楽×SDGsなどのパフォーマンスなどによるPR、日替わりでのイベントを集中的に仕掛けたのです。イベントの内容はSDGsが掲げる17の目標にちなんでいます。

 その集大成として最終日に開催したのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019 by TOKYO GIRLS COLLECTION」で、実に大きな反響がありました。市民への高い訴求はもちろんのこと、登場したモデルの方々もSDGs推進の役割を担っていることを意識されていたようです。モデルたちのそんな熱い思いがSNSを通じて拡散したことも、若者たちへの啓発を後押しする要因になっています。

 TGCでは、社会問題に関心が薄いとされる若年層に向けて「SDGsは未来の自分たちの問題である」との意識を高めようと、さまざまな活動を続けています。TGCの企画・運営を手がけるW TOKYO 代表取締役社長の村上範義氏が大学の後輩という縁もあり、SDGsの推進に向けて何かできないかと意気投合し、その一環として実現した形です。

最終日に開催したのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019 by TOKYO GIRLS COLLECTION」(写真:W TOKYO)
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――SDGsは2030年までの目標ですから、これからの時代を担う子どもたちへの啓発も重要になってきます。

 その通りです。SDGs Weekでは「静岡市SDGs中学生サミット」と題して、市庁舎の本会議場を使った本格的な会議を行いました。私や担当局長も参加し、市内43校の代表たちと意見を交わしながらSDGsへの理解を深めたのです。

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1月に開催した「SDGs Week」。ダンス×SDGs×トーク(上)や静岡市SDGs中学生サミット(下)など、多彩なイベントを開催(写真:2枚とも静岡市)
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 子どもたちに対しては、SDGsは「利他の心を育てる概念」であると教えています。日本人が古くから持っていた、持ちつ持たれつ、お互い様といった美徳が薄れてきて、自己中心的な風潮が強まってきています。しかし、次の世代のことを考えて行動しよう、世界のいろんなところに住んでいる人たちのことを考えて暮らしていこうといった利他の心を養うときに、SDGsは非常に効果的なのです。

――今後、SDGsを組み込むにあたっての具体的なアプローチを教えていただけますか。

 まずはまちづくりの計画において、ハード/ソフト含めてさまざまな施策にSDGsの要素を取り込んでいきます。とりわけ注力しているのが民間との連携です。私は常々、「SDGsは大きなビジネスチャンスですよ」というメッセージを、業種を問わず民間企業の方々に伝えています。どうしても最初はチャリティ、ボランティアといったイメージを持たれる企業が多いのですが、自分たちのビジネスにSDGsを取り込むことで商品価値を高めたり、プロモーションに役立てたりしてもらいたいのです。

 例えば今回のTGCのイベントでは地元のシャンソン化粧品がメインスポンサーとして名を連ね、若い女性に向けて積極的にアピールしました。また静岡市には江戸時代から続く伝統的な地場産業の蓄積がありますが、トップモデルが市の伝統工芸品であるかんざしを身に着けて登場したことで、新たな注目を浴びています。先ほども話したようにTGCはSNSも含めて高い影響力と波及効果がありますから、売り出し方によってこれまでとは違う価値が生まれる。これらの事例こそSDGsを起点としたイベントをビジネスチャンスに生かした好例と言えるでしょう。

公民連携で「生産性の高い行政運営」を目指す

――民間との連携の視点では、静岡市アセットマネジメント基本方針に則り、9月と11月に民間事業者向けに公民連携推進の説明会も開催しました。その狙いは。

 これからの時代は、限られた財源の中で、効率的かつ効果的な公共施設などの整備を進めていかなければなりません。そんな時代に箱モノを公営で次から次へと建設できるわけがありません。これまでは自治体が補助金を出すスキームでしたが、これからは民間の活力をどのように採り入れて、行政サービスに生かしていくかが鍵を握ります。

公民連携推進説明会の模様(写真:静岡市)
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 昨年開催した説明会では、新清水庁舎の建設事業や、旧青葉小学校跡地の利活用などについての対話も行いました。大きな方向性としてはPFIで設計、施工から運営までをお願いする可能性も出てきています。言うなれば「生産性の高い行政運営」というわけです。

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 旧青葉小学校跡地は市内中心地の駿府城三ノ丸という絶好のロケーションにあり、2021年に歴史文化施設がオープンする予定です。同施設に隣接する市有地に民間施設を誘致することで、歴史文化施設との連携による賑わいの創出と新たな財源を確保することができるかもしれません。こうした方式が主流になれば、地元の民間企業も自分ごととして考えられるようになり、中小企業も活性化します。チャレンジングな部分も多いですが、新しい形の公民連携をどんどん広げていきたいですね。

田辺 信宏(たなべ のぶひろ)
静岡市長
1961年8月20日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年に旧静岡市議会議員、1995年静岡県議会議員。2011年から静岡市長を務め、現在2期目。

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