組織改革で庁内の横串を通す

――それらを実践するために、行政の体制を変更してきたことはありますか。あるいはこれから、何か考えていることはありますか。

 組織としては2020年度から新たに産業労働部には県内でのDX推進やスタートアップを支援するDXスタートアップ推進室を設置し、総務部には県庁の業務を中心にAIなどの最先端技術の活用を推進するデジタルイノベーション室をつくりました。いずれも他の部署との交流がしやすい横串が刺せる組織です。ただ、これで終わりではなく、今後の状況次第で臨機応変に組織は変えていこうと思っています。組織を固定してしまうこと自体が、“DX脳”ではないと思います。

(写真:菅敏一)
(写真:菅敏一)
[画像のクリックで拡大表示]

 私は官民は一緒になって幸せを求めるものだと思っています。ですが、「行政がちゃんと耳を傾けてくれない」とか対立構造になりがちです。でも、そんなことであっていいはずがない。佐賀の企業や県民と佐賀県庁は一緒になって、いろいろ議論しながらやっていくことが必要で、そのためには組織は変えていく。コロナとDXを契機として、新しい世界が生まれてくると思っています。

――そもそもDXが必要だと思われるのは、なぜなのでしょう?

 同じ仕事をずっと続けていることに対してリスクが生まれています。同じような業態がいきなり消えてしまう可能性が今はあるわけですから。そういったリスクに対して、行政としては自分たちの地域がしっかり対処できるように支援しなくてはならない。

 例えば、航空業界も大変厳しい状況で、(佐賀空港に路線を持つ)盟友の全日空さんをはじめ大変心配です。今は「SAGĀNA Project」(サッガーナプロジェクト、ANAと佐賀県が連携して様々な企画でANAを応援していくプロジェクト)を実施しています。

 また、今は厳しい状況ですから、今までどおりにしかやれない企業も多くありますが、そういう企業についてもしっかりと支援し、新しい世界に誘ってあげたいなと思っています。今までは当たり前のようにあった業界があっという間に変わっていく時代。もちろん、進化もします。ひょっとすると、その中では淘汰があるかもしれない。けれども我々はみんな佐賀県の仲間だし、挑戦する人は応援するし、なかなかチャレンジできない人もできるだけ一緒になってDXの仲間の中に入ってもらう。今までの大量護送船団ではなくて、別の船団が作れたらいいなと思います。

――その船団にはやはりAIやIoT、5Gといった技術が当然必要になってくるので、そこは育てなきゃいけないということでしょうか?

 新しい世界にはデジタル化してつながっていくことが必要で、基礎的な技術がないと入ってはいけない。今でこそインターネットの普及によって、どのような場所で暮らしていても、海外からでも、いろいろな商品がすぐに届くけれども、昔は、そんなこと考えられなかったですよね。“DX脳”を持った人間がいて考えたわけです。ただ一人の“DX脳”だけでは実現するのは難しく、様々なデジタル技術によってそれは成し遂げられてきたのだと思います。

山口 祥義(やまぐち よしのり)
佐賀県知事
1965年生まれ。89年東京大学法学部卒業、同年、自治省(現総務省)入省。内閣安全保障・危機管理室参事官補、総務省過疎対策室長などを歴任。東大院総合文化研究科客員教授、JTB総研、ラグビーワールドカップ(RWC)2019組織委など民間でも活躍。2015年1月、佐賀県知事に就任(現在2期目)。