人口約2万4000人の茨城県境町では、2014年に橋本正裕氏が町長に就任して以来、「財政再建」「人口増加政策」「ひとの創生」の3つを軸にした政策で発展し続け、各自治体の視察がやまない状況だ。「ふるさと納税」の寄付金額は橋本町長就任前の年間6万5000円から2020年度は約40億円にまで増加。「スーパーグローバルスクール事業」に取り組み、独自の英語教育政策を実施。また子育て支援を充実させた上での「PFI住宅事業」、町への人の流れを作る役割も果たす世界的建築家・隈研吾氏設計の6施設の建設、そして今最も注目される「自動運転バス」の運行など次々と町の目玉となる事業を打ち出し、しかもそれぞれが単独ではなく相乗効果で成果を出している。「自力で稼ぐ自治体」として注目を集め、「これからは自治体マネジメントが重要なトレンド」と予測する橋本町長に話を聞いた。

(写真:高山透)
(写真:高山透)

――2020年11月25日に自動運転バスの実用化を開始しましましたが、約1年を経ての反響は?

 新型コロナウイルス感染症拡大による影響は想定内でしたが、落ち着いている時期の反響は、想定を大きく上回りました。

 21年7月1日から、境町と東京駅を結ぶJRバス関東と関東鉄道による1日8往復の高速バスの運行が始まったのですが、21年9月の利用者はコロナ禍の影響を受け450人でした。それが12月には1623人と3倍以上に増加しました。

 利用者増の大きな要因は自動運転バスです。研修、視察、取材などを目的に、経済産業省や国土交通省、内閣府、デジタル庁といった国の中央省庁、名古屋大学、東京大学など大学機関の研究者が来町。11月24日時点で累積視察件数は103団体、累積視察人数は388人となりました。

境町を走る自動運転バス(写真:高山透)
境町を走る自動運転バス(写真:高山透)
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 さらに自動運転バス目当てで来た方が隈研吾氏設計の施設に興味を持つ。あるいはふるさと納税で町を知った方が自動運転バスに興味を持つなど、相乗効果も生まれています。

――自動運転バス導入に限らず施策にスピード感があります。

 スピード感に関しては、隈氏に民間企業と一緒に仕事をしているようだと言われていますね。なにしろ隈氏が設計した施設を、18年から21年までの3年間で6つも建設していますから境町の発表資料。ただ自動運転バスに関しては運営会社のボードリーはじめ、関係者の尽力のおかげがあってのことです。

隈研吾氏設計の施設の第6弾となる「S-ブランド」。境町の人気商品である干し芋をブランディングし、関連商品の販売や、カフェメニューを提供する店舗「HOSHIIMONO100Café」として運営している(写真:境町)
隈研吾氏設計の施設の第6弾となる「S-ブランド」。境町の人気商品である干し芋をブランディングし、関連商品の販売や、カフェメニューを提供する店舗「HOSHIIMONO100Café」として運営している(写真:境町)
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 自動運転バスをはじめ、様々な施策の費用対効果について聞かれることもありますが、この事業に限らず、最大の目的は住民の困り事の解消です。町長就任以来、まちづくりや教育、移住といった町を維持する仕組みづくりとして早くから取り組んできましたが、公共交通だけは手が付けられずにいました。境町は鉄道がなく公共交通が脆弱で、病院、スーパーなどが近くにない高齢者たちが免許返納できなかったり、あるいはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に空きがある市区町村に引っ越したりし始めています。また、若年層が東京と行き来する手段も限られていたため、大学進学、あるいは高校進学を機に町を出てしまうという課題もあります。これらを解消する仕組み作りがすぐにでも必要でした。

 自動運転バスは年間約1億円の投資ですが、それ以上の効果を実感しています。様々な政策の中の1つにすぎませんが、現時点では全国で唯一の取り組みですので、町のブランド力向上につながっています。経済効果は今後、約7億円にも匹敵するようになると考えています。

 町民にしても、自分たちの住むエリアへの運行ルート拡大はいつごろかと期待を寄せてくれています。境町では自動運転システムに起因する事故は1年間で1件もなく運行できていますし、自動運転バス専用保険や救助サポート(セネック)もあり、車両にはドライブレコーダーも付いています。迷われている自治体の方がいたら、議員の方も帯同して境町で体験していただき、自動運転バス導入につながればと思っています。