自治体は公共施設をいつまで持ち続けられるのか――。そうした問題意識から、民間企業と連携を図りながら公共施設マネジメントに取り組む愛知県高浜市。市庁舎を保有から定期借家に切り替え、勤労青少年向け施設の跡地活用を民間に任せる一方で、地域の核と位置付ける小学校ではPFI事業での建て替えに併せて機能の複合化を図る。10年前の市長就任時から旗を振り続けてきた吉岡初浩氏に、取り組みの狙いや評価、合意形成上の課題などを聞いた。

高浜市の吉岡初浩市長(写真:森田 直希)
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――高浜市では「市庁舎整備」「勤労青少年ホーム跡地活用」「高浜小学校整備」の3件をモデル事業と位置付け、公民連携で公共施設マネジメントに取り組んでいます。新庁舎は2017年1月開庁、勤労青少年ホーム跡地に整備される民間スポーツ施設「コパンスポーツクラブ高浜」は19年4月に一部を除きオープン、小学校の新校舎が19年4月オープンと、それぞれ進ちょくしています。モデル事業に取り組んだ狙いは何ですか。

 行政サービスを低下させることなく、地域を維持していくことが狙いです。公共施設を更新するとなると、起債するしかない。それは、次世代の市民に多くの負担を強いることになります。一方で、人口が減るのに伴い、税収も減っていきます。財政面から、今と同じ規模の公共施設を持ち続けることは困難です。公共施設を財政規模に見合うよう圧縮しながら、将来にわたる財政負担の平準化を図る必要があります。

 高浜小学校に移すことを決めた中央公民館のホール機能を例に取りましょう。既存の中央公民館には600人収容のホールがありました。予算を投じて改修しても、将来建て替えが必要になれば、そのときはまた予算を投じなければなりません。将来の税収がそこに拘束されてしまいます。ところが建て替えるとき、そのホールが果たしてどの程度利用されているのか。公共施設を財政に見合う規模に圧縮していくなら、決断は早いほうが得策です。

 折しも、高浜小学校が建て替えの時期を迎えていました。ホール機能なら小学校の体育館と併用できます。しかも、年少人口はそう極端には減少しない見通しのため、更新時期を迎えれば、そこに再び予算を投じることも可能です。そこで、小学校をPFI事業で建て替え、さらに機能の複合化を図ることで、財政負担の平準化を図りながら公民館のホール機能を維持しようとしたわけです。

高浜小学校外観パース。右の建物が地域交流施設を併設する学校校舎で2019年4月にオープンする。左の駐車場の奥にある建物が公民館のホール機能を兼ねたメインアリーナやサブアリーナなどで2020年9月にオープンする予定(資料:高浜市)
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小学校のプールは民間スポーツ施設に

――民間企業との連携を図る意義は、何よりまず財政負担の平準化にありますが、ほかにも意図していたことはありますか。

 庁舎で言えば、市民の利用価値を高めるような賑わいづくりがそこでできれば、と考えていました。庁舎の脇に別棟で建設した平屋の会議棟が、その役割を担います。そこを活用して、民間事業者や市がイベントなどを仕掛ける想定です。

 災害時を考えても、民間事業者との連携は意味があります。建物は民間事業者の保有ですから、市側では被災した建物の復旧を考えずに済みます。市民に向き合った救護・復旧活動に専念できるわけです。

 勤労青少年ホームの跡地活用では、ここで民間事業者が整備・運営するスポーツ施設内のプールを、高浜小学校をはじめ、市内の小学校の水泳の授業に活用します。そのため、PFI事業で建て替える高浜小学校にはプールを新しく整備しないで済みました。そこにはもちろん財政上のメリットはありますが、それだけではありません。

 小学校のプールの場合、清掃や水質管理などの維持業務は先生方が担います。水泳指導は得意ではない先生であっても担当しなければなりません。しかし民間事業者と組むことで、そうした業務から解放されます。もちろん、水泳の授業には先生が同行します。指導にはスポーツ施設側のインストラクターが加わりますから、児童にとっては、専門性の高い指導を受けられるうえに安全性も高まるわけです。小学校との間の送迎も民間事業者に任せます。先生方の負担が減る一方で授業の質が高まるという点も、民間事業者と連携する大きなメリットです。

勤労青少年ホーム跡地開発の事業スキーム図。民間事業者は跡地を市から借りてスポーツ施設やテニスコートを整備する。スポーツ施設内のプールでは、市内の小学校の児童を対象にバスでの送迎まで含む水泳指導を行う(資料:高浜市)
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――公共施設マネジメントは、10年前に市長に初めて就任した時のマニフェストに掲げていました。2011年度には、国が全国の自治体に要請するより前に「公共施設マネジメント白書」を策定しています。以来、公共施設のあり方を検討し、その結果を基に3つのモデル事業を進めてきました。合意形成には苦労したのではないですか。

 はい、苦労しました。人口が減っていく中で将来への備えとして公共施設マネジメントが必要だということは、漠然とかもしれませんが、ご理解いただいています。しかし個別施設に話が及ぶと、利害関係から「納得できない」という市民が出てきます。

 そこで聞こえてくるのは、既存の建物を取り壊すのはもったいない、という訴えです。将来、その施設を維持できなくなると説明すると、リノベーションで施設の機能を見直せばいいと反論されます。しかし、建物を維持しながら運営していくわけです。民間で運営するならまだしも、公共で運営するのであれば、限界があります。財政に見合う規模まで公共施設が圧縮されるわけではありませんから。

合意形成には、実際の見積額を示すのが安全

 「もったいない」と言うなら、施設を維持するために予算を投じるのも、もったいないのです。いったん予算を投じてしまえば、将来再び予算を投じてその施設を維持していかなければなりません。しかし、そこが分かりにくいようです。

 もっと切羽詰まった状況であれば、また違うでしょう。例えば小学校に通う児童が減ってしまい、統合しなければいけない、廃校しなければいけない、という切迫感があれば、もう少し納得してもらえると思います。しかし、そこまでの切迫感はありません。

――市では公共施設の更新にかかる費用総額を40年間にわたって試算しています。数字を用いた説明は納得を得られやすいと思うのですが、実際にはいかがですか。

市が2011年度にまとめた「公共施設マネジメント白書」で示した試算の結果。向こう40年間にわたる公共施設の更新費用を、総務省単価を基に算出した(資料:高浜市)
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 これが、そうでもないのです。取り壊し費用にしても更新費用にしても、建設会社に見積もりを算出してもらっているわけではありません。市では、総務省が示す単価を基に試算しています。ところが各論に入って、見積もりを算出してもらうと、この数字とかけ離れた数字になってしまいます。そうすると、試算の数字と違うではないか、と批判を受けることになってしまいます。総務省単価を用いて試算するのではなく、近隣市町で行われた同規模の公共工事の金額を基に類推したとしても、それは高浜市の場合とは違うのではないか、と批判されてしまいます。

 いまとなっては、実際に見積もりを算出してもらうしかない、と考えています。そのための費用が必要になるでしょうが、それが一番の安全策です。

――モデル事業への取り組みがひと区切りついたいま、思うようにできた点、できなかった点、それぞれあると思います。先行した庁舎の整備事業からお聞かせください。

 庁舎に関しては、市としては建物を保有する民間に床の一部をコンビニエンスストアやカフェなどに賃貸する事業を営んでもらえるようにし、収益面でのメリットを打ち出せれば、と考えていました。しかし、最終的に選定された民間事業者の提案には、そうした収益事業は盛り込まれていませんでした。この場所で収益事業を成り立たせるのが、もともと難しかったのかもしれません。

――庁舎の建物は、20年間の定期借家で市が民間事業者から賃借しています。20年後、庁舎機能はどこに置くことになるのですか。

 賃貸借期間が満了する前に、建物を保有する民間事業者と協議し、社会情勢をにらみながら、例えばまるまる買い取って床の一部を賃貸するなど、取り扱いを決めることになります。その時にどのような対応でも取れるように、建物は何の変哲もないシンプルな四角い箱のような造りにしています。

市庁舎外観。3階にある議場は床がフラットな通常の会議室仕様。閉会中は行政や市民にも開放される。市庁舎手前の平屋の建物が会議棟(資料:高浜市)
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図書館の本来の目的は何かを目下検討

 そもそも庁舎はいつまでも必要なのか、という問題意識も持っています。庁舎で行っている行政手続きは本来、市民がご自宅で済ませられるようにすべきです。災害時の対策本部機能をどこに置くかという問題は残りますから、何らかの拠点は必要ですが、まちのシンボルとしての豪華な庁舎は必要ないと考えています。

 高浜には地場産業である窯業の工場が残っています。重量鉄骨造りで骨組みは頑丈ですから、庁舎として再使用することも可能です。その一角に耐震性の高い場所を整えて災害時の対策本部機能を置けるようにし、ほかの場所で日常的な庁舎機能の役割を果たすことも可能です。民間事業者の公募段階では「そうした提案も歓迎します」と話したほどです。

――PFI事業として取り組む高浜小学校の建て替えに関しては、いかがですか。

 議会の理解を得るのが難しいと思いました。議会には総予算と仕様書は示せますが、民間からの提案を受ける前ですから設計図書のような細かな資料は市からは示せません。議会に対しては、市で定めたこうした仕様を満たすものをこれだけの予算で整備することを承認してください、という言い方にならざるを得ない。事業の仕組み上、議会の理解を得て進めていくしかありません。

――高浜小学校では公民館や体育館などの機能と複合化を図っています。実際にその効果がどのように表れるかはまだ見通せないと思いますが、現段階でどのような期待をお持ちですか。

高浜小学校は建て替えに併せて機能の複合化を図る。公民館機能(地域交流施設)、体育館機能(サブアリーナ)、児童センターが新しく加わる(資料:高浜市)
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 公民館機能を担う地域交流施設(「たかぴあ」。2019年4月1日一部オープン)では、高齢者向けのパソコン教室が開かれたり、木工などのものづくりを通じて地域交流を深める施設が運営されたりします。これらの施設運営に関わる市民の方々には、小学校のパソコンや図工の授業に協力したいという意向があるようです。学校側でも、そうした提案は歓迎できるのではないかと思います。

 地域交流施設に関わる市民の方々が、小学校の応援団のような存在になればいいと期待しています。不審者が侵入するような不測の事態が起きたとしても、校内に大人の目や手があれば安心です。地域の大人が常に出入りしているということは、小学校にとって大きな力になるはずです。

――公共施設マネジメントの観点から、今後、手を付けていく公共施設としては、どのようなものが挙げられますか。

 図書館です。図書館の本来の目的は何かという問題を、図書館ボランティアや読み聞かせの会などの利用団体を交えて、関係部署で検討してもらっています。例えばベストセラーをリクエストし借りて読む、来館し新聞や雑誌を読む。それも図書館の利用の仕方であるとは思いますが、高浜市が予算を投じて整備すべき図書館は、そういうものなのか、と疑問に思います。人が集まる施設としての図書館にさまざまな形態のものが登場している中で、高浜市の図書館は誰に向けて何をすべきかを考えていこうという取り組みです。なるべく早い段階で方向性を示していく方針です。

吉岡 初浩(よしおか はつひろ)
高浜市長
吉岡 初浩(よしおか はつひろ) 吉岡 初浩(よしおか はつひろ)1955年愛知県生まれ。1979年、名古屋市立大学経済学部卒業。その後、地元の瓦製造会社などに勤務。1999年、高浜市議会議員に初当選。2008年、不動産管理会社の代表取締役に就任。2009年9月高浜市長に就任。3期目。

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