経済効果は52億円、それでも市民は2つに割れた

(写真:水野浩志)

――つまり、「篠山市」から「丹波篠山市」への市名変更の取り組み自体が、市と市の基幹産業である農業、商工、観光の民間団体の公民連携によって始まったわけですね。実際、議論はどのように進められたのでしょうか。

 要望を受けて「こういった問題が出てきますよ」と市民に提案しました。すると、市民の間では意見が真っ二つに分かれた。「それは早う変えなあかん」という人と「今の名前で不自由してませんから」「『篠山市』に愛着がある」という人、いろんな意見が出た。これでは前に進まないということで、議論の材料とするために調査しました。

――どんな調査をしたのですか。

 調査は市の職員のプロジェクトでしたが、経済効果などいろいろな指摘があり、なかなか職員だけではできませんので、2017年末に北九州市のコンサルティング会社「日本統計センター」に頼みました。「篠山」と「丹波篠山」のブランドを比較したら、全国的には圧倒的に「丹波篠山」が知られている。その方が観光やいろんな産物のブランドの価値があるというのがわかりました。

 2018年3月末で調査が終わり、同年4月に(「篠山市」から「丹波篠山市」に市名変更すると)経済効果が約52億円*という調査結果を発表しました。これをもとに「それやったら(市名変更の議論を)前へ進めようか」と。

* 混乱状態が続いた場合の丹波篠山ブランド喪失による損失と、市名変更に伴い定着する丹波篠山イメージによる観光誘客などの新たな経済効果の合計額。篠山市が2018年4月に発表した「市名変更に係る調査報告書」による。

――市名変更で地域経済に52億円ものプラスの影響があると説明して回っても、なぜ、すんなりとはいかず、その是非を問うための市長の出直し選挙と住民投票が必要だったのでしょうか。

 住民投票まで行ったというのは、非常に大きいことです。何かあったとき、住民が自分で決められるのは、一番大事なことですから。私はもともと市民の声をできるだけ聞いて市政に反映させるスタンスでしたので、常設型の住民投票条例をつくっておいた。2013年12月に制定して、14年度から施行。兵庫県下で一番早かった。

 (市名変更に関しては)200カ所以上で説明会を開催して議論を尽くしましたし、最初は難しかった議会もどんどん賛成が多くなり、「これで(市名変更は)できるだろう」と思っていたら、賛否を問う住民投票の署名活動が始まったんです。署名は1万以上集まって、住民投票が実施されることになりました。

――住民投票になると、市名変更が反対多数で却下される可能性もあったわけですね。

 私が心配したのは(却下されることではなく)「署名は集まったけれども、住民投票になったとき、投票に行ってもらえるか」ということです。有権者の5分の1の署名が集まれば住民投票はできるけれども、実際に住民投票になったら、みんな(有権者の半数)が行かないと成立しない。一般的に署名の数より投票の数は少ないので、非常に成立は難しい。実際、各地で行われた住民投票でも、成立しないことも少なくありません。

 だから、私は辞職して選挙をしたんです。市長選挙と併せてやれば(投票率が)50%はいくだろう、と。

――つまり、住民投票の実施は決まったものの、成立条件は投票率50%以上が必要なので、投票率を上げるために市長の出直し選挙も同時に行うことにした、と。

 マスコミに非常に取り上げていただいたおかげで、市民の関心も高くなって、思っていた以上に投票率が高くなった。今回は成立したからよかったんですけれど、もし成立しなかったら、いつまでもこの市名変更の問題はくすぶっていたでしょう。

――酒井市長の「投票率を上げたい」という考えどおり、住民投票の投票率は69.79%と非常に高くなりました。ただし、「市名変更」の是非の結果は「有権者数3万5000人のうち、賛成1万3646票(56.5%)、反対1万518票(43.5%)」と非常に僅差になりました。反対に票を投じたのは、どのような意見の人たちだったのでしょうか。

(市名変更によって生じる)「余分な金を使うな」という意見が多くありました*。

 そのほか、昔の「丹波篠山」といえば「田舎」の代名詞、遅れたところのイメージを持っている人もいます。「なんでわざわざ『丹波』をつけて、古臭いイメージにせないかんのや」って。昔からの地元の人には、そういう人が多い。

 あと、篠山は大阪まで1時間です。駅周辺には(ほかの地域から移り住んで来た)新しい市民が相当数います。そういう方の中には「別に『篠山』でも『丹波篠山』でもどっちでもええ、ややこしいことはやめてくれ」という意見も相当数あったと思います。

* 市名変更に伴い、現在、住民基本台帳などの書類等を変更する諸々の経費として6550万円、加えて、市名変更を祝う取り組みなどPRとなる市民活動の経費の補助金等が約2000万円、企業や各種団体の住所変更に伴う書類や看板の書き変え等の諸々の経費のための補助金が約2000万円、合わせて1億円余りが「市名変更関係事業費」として予算化されている。

――地元で生まれ育った年配の方々は「丹波篠山」に田舎臭いイメージがあったから市名変更に反対、この20年間で移り住んで来た比較的若い世代は「篠山市」に愛着があり、「丹波篠山」に変えるメリットが感じられないから改名に反対ということで、ここまで住民投票の賛否が割れてしまった、と。

 私も票を開けてびっくりしましたけど、あんなに(反対票が)あるとは思っていなかったんです。