副町長直下にCDO、“アドバイザー”では機能しない

――組織上、CDOはアドバイザーではなく、各課の上、副町長の下に位置付けられています。

 CDOを置く際に重要なのは、実際に機能するかどうかです。行政組織の中で、アドバイザーという位置付けの外部の人が助言しても全然機能しません。みんな話を聞くかもしれませんが、結局、「それをやろうとすると、こんな問題やあんな問題が発生して、うまくいきません」と言われ、何も進まない状況になってしまいます。

 カギは「CDOを組織に中にしっかりと組み込む」ことです。だから、各課の上、副町長の下にCDOを置きました(図1)。また、CDOの下には、DXを推進する組織として3年間の期限付きでデジタル変革戦略室を設置しています。

CDOとデジタル変革戦略室の位置付け(出所:福島県磐梯町)
CDOとデジタル変革戦略室の位置付け(出所:福島県磐梯町)
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 各課が独立して動いていて横のつながりが弱いと、DXという組織横断的な取り組みを進めるのは難しいので、すべての課に対して目配りできる位置にCDOを置く必要がありました。こうしなかったら、「一部の課でDXに取り組んでいるだけでしょ」と他人事になっていたかもしれません。この組織の形にする途中で異論は出ましたが、「絶対に形を変えないでいくんだ」と言って進めました。

 CDOの菅原さんは副業を持っている立場で磐梯町のDXに参画するため、その点でも役場内に抵抗感はありました。しかし、菅原さんは説明が上手ですし、就任前に何度もこちらに来てもらい、職員と飲みながら思いを伝えてくれました。ここで信頼関係ができて、皆が目指す方向を分かってくれたと思います。この件は、法律家を含む多方面の外部有識者で組織した「磐梯町デジタル変革オンライン審議会」でも審議してもらい、問題ないと判断しました。

DXを足掛かりに、風通しのよい組織へ

オンライン・インタビュー中の佐藤町長(写真:磐梯町)
オンライン・インタビュー中の佐藤町長(写真:磐梯町)

――磐梯町における、具体的なDXの取り組みについて教えてください。

 菅原さんには2019年11月にCDOを委嘱して磐梯町のDX戦略を一緒に検討してもらい、2020年3月議会では「デジタル変革と共生社会の実現」をうたった町の最上位計画である磐梯町総合計画を承認いただき、2020年7月に正式にデジタル変革戦略室を設置しました。その間、職員向けDX戦略説明会の開催やデジタルデバイスの導入など、段階を踏んでDXを進めています。

 まず、役場内にもチャットツールを入れて、情報が縦にも横にも通るような、風通しをよくする仕組みをつくることから始めました。

 町長になって感じたのは、役場内の情報伝達不足です。例えば、私あてのメールは1日3通くらいしか来なかった。民間企業に勤めていたときは1日100通以上来ていたので、それと比べると非常に少ないわけです。現場の情報が上がってこず、上からの情報が下りていかない。各課の間でも情報共有されていないようだったので、状況を変えていくためにまずは手軽に情報を共有し合えるチャットツールを入れました。

 DXに向けた準備として、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)にも取り組んでいます。職員は、町の業務だけでなく、国、県から要望された資料の提出、現場対応などいろいろな業務を一人で進めなければならず疲弊しています。しかし、BPRで業務の棚卸しをしてみれば、DXで解決できることやアウトソーシングできる業務が見えてきます。アウトソーシングできる業務は多いと思っているので、なるべく職員の負担を軽くしていきながら、町民サービスに向き合う時間を増やしていけるような仕組みをつくっていきたいと考えています。

 また、これまで推進してきたDXをさらに強化するため、サービスのデザインとセキュリティーの有識者を民間から募り、2021年4月にデジタル変革戦略室のCDO補佐官を委嘱しました。特にサービスのデザインは重要と考えていて、町民が本当に困っていることをどう解決し、町民の視点からサービスの便利さや利用しやすさを追求する必要があります。しかし、関係する各課に任せると、町民視点で各課をまたがる横断的なサービスにまとめ上げるのは容易ではありません。そこで、すべての課に対して目配りできるデジタル変革戦略室にデザイン担当のCDO補佐官を加えたのです。

――最初にチャットツールを入れた狙いは?

 DXを足掛かりにして、組織風土を風通しのいい形に変えていきたいと考えています。その一つがチャットツールによるコミュニケーションの活性化です。

 私は、職員が理解、納得しない限り、行政は変わらないと思っています。そのためには、情報を透明にして共有し、課長であろうと一般職員だろうと何でも話し合える風土が必要です。私も毎週、ブログという形で職員全員にトップ情報も流し、風通しをよくしていこうとしています。そうすることで、個々の職員が動きやすくなり、業務の工夫や提案もしやすくなっていきます。

 私が星野リゾートで働いていたときに学んだ「フラットな組織文化」の考え方なのですが、総支配人やセクション長というのは「ポジション」にすぎなくて、別に偉いわけではありません。私自身も、町長だから偉いわけではないのです。よくメールに「佐藤町長様」と書いてあったりするのですが、祭り上げないでほしいと言っています。チャットで気軽に「町長」と話しかけてくれたらいい。そういう風土をつくる土台がチャットツールです。もちろん、リアルのコミュニケーションも大事なので、みんなが平等・公平に話せるよう、私は年に1回か2回、全職員および任用職員120人と30分ずつ面談をしています。

 チャットツールを導入して、業務のスピードはかなり速くなりました。以前はメールを出して返信が来るまでに1週間かかっていたりしましたが、今はチャットですぐに返信があるので、本当に仕事がしやすい。

 取り組みの進捗度はまだ30%くらいでしょうが、成果は徐々に出てきていると思います。進捗度が50%、100%となるにはもう少し時間がかかりますが、職員に体験してもらって理解してもらい、「これはいいな」と感じてもらう、そういう体験を少しずつ広げているところです。