町民や職員がオープンに「つながる」ことから

――町民サービスでも、いろいろとDXに取り組まれていますね。

 町民サービスのDXとしては、AI(人工知能)アシスタントが音声で情報を伝えたり会話したりできる「AIスピーカー」を導入して、今、民生委員にテストケースとして使ってもらっています。主に一人暮らしのお年寄りに向けた情報端末です。

磐梯町が試験導入したディスプレイ付き「AIスピーカー」。写真は情報(コンテンツ)の検索結果を表示したところ。「口頭」で操作可能(出所:福島県磐梯町)
磐梯町が試験導入したディスプレイ付き「AIスピーカー」。写真は情報(コンテンツ)の検索結果を表示したところ。「口頭」で操作可能(出所:福島県磐梯町)
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 町民サービスでDXを進めるには、町民側に何かしらの情報端末が必要です。普通はスマホを使うことが多いでしょう。ただ、若い世代にとってスマホは普通のツールでも、お年寄りには難しく感じられることがあります。情報端末がスマホだけだと、サービスを受けられないお年寄りが出てきてしまいます。

 私は町民誰一人として取り残さないデジタル変革を目指しているので、スマホを使わなくても、口頭でサービスを受けられるようにAIスピーカーを取り入れる予定です。AIスピーカーの導入は、磐梯町の「ばんだい宝ラボ(たからぼ)」という官民協創プロジェクトの一つとして、NTTデータと組んで実施しました。

 AIスピーカーの使い方についてはいろいろと検討しています。役場から町民へのお知らせや防災無線の情報を流すのはもちろん、双方向の会話もできるので、もしお年寄りが苦しくなったり、調子が悪くなったりしたときは、AIスピーカーと会話することで磐梯町の医療センターに直接つなぐことなど具体的に生活に結びつく使い方を検討しています。

 子育て分野では、保育所と保護者をつなぐ「CoDMON(コドモン)」というクラウドサービスを2020年から導入しています。「今日、子どもたちがどうすごしたか」という保育所での様子や、「発熱はないけれど少し元気がありません」、「今日は早退します」といった保護者からの連絡など、保育所と保護者の間に必要なコミュニケーションや情報共有がすべてスマホでできるようになりました。保護者の方々からは、使い勝手がいい、子どもの様子などこれまであまりオープンではなかった情報が入ってくるのはよい、という声を聞きます。今後、この仕組みを幼稚園などにも広げていこうと考えています。

 教育の現場には、経済産業省の「Edtech導入補助金」を利用して、教育向けチャットサービスEduchat(エデュチャット)などを2021年4月に本格導入しました。iPadなどに教育ソフトをインストールした情報端末があり、チャットで教員と生徒、保護者、教育委員会などをつないでいく仕組みです。全小中学生250人と教員50人、保護者や教育委員会を合わせて500人規模のチャットグループをつくります。この仕組みがうまく回り出せば、生徒、教員、保護者の間で相当な情報共有が進み、お互いに直接話し合えるようにもなり、オープンな風土が生まれていくと期待しています。

――2021年3月から、官民協創プロジェクト「ばんだい宝ラボ」を本格的に始動したそうですが、どのような取り組みなのでしょうか。

 いろいろな意味で人々の生活を支援している行政の領域は、民間企業にとっても非常に面白いフィールドだと思います。ばんだい宝ラボは、民間がやりたいことに対して磐梯町はフィールドを提供し、官民共創に挑戦したい方々と磐梯町が一緒になって実現していこう、というプロジェクトです。ウィン-ウィンの関係を築き、磐梯町の活性化にもつなげていきたいです。

 前述したNTTデータのAIスピーカーは宝ラボの取り組みの一つですが、そのほかにもいくつか先行プロジェクトを立ち上げています。例えば、イベントやネットで全国各地の日本酒とその地域の魅力を発信しているコミュニティー「PON酒女子」の方々と一緒に、先日、オンライン飲み会イベントを開催しました。60人くらいが参加して磐梯町のお酒を飲んでもらいながら、PON酒女子の方が「一番おいしい飲み方」や「お酒の魅力的な提供の仕方」を説明してくれました。磐梯町の酒蔵や農家の方々が連携して新しい商品を開発しようとか、イベントやネットを通して商品、磐梯町、PON酒女子それぞれの魅力を情報発信していく仕組みづくりをしよう、という形でプロジェクトを進めています。

 このプロジェクトの担当部署であるデジタル変革戦略室には民間の副業を持つ職員が多いので、さまざまな形でいろいろな人がチャレンジしやすい仕組みをつくっています。磐梯町と一緒にチャレンジしたい方はウエルカムなので、まず来てもらって話を聞かせてください。堅苦しい話は抜きで、町側もポジティブに一緒に考えていきます。

――職員や町民同士、事業者がオープンに「つながる」ための仕組みづくりを重視しているようです。今後、これらDXの仕組みをうまく回し、発展させていくためのポイントは何だとお考えですか?

 行政側の視点から言うと、やはり成功体験だと思います。これだけ町民のためにがんばっているのだから、自分たちのやっていることが町民のためになっていることを実感してほしいです。私の前職のサービス業では、お客様から「ありがとう、楽しかった」と言われるのが一番うれしい。行政サービスも同じでしょう。町民から「よくしてくれた、ありがとう」という声が届けば職員の心は動くはずです。そういう職員の変化が新しく作った仕組みを発展させていくのだと思います。

 もう一つ、職員や町民同士がつながる仕組みの中では、繰り返しになりますが、風通しのよさが大事だと考えています。だから、よい情報も悪い情報もオープンにしようと言っています。悪い情報をオープンにするのは躊躇するものですが、実際のところ、そうしたからといって大きな問題が起こるわけではありません。むしろ、町民や職員が前向きな意見を出してくれます。よい議論が巻き起こってくれば、そこから町民サービスの改善やDXにつなげていけます。逆に情報をクローズにしている方が「何をやっているんだ?」というネガティブな噂が町に広がっていきやすいでしょう。

 横の方向で知見を広げていくという点では、周辺自治体との情報共有にも取り組んできました。會津価値創造フォーラムという、会津17市町村で情報共有や連携を進める団体で副代表を務めていて、例えば教育に熱心な西会津町で教育DXやっていると聞けば、情報を全部オープンにしていただいて、ほかの自治体と情報共有しています。

 磐梯町のDXもすべてオープンにしていて、「町民3400人の磐梯町ができるのだから、ウチでもできる」と各市町村長は考えてくれているようです。磐梯町のBPRはコニカミノルタとの共同研究で進めていましたが、実は会津の11市町村もコニカミノルタに無償でBPRをやってもらっています。磐梯町の事例を共有しながら各市町村が独自に課題を把握し、次のステップに進もうとしています。こうした自治体同士の連携や公民連携をもっと広げていくことで、地方全体の課題解決につなげていきたいですね。

佐藤 淳一(さとう じゅんいち)
磐梯町長
佐藤 淳一(さとう じゅんいち) 1961年9月生まれ。日本大学工学部卒業。磐梯リゾート開発(現在、星野リゾート アルツ磐梯などを運営)に入社後、星野リゾートの東京営業所長や磐梯リゾート開発の取締役総支配人を歴任。2015年に磐梯町議会議員。2019年6月から現職