福島の名峰・磐梯山の麓に位置する人口約3400人の磐梯町。他の自治体に先駆けて2019年11月にCDO(最高デジタル責任者)を設置し、行政事務や地域サービスのデジタル化を積極的に進めている。狙いは、ICT(情報通信技術)を活用しながら行政の仕組みを住民本位の形に変え、さらには役場の組織風土や町民との間の風通しをよくしていくことにあるという。この取り組みについて磐梯町長に聞いた。

インタビューはオンラインで行われた(インタビュー中の画面より)
インタビューはオンラインで行われた(インタビュー中の画面より)

――CIO(最高情報責任者)を置く自治体はありますが、今回、磐梯町では自治体初ともいわれるCDOを置きました。その理由を教えてください。

 両者ともICTに関わっているので同じような役職に思われるかもしれませんが、そもそもの目的が大きく異なります。

 簡潔にいうと、主として「業務の効率化」を進めるICT化の最高責任者がCIO。これに対し、ICTを活用しながら「行政の仕組みを変える」という、デジタルトランスフォーメーション(DX)の最高責任者がCDOです。「行政の仕組みを変える」という目的への関わり方が、CIOとCDOでは全く違います。磐梯町は、ICTで行政の仕組みを変えたかったので、CDOを置きました。

DXは早く、コストも安くビジョンを実現する手段

磐梯町(ばんだいまち)
磐梯町(ばんだいまち)
福島県会津盆地北東部に位置する。人口3417人(2020年3月31日現在)、面積59.79km2。町の北部には磐梯朝日国立公園内の磐梯山や厩岳山・猫魔ケ岳などがある。807年、奈良の学僧、徳一によって創建された慧日寺があり、会津地方の仏教文化の拠点として栄えた。CDO設置の取り組みは内閣府「スマートシティガイドブック」第1版でも取り上げられ注目を集めている。

――DXを推進するためにCDOを置いたわけですね。では、従来のICT化ではなく、DXに取り組もうと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

 私が町長になる前、磐梯町議会議員を1期務めましたが、議員の力でできることに限界を感じていました。そこで、町長になって「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまち」をつくりたいというビジョンを描きました。

 しかし、それを実現するにはどうすればよいか、目標のイメージはありましたが、どのような手法でスピーディーに進めていくかの課題がありました。磐梯町CDOを委嘱している菅原直敏さんに初めて会ったのは、そんな時期です。行政のDXを手掛ける菅原さん(一般社団法人Publitech代表理事など)と話をして、デジタル技術の活用により、行政の仕組みを変え得るのだと知りました。従来と全く違うアプローチで、早く、コストも安く抑えられる。ビジョンを実現するための最高の手段だと、ピンと来ました。これがDXに取り組んだきっかけです。その後、「これから町長に立候補するつもりだけれど、一緒にDXをやってもらえませんか」と菅原さんに持ち掛け、現在はCDOとして腕を振るってもらっています。

副町長直下にCDO、“アドバイザー”では機能しない

――組織上、CDOはアドバイザーではなく、各課の上、副町長の下に位置付けられています。

 CDOを置く際に重要なのは、実際に機能するかどうかです。行政組織の中で、アドバイザーという位置付けの外部の人が助言しても全然機能しません。みんな話を聞くかもしれませんが、結局、「それをやろうとすると、こんな問題やあんな問題が発生して、うまくいきません」と言われ、何も進まない状況になってしまいます。

 カギは「CDOを組織に中にしっかりと組み込む」ことです。だから、各課の上、副町長の下にCDOを置きました(図1)。また、CDOの下には、DXを推進する組織として3年間の期限付きでデジタル変革戦略室を設置しています。

CDOとデジタル変革戦略室の位置付け(出所:福島県磐梯町)
CDOとデジタル変革戦略室の位置付け(出所:福島県磐梯町)
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 各課が独立して動いていて横のつながりが弱いと、DXという組織横断的な取り組みを進めるのは難しいので、すべての課に対して目配りできる位置にCDOを置く必要がありました。こうしなかったら、「一部の課でDXに取り組んでいるだけでしょ」と他人事になっていたかもしれません。この組織の形にする途中で異論は出ましたが、「絶対に形を変えないでいくんだ」と言って進めました。

 CDOの菅原さんは副業を持っている立場で磐梯町のDXに参画するため、その点でも役場内に抵抗感はありました。しかし、菅原さんは説明が上手ですし、就任前に何度もこちらに来てもらい、職員と飲みながら思いを伝えてくれました。ここで信頼関係ができて、皆が目指す方向を分かってくれたと思います。この件は、法律家を含む多方面の外部有識者で組織した「磐梯町デジタル変革オンライン審議会」でも審議してもらい、問題ないと判断しました。

DXを足掛かりに、風通しのよい組織へ

オンライン・インタビュー中の佐藤町長(写真:磐梯町)
オンライン・インタビュー中の佐藤町長(写真:磐梯町)

――磐梯町における、具体的なDXの取り組みについて教えてください。

 菅原さんには2019年11月にCDOを委嘱して磐梯町のDX戦略を一緒に検討してもらい、2020年3月議会では「デジタル変革と共生社会の実現」をうたった町の最上位計画である磐梯町総合計画を承認いただき、2020年7月に正式にデジタル変革戦略室を設置しました。その間、職員向けDX戦略説明会の開催やデジタルデバイスの導入など、段階を踏んでDXを進めています。

 まず、役場内にもチャットツールを入れて、情報が縦にも横にも通るような、風通しをよくする仕組みをつくることから始めました。

 町長になって感じたのは、役場内の情報伝達不足です。例えば、私あてのメールは1日3通くらいしか来なかった。民間企業に勤めていたときは1日100通以上来ていたので、それと比べると非常に少ないわけです。現場の情報が上がってこず、上からの情報が下りていかない。各課の間でも情報共有されていないようだったので、状況を変えていくためにまずは手軽に情報を共有し合えるチャットツールを入れました。

 DXに向けた準備として、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)にも取り組んでいます。職員は、町の業務だけでなく、国、県から要望された資料の提出、現場対応などいろいろな業務を一人で進めなければならず疲弊しています。しかし、BPRで業務の棚卸しをしてみれば、DXで解決できることやアウトソーシングできる業務が見えてきます。アウトソーシングできる業務は多いと思っているので、なるべく職員の負担を軽くしていきながら、町民サービスに向き合う時間を増やしていけるような仕組みをつくっていきたいと考えています。

 また、これまで推進してきたDXをさらに強化するため、サービスのデザインとセキュリティーの有識者を民間から募り、2021年4月にデジタル変革戦略室のCDO補佐官を委嘱しました。特にサービスのデザインは重要と考えていて、町民が本当に困っていることをどう解決し、町民の視点からサービスの便利さや利用しやすさを追求する必要があります。しかし、関係する各課に任せると、町民視点で各課をまたがる横断的なサービスにまとめ上げるのは容易ではありません。そこで、すべての課に対して目配りできるデジタル変革戦略室にデザイン担当のCDO補佐官を加えたのです。

――最初にチャットツールを入れた狙いは?

 DXを足掛かりにして、組織風土を風通しのいい形に変えていきたいと考えています。その一つがチャットツールによるコミュニケーションの活性化です。

 私は、職員が理解、納得しない限り、行政は変わらないと思っています。そのためには、情報を透明にして共有し、課長であろうと一般職員だろうと何でも話し合える風土が必要です。私も毎週、ブログという形で職員全員にトップ情報も流し、風通しをよくしていこうとしています。そうすることで、個々の職員が動きやすくなり、業務の工夫や提案もしやすくなっていきます。

 私が星野リゾートで働いていたときに学んだ「フラットな組織文化」の考え方なのですが、総支配人やセクション長というのは「ポジション」にすぎなくて、別に偉いわけではありません。私自身も、町長だから偉いわけではないのです。よくメールに「佐藤町長様」と書いてあったりするのですが、祭り上げないでほしいと言っています。チャットで気軽に「町長」と話しかけてくれたらいい。そういう風土をつくる土台がチャットツールです。もちろん、リアルのコミュニケーションも大事なので、みんなが平等・公平に話せるよう、私は年に1回か2回、全職員および任用職員120人と30分ずつ面談をしています。

 チャットツールを導入して、業務のスピードはかなり速くなりました。以前はメールを出して返信が来るまでに1週間かかっていたりしましたが、今はチャットですぐに返信があるので、本当に仕事がしやすい。

 取り組みの進捗度はまだ30%くらいでしょうが、成果は徐々に出てきていると思います。進捗度が50%、100%となるにはもう少し時間がかかりますが、職員に体験してもらって理解してもらい、「これはいいな」と感じてもらう、そういう体験を少しずつ広げているところです。

町民や職員がオープンに「つながる」ことから

――町民サービスでも、いろいろとDXに取り組まれていますね。

 町民サービスのDXとしては、AI(人工知能)アシスタントが音声で情報を伝えたり会話したりできる「AIスピーカー」を導入して、今、民生委員にテストケースとして使ってもらっています。主に一人暮らしのお年寄りに向けた情報端末です。

磐梯町が試験導入したディスプレイ付き「AIスピーカー」。写真は情報(コンテンツ)の検索結果を表示したところ。「口頭」で操作可能(出所:福島県磐梯町)
磐梯町が試験導入したディスプレイ付き「AIスピーカー」。写真は情報(コンテンツ)の検索結果を表示したところ。「口頭」で操作可能(出所:福島県磐梯町)
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 町民サービスでDXを進めるには、町民側に何かしらの情報端末が必要です。普通はスマホを使うことが多いでしょう。ただ、若い世代にとってスマホは普通のツールでも、お年寄りには難しく感じられることがあります。情報端末がスマホだけだと、サービスを受けられないお年寄りが出てきてしまいます。

 私は町民誰一人として取り残さないデジタル変革を目指しているので、スマホを使わなくても、口頭でサービスを受けられるようにAIスピーカーを取り入れる予定です。AIスピーカーの導入は、磐梯町の「ばんだい宝ラボ(たからぼ)」という官民協創プロジェクトの一つとして、NTTデータと組んで実施しました。

 AIスピーカーの使い方についてはいろいろと検討しています。役場から町民へのお知らせや防災無線の情報を流すのはもちろん、双方向の会話もできるので、もしお年寄りが苦しくなったり、調子が悪くなったりしたときは、AIスピーカーと会話することで磐梯町の医療センターに直接つなぐことなど具体的に生活に結びつく使い方を検討しています。

 子育て分野では、保育所と保護者をつなぐ「CoDMON(コドモン)」というクラウドサービスを2020年から導入しています。「今日、子どもたちがどうすごしたか」という保育所での様子や、「発熱はないけれど少し元気がありません」、「今日は早退します」といった保護者からの連絡など、保育所と保護者の間に必要なコミュニケーションや情報共有がすべてスマホでできるようになりました。保護者の方々からは、使い勝手がいい、子どもの様子などこれまであまりオープンではなかった情報が入ってくるのはよい、という声を聞きます。今後、この仕組みを幼稚園などにも広げていこうと考えています。

 教育の現場には、経済産業省の「Edtech導入補助金」を利用して、教育向けチャットサービスEduchat(エデュチャット)などを2021年4月に本格導入しました。iPadなどに教育ソフトをインストールした情報端末があり、チャットで教員と生徒、保護者、教育委員会などをつないでいく仕組みです。全小中学生250人と教員50人、保護者や教育委員会を合わせて500人規模のチャットグループをつくります。この仕組みがうまく回り出せば、生徒、教員、保護者の間で相当な情報共有が進み、お互いに直接話し合えるようにもなり、オープンな風土が生まれていくと期待しています。

――2021年3月から、官民協創プロジェクト「ばんだい宝ラボ」を本格的に始動したそうですが、どのような取り組みなのでしょうか。

 いろいろな意味で人々の生活を支援している行政の領域は、民間企業にとっても非常に面白いフィールドだと思います。ばんだい宝ラボは、民間がやりたいことに対して磐梯町はフィールドを提供し、官民共創に挑戦したい方々と磐梯町が一緒になって実現していこう、というプロジェクトです。ウィン-ウィンの関係を築き、磐梯町の活性化にもつなげていきたいです。

 前述したNTTデータのAIスピーカーは宝ラボの取り組みの一つですが、そのほかにもいくつか先行プロジェクトを立ち上げています。例えば、イベントやネットで全国各地の日本酒とその地域の魅力を発信しているコミュニティー「PON酒女子」の方々と一緒に、先日、オンライン飲み会イベントを開催しました。60人くらいが参加して磐梯町のお酒を飲んでもらいながら、PON酒女子の方が「一番おいしい飲み方」や「お酒の魅力的な提供の仕方」を説明してくれました。磐梯町の酒蔵や農家の方々が連携して新しい商品を開発しようとか、イベントやネットを通して商品、磐梯町、PON酒女子それぞれの魅力を情報発信していく仕組みづくりをしよう、という形でプロジェクトを進めています。

 このプロジェクトの担当部署であるデジタル変革戦略室には民間の副業を持つ職員が多いので、さまざまな形でいろいろな人がチャレンジしやすい仕組みをつくっています。磐梯町と一緒にチャレンジしたい方はウエルカムなので、まず来てもらって話を聞かせてください。堅苦しい話は抜きで、町側もポジティブに一緒に考えていきます。

――職員や町民同士、事業者がオープンに「つながる」ための仕組みづくりを重視しているようです。今後、これらDXの仕組みをうまく回し、発展させていくためのポイントは何だとお考えですか?

 行政側の視点から言うと、やはり成功体験だと思います。これだけ町民のためにがんばっているのだから、自分たちのやっていることが町民のためになっていることを実感してほしいです。私の前職のサービス業では、お客様から「ありがとう、楽しかった」と言われるのが一番うれしい。行政サービスも同じでしょう。町民から「よくしてくれた、ありがとう」という声が届けば職員の心は動くはずです。そういう職員の変化が新しく作った仕組みを発展させていくのだと思います。

 もう一つ、職員や町民同士がつながる仕組みの中では、繰り返しになりますが、風通しのよさが大事だと考えています。だから、よい情報も悪い情報もオープンにしようと言っています。悪い情報をオープンにするのは躊躇するものですが、実際のところ、そうしたからといって大きな問題が起こるわけではありません。むしろ、町民や職員が前向きな意見を出してくれます。よい議論が巻き起こってくれば、そこから町民サービスの改善やDXにつなげていけます。逆に情報をクローズにしている方が「何をやっているんだ?」というネガティブな噂が町に広がっていきやすいでしょう。

 横の方向で知見を広げていくという点では、周辺自治体との情報共有にも取り組んできました。會津価値創造フォーラムという、会津17市町村で情報共有や連携を進める団体で副代表を務めていて、例えば教育に熱心な西会津町で教育DXやっていると聞けば、情報を全部オープンにしていただいて、ほかの自治体と情報共有しています。

 磐梯町のDXもすべてオープンにしていて、「町民3400人の磐梯町ができるのだから、ウチでもできる」と各市町村長は考えてくれているようです。磐梯町のBPRはコニカミノルタとの共同研究で進めていましたが、実は会津の11市町村もコニカミノルタに無償でBPRをやってもらっています。磐梯町の事例を共有しながら各市町村が独自に課題を把握し、次のステップに進もうとしています。こうした自治体同士の連携や公民連携をもっと広げていくことで、地方全体の課題解決につなげていきたいですね。

佐藤 淳一(さとう じゅんいち)
磐梯町長
佐藤 淳一(さとう じゅんいち) 1961年9月生まれ。日本大学工学部卒業。磐梯リゾート開発(現在、星野リゾート アルツ磐梯などを運営)に入社後、星野リゾートの東京営業所長や磐梯リゾート開発の取締役総支配人を歴任。2015年に磐梯町議会議員。2019年6月から現職

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/433746/042800059/