千葉県の房総半島に位置し、人口約7000人の睦沢(むつざわ)町は2019年9月に、「道の駅むつざわ つどいの郷」や町営住宅などからなる「むつざわスマートウェルネスタウン」を、民間提案型のPFI事業として開業した。その直後に、台風15号によって起きた大停電の中、自立電源を備えていたことから停電せずに済み一躍有名になった(関連記事)。むつざわスマートウェルネスタウン開業の経緯と狙いを聞いた。

睦沢町長の市原武町長(写真:加藤 康)

――むつざわスマートウェルネスタウンはどのように誕生したのですか。

 もともと、あの場所の近くには農家の皆さんで作った有限会社が運営する道の駅があり、少しずつ規模が大きくなり施設が手狭になってきたので、もっと大きくできないのかという話がありました。そのときに他のコンサル業務で来ていたコンサルタント会社から、公民連携で新しい事業ができるという提案がありました。これまではPFIなどの公民連携事業の経験がなく、職員と一緒に研究している中で、どうせならこの町の地下にある天然ガスを使えないか、人口流出を抑えるために若者向けなどの町営住宅を造れないかという欲が出てきました。

 道の駅には温泉があります。天然ガスを地下から吸い上げるとかん水が残りますが、この水には温泉成分が非常に多く含まれています。天然ガスはガスエンジンで発電して電気を道の駅や賃貸の町営住宅に供給するとともに、発電の時に出てくる排熱でかん水を沸かして温泉にしています。地域資源を残すことなく使い切る地産地消の取り組みです。昨年9月の台風15号による停電の時は周りが真っ暗の中、あそこだけがパッと明るくて、1000人以上がシャワーを浴びたり、スマホを充電したりするために道の駅に来ました。この時代に電気がないと全く何もできないと本当に痛感しました。

 住宅は2階建て30戸と平屋建て3戸の計33戸で、すべての入居が決まっています。町営住宅ですが、管理や家賃徴収は民間がやります。実は過去に町有地を20年間無料で貸すのでアパートを経営してほしいと地元の業者にお願いしたのですが、どこからも手が挙がりませんでした。それなら行政がやるしかないと町単独でやってみたら、入居希望者が非常に多く、先行して完成した18戸の住宅に対し倍率は約3倍になりました。新築で月の賃料が5万円と安いこともありましたが、そのときは地元の複数の業者に区画ごとに住戸を提案してもらいました。

 入居者を決めるときには、PTA活動や町内会への積極的な参加などで点数化し、点数が多い人に優先権があるようにしました。最終的には住宅を購入できます。それで、若者が定住してくれればいいかなと。

 今回スマートウェルネスタウンでは、補助金を使わせてもらったので、この手法は採用できませんでしたが、PFI事業者の素晴らしい提案で今までに見たこともない景観となり、家賃は5万~6万円と安いこともあり、子育て世帯、新婚世帯、高齢者世帯の方々の多くの申し込みをいただき、全戸(33戸)入居となりました。

「むつざわスマートウェルネスタウン」の概要
民間提案型のPFI事業として2019年9月に開業。整備・運営はBTO方式(ただし、道の駅の一部を形成する健康支援BOO施設「オリーブの森」についてはBOO方式)で、事業主体はSPC(特定目的会社)のむつざわスマートウェルネスタウン(代表企業:パシフィックコンサルタンツ 構成企業:畔蒜工務店、東日総業)。事業費は約27億7000万円(そのうちの初期投資額は約20億3000万円)。事業期間は2017年6月16日~2040年3月31日(資料:睦沢町)
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町の負担は20年間で年8000万円

千葉県睦沢(むつざわ町)
房総半島の中央部よりわずか東南に位置し、長生郡に属する。上総地区屈指の穀倉地帯で、地下には豊富な天然ガスが埋蔵されている。人口は約7000人
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――道の駅と住宅、天然ガスによるエネルギーサービスなど、事業費は相当かかったのではないですか。

 パシフィックコンサルタンツを代表企業とするSPC(特定目的会社)のむつざわスマートウェルネスタウンが事業主体ですが、事業費は約27億7000万円で、そのうちの初期投資額は約20億3000万円。住宅家賃収入や道の駅施設の事業者からの使用料収入などを見込むと、平準化すれば20年間で町が負担するのは年間8000万円弱ぐらいです。これで道の駅の建設費用や運営まで賄えるので、町のほかの事業を圧迫しないで済みます。

 スマートウェルネスタウンは検討から5年ほど掛かって、昨年9月にオープンしました。道の駅には温泉以外に農産物などの直売所やレストラン、またドッグランなども備えており、2月初旬頃までは土日はお客でいっぱいで、平日でもかなり遠くから来てくれました。新型コロナウイルスの感染が広がっている中で、今は我慢のしどころと思っています。

むつざわスマートウェルネスタウン住宅。賃貸の町営住宅33戸を整備(写真:加藤 康)
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むつざわスマートウェルネスタウン・道の駅・つどいの郷。農産物などの直売所、温浴施設、イタリアンレストランなどが入るAゾーン(写真:加藤 康)
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道の駅の直売所「つどいの市場」(写真:加藤 康)
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スマートウェルネスタウンにエネルギーを供給するガスエンジン・コージェネ設備(写真:日経BP)
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――スマートウェルネスタウンには地域新電力が電力を供給しているそうですね。

 コンサルタント会社や商工会、金融機関などと共同で、CHIBAむつざわエナジーという地域新電力会社を作り、太陽光発電などの自然由来な電気を安く買って大手電力よりも1~2割安く供給しています。スマートウェルネスタウンは自営線も地中化しています。

* 2016年6月設立。資本金900万円。株主は睦沢町(100株)、パシフィックパワー(35株)、睦沢町商工会(9株)、合同資源(9株)、関東天然瓦斯開発(9株)、千葉銀行(9株)、房総信用組合(9株)

本当の先進予防型まちづくりをめざす

――スマートウェルネスタウンは「健康」をテーマにしていますが、その目的は何でしょうか。

 私は睦沢町の職員時代に国民健康保険を担当していましたが、最初は予算総額が2億~3億円だったのがあっという間に10億円になり、医療費がうなぎ上りでした。介護保険が始まるとこちらも8億円を超え、税収がないのにこれは大変なことになると思いました。どうしたら町民が健康で明るく笑顔で、自分のことは自分でできるようになれるのかと考えて、首長が集まる勉強会に参加する中で、健康について深く考えるようになりました。

 そこで、町民がここで新しい希望を見ながら健康でいられる町を作っていこうと健康条例をつくり、1日9000歩を歩くことを目標にしました。しかし、全員が目標を達成するのは絶対に無理。どうしたらできるかと考えたときに、官民連携でできないかということに気が付きました。そこで民間からの提案を求め、知らず知らずのうちに健康になってしまうまちづくりをしようということになりました。その時に千葉大学の近藤(克則)先生(関連記事)を知ったのです。

 近藤先生は科学的なエビデンスをもとに、新鮮な野菜とか果物をふんだんに食べたり、湯船に浸かる習慣があったりすればそれだけで健康にいいと話していました。今はインセンティブのためのポイント制度(先進予防型まちづくりプロジェクト【おでかけ健康ポイント】)をどう組み合わせていくかを実証実験しているところです。

 CHIBAむつざわエナジーによる利益を元に、町に健康器具を寄付してもらい、民間が指定管理をする総合運動公園「パークむつざわ」のトレーニングルームに設置しています。1日に20~30分乗れば、1時間以上運動したのと同じ効果があるという機械です。いずれは地域の集会所などにも置きたいと思います。それ以外にもボールを使ったり、ニュースポーツを採り入れて楽しみながら体を動かしたりするようなプログラムを作っています。地域のリーダーが集会所で高齢者と軽く運動するなど、そういうものを浸透させながら健康に意識を持ってもらおうとしています。温泉の料金は500円ですが、10ポイント貯めたら無料にするとかなどを考えています。

総合運動公園「パークむつざわ」のトレーニングルーム。指定管理者はスマートウェルネスパークむつざわ共同事業体(パシフィックコンサルタンツ、ウエルネスサプライ、R.project)(写真:加藤 康)
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――取り組みの成果は表れていますか。

 まだ始めたばかりなので、大きな成果までは見えてきませんが、アンケートの結果によると、1年前と比較し、5割以上の人が健康を意識するようになったと回答しています。本人は意識していなくても、自然と健康になっているというのが、本当の先進予防型まちづくりだと思います。

町民を対象にしたアンケートでは、1年前と比較して5割以上の人が「健康を意識するようになった」と回答した(出所:睦沢町)
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素早い判断が公民連携のコツ

(写真:加藤 康)
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――民間との連携で気をつけていることは何ですか。

 民間とコラボするときには、こちらの判断を素早くしないとだめです。「これはどうですか」と聞かれたら、すぐに答えを出してあげることを心掛けました。もちろん条件も出しますが、こちらの態度を早めに出すと民間事業者は本当に喜んでくれて、話のまとまりが早いです。PFI事業などを通じて「この町は民間企業を大事にする」ということが、事業者側に理解されるようになってきたと思います。

――今後、公民連携の事業はどのようなものをお考えですか。

 道の駅をどうしようかという話から始まり、健康に着目しながら、これからは仕事ができる場所の確保をどう進めていくのかかが課題です。やはり若者に住んでもらうには仕事場が必要です。製造業の誘致だけにとらわれず、例えば大災害に備えたサテライトオフィスの整備などを考えています。東京都内まで電車で1時間ですし、高速道路もできました。都心に近いのにこれだけ自然が残っているという場所の特性も、うまく生かしていきたい。何も手が付いていない真っ白い画用紙を与えてくれたと思っています。

 民間と行政がうまくコラボレーションすれば、町はお金がそんなにかからずに取り組めることが、まだまだいろいろあるんじゃないか。お互いに安心感があり、民間の知恵を生かすフィールドがあれば、もっともっといいまちができるんじゃないかと思います。

市原 武(いちはら たけし)
睦沢町長
1954年12月7日生まれ、千葉県立長生高校卒業。74年から睦沢町役場に勤務し、税務課長や総務課長などを経て、2012年から現職。現在2期目。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/433746/052200049/