岐阜市ではクアオルト健康ウオーキングの認定コースとして「金華山・長良川・岐阜公園コース」「百々ケ峰(どどがみね)・ながら川ふれあい森コース」を2019年10月にオープンさせた。クアオルト健康ウオーキングとは、野山などの自然の緩やかな傾斜地を活用した専用コースを専門ガイドと一緒に無理なく楽しみながら歩くウオーキングのこと。発祥の地であるドイツでは、効果が認められ医療保険の適用を受ける。岐阜市では有識者、医療、保健、観光などの事業者で組織する推進協議会を作るなど、オール岐阜市での取り組みを始めた。推進する柴橋正直市長に導入の経緯や、スマートシティとの連携など今後の展開について聞いた。

柴橋正直市長(写真:日経BP 総合研究所)
柴橋正直市長(写真:日経BP 総合研究所)
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――クアオルト健康ウオーキングに取り組む自治体が20団体にまで増えてきました(2020年4月1日現在)。その中で、人口40万人を超える中枢中核都市は初めてとなります。なぜクアオルトに着目したのですか。

 クアオルト健康ウオーキングは、自然の中での運動というだけでなく、歴史や文化、食、温泉など、様々な要素と組み合わせ、そのエリアならではのプログラムを作れるところが魅力でした。

 実際に自分で歩いてみて感じたのですが、自分の体力に合わせて安心して歩けるところもいいですね。専用コースでは、ガイドさんの指示に従って、チェックポイントで脈拍や体温などを測定しながら、過度の負荷をかけないように調整しながら歩いていきます。参加者同士で話や笑いが絶えないところもいい。自分たちのペースで歩きながら、植物や地形、歴史や季節など、いろんな話ができるのも大きな魅力だと思います。

――地域を知ってもらうきっかけにもなるわけですね。

 私は2018年2月に岐阜市長に就任し、当初から「本物志向の観光まちづくり」を進めてきました。市内には岐阜城をはじめ、本物の歴史に触れることができる史跡がたくさん残っています。ただ、これらにつながりがなかった。点在する観光スポットをどう周遊してもらうか、味わってもらうかを考えたとき、健康や観光をテーマにするクアオルト健康ウオーキングはその軸になると考えました。コースを歩きながら、長良川の鵜飼もいいね、金華山の自然や岐阜城から眺望もいいねと、岐阜市の良さを内外の方々に体験してもらうことができます。

 一方で、人生100年時代に向けて、いかに健康寿命を伸ばすかも自治体の大きな課題でした。岐阜市では、健康立市としてスマートウエルネスに長年、取り組んできました。それを先に進める施策として「クアオルト都市構想」を選挙公約にも掲げ、「市民の健康づくり」と「観光振興」の両方を実現するプログラムとしてクアオルト健康ウオーキングの活用を推進してきたのです。

 クアオルト健康ウオーキングによって、今ある岐阜市の歴史資産を巡りながら健康になれるというイメージができれば、市外、県外の方が訪れる動機になります。観光で来た方に健康になって帰ってもらい、リピーターになってもらう。交流人口の増加も期待できます。

金華山・長良川・岐阜公園コース(2.32km)。戦国の歴史を感じる岐阜公園総合案内所をスタートして、織田信長公居館跡、鵜飼観覧船の造船所前やロボット水門などを経て、岐阜城を望む川原町広場からスタート地点へ戻る周遊コース。オプションで途中ロープウエーを利用して岐阜城まで歩くコース(0.6km)も設定している(写真:日経BP 総合研究所)
金華山・長良川・岐阜公園コース(2.32km)。戦国の歴史を感じる岐阜公園総合案内所をスタートして、織田信長公居館跡、鵜飼観覧船の造船所前やロボット水門などを経て、岐阜城を望む川原町広場からスタート地点へ戻る周遊コース。オプションで途中ロープウエーを利用して岐阜城まで歩くコース(0.6km)も設定している(写真:日経BP 総合研究所)
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岐阜公園内のクアオルト健康ウオーキングのコース(写真:日経BP 総合研究所)
岐阜公園内のクアオルト健康ウオーキングのコース(写真:日経BP 総合研究所)
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ウオーキングが市民の交流を生む

岐阜市(ぎふし)
岐阜市(ぎふし)
岐阜県中南部に位置し、かつて斎藤道三公や織田信長公が治めた城下町。2020年はNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」の舞台として観光プロモーションにも力を入れる。人口40万人を抱える中京圏の中核都市だ
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――クアオルト健康ウオーキングの認知度は、まだ全国的には高くはありません。導入に当たってはかなり苦労したのではないですか。

 岐阜市では、以前から歩くまちづくりに取り組み、エリアごとに「まちなか歩きのマップ」を作成したり、ツーデーウオークなどの様々なウォーキングイベントを開催したりしてきました。また、市内2カ所にある健康ステーションをウオーキングの拠点に据えるなど、志民に受け入れてもらえる素地がありました。

 そうした中で、岐阜市のまちづくりのビジョンが、「太陽生命クアオルト健康ウオーキングアワード2018」で評価されて優秀賞を受賞しました。その特典として、認定コースの開発、ガイド養成研修、コースマップの作成などの支援が受けられることになり、導入の追い風になりました。

 今回、岐阜市のシンボルである金華山(標高329m)と、長良川を挟んで対峙する岐阜市最高峰の百々ケ峰(標高418m)の山麓に2つのコースを作りました。いずれも気軽に登れる山として山登りファンが大勢いますが、まだこの山を歩く楽しみを知らない人々もたくさんいます。このクアオルトのコースを巡っていただくことによって、この2つの山の魅力を知ってもらいたいですね。

コースマップも用意して見どころなども解説(資料:岐阜市)
コースマップも用意して見どころなども解説(資料:岐阜市)
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 市長に就任する前、私は金華山にちょくちょく登っていました。すると、顔なじみもできて、自然と声を掛け合うようになります。クアオルト健康ウオーキングが定着してくるにつれ、40万都市の岐阜市にそういった交流がたくさん生まれてくることを期待しています。

推進協議会を中心に民間主導で普及を目指す

コースの見どころを説明する柴橋市長。岐阜公園コースでは、織田信長公居館庭園の滝の再現に向けて実験を整備するなど、ブラッシュアップさせていく考えだ(写真:日経BP 総合研究所)
コースの見どころを説明する柴橋市長。岐阜公園コースでは、織田信長公居館庭園の滝の再現に向けて実験を整備するなど、ブラッシュアップさせていく考えだ(写真:日経BP 総合研究所)
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――コースは2019年10月にオープンになったばかりですが、これからどう市民や観光客に認知させて行きますか。

 昨年10月にコースを整備してから、まずはインフルエンサーになっていただけるように、各方面にお声がけして200人ほどウオーキングを体験してもらいました。クアオルト健康ウオーキングの良さを知って、これならできると言うことを実感してもらうことができました。

 これからは、一般の多くの人に参加いただけるようなウオーキングの講座*1をやっていきますので、徐々に体験者を増やしていき、併せてガイドとなる実践指導者も育成していきます。

 ただ、できるだけ民間主導で普及や啓発を進めてもらおうと思っています。普及のために「岐阜市クアオルト推進協議会」*2を立ち上げ、協会けんぽや医師会、企業、観光業界などの皆さんに参加してもらいました。

 例えば、温泉旅館組合にも協議会に入ってもらっていますが、旅館のプランとして、朝お客さんと一緒にコースを歩くなど、クアオルトを産業や事業に活用することをどんどんやってもらいたい。我々もいろんな健康講座などを開いて、参加を促していきます。

――医療関係者も推進協議会に入っているのですね。

 岐阜市民病院心不全センター長の湊口信也医師(岐阜大学医学部名誉教授)を中心にクアオルト健康ウオーキングの効果についてエビデンスを取ろうという話を進行しています。岐阜市の取り組みでのエビデンスを学会やメディアに発表することは、大きな説得力となります。医師会をはじめ、医療関係者との連携は、もっと深めていきたいと思っています。

 40万都市でクアオルトをやるというのは、人口が多いだけでなく、各分野のキーマンが揃っているという強みがあります。そのなかでこの先生のような方にもご参画いただくことができるわけです。

*1 岐阜市では、新型コロナウイルス感染拡大予防のため開講を見合わせていた「クアオルト健康ウオーキング講座」を6月に再開する。

*2 所属団体は、大学の有識者、岐阜市医師会、全国健康保険協会岐阜支部(協会けんぽ)、十六銀行、岐阜商工会議所、日本旅行業協会中部支部、岐阜観光コンベンション協会、岐阜県ウオーキング協会、日本クアオルト研究所、岐阜市。

スマートシティ構想とも連携

――岐阜市のクアオルト健康ウオーキングの取り組みは、スマートシティの推進とも連携しています。

 私は常々、様々な要素を複合し、掛け合わせてイノベーションを起こしたいと考えています。自治体の業務としても、AIやRPAを使って業務の効率化を図るなど、市民の利便性を高めて行くための様々な実証実験も行なっています。

 そうした中で、昨年11月に企業や大学などによる「スマートシティぎふ推進コンソーシアム」を立ち上げました。交通と健康を軸として、観光・オールドニュータウン等の課題を含め、ICTなどの新技術を活用しつつ、分野横断的に全体最適化を図り、「健幸都市ぎふ~出かけて健康になるまち~」の実現を目指しています。

 公共交通の自動運転の実証実験も昨年からスタートさせました。岐阜のまちで暮らす、観光するときに、将来的にこうした自動運転の公共交通も利用してもらい、クアオルト健康ウオーキングのコースのある岐阜公園、金華山にもJR岐阜駅からアクセスできるといったことも考えられます。やっと昨年公園内での走行実験を行ったところですが、2020年度には公道での実証実験をやりたいと考えています。現在、警察などと調整しているところです。

2019年11月には岐阜市初となる「小型の自動運転車両を用いた走行実験」を岐阜市金公園内で実施した(写真提供;岐阜市)
2019年11月には岐阜市初となる「小型の自動運転車両を用いた走行実験」を岐阜市金公園内で実施した(写真提供;岐阜市)
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 今まで点だった観光スポットが、クアオルト健康ウオーキングによってつながり、健康と観光を掛け合わせた新しい価値を提案できる。それをさらにスマートシティ構想に掛け合わせながら、スムーズにアクセスできる環境を作っていこうと思っています。岐阜市にはインフラが整備されているということはしっかりアピールしていきたい。インフラがありながらも自然もあるというのが岐阜の財産だと思うので、この強み生かしたいですね。

――スマートシティは市民にもプラスになりますね。

 人生100年時代に向け、スマートシティぎふ推進コンソーシアムで交通と健康を軸とした取り組みを進めることによって、市民の外出機会を創出して、シニアの方にも歩いて健康になってもらうことができると考えています。

――岐阜市の場合は、山村型ではない「都市型クアオルト」を標ぼうしています。これからどう展開していきますか。

 岐阜市がクアオルトに取り組む都市となったことには大きな意味があります。上山市や由布市は自然や温泉を存分に生かした中山間地域でのクアオルトであり素晴らしいと思っています。一方、私たちが目指すのは「都市型クアオルト」です。2027年にリニア中央新幹線が名古屋まで開通すると、東京から岐阜市までは、約1時間でアクセスできるようになり、アクセシビリティにおいて優位性を持てます。また、岐阜市という都市の中でもクアオルトの多面性を見せることができると考えています。岐阜市においては、中心市街地である柳ヶ瀬の真ん中に2022年度の竣工を目指し、30階建ての再開発ビルの建設を進めています。3階、4階が岐阜市の公共フロアとなり、3階には健康という切り口で、フィットネスや健康相談ができるエリアが作られ、中市民健康センターも入ります。

岐阜市では、市街地再開発事業を推進。高島屋南地区の再開発ビルや近くの金公園を「クアオルトの拠点として活用したい」と構想を語る柴橋市長(写真:日経BP 総合研究所)
岐阜市では、市街地再開発事業を推進。高島屋南地区の再開発ビルや近くの金公園を「クアオルトの拠点として活用したい」と構想を語る柴橋市長(写真:日経BP 総合研究所)
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 この再開発ビルの南側には、金(こがね)公園という、本来セントラルパークの役割を持たせるべき公園があります。ここも竣工に合わせて改修しようと思っています。この公園を活用してコースを設置できれば、岐阜駅から歩いて15分くらいの中心街にクアオルトのコースができることになります。芝生を敷き詰めて落ち着いた空間にして、人が集まる公園に変えて、再開発ビル3階の健康運動施設とともに、まちなか歩きのウオーキングあるいはクアオルトへ向かう拠点とし、百々ケ峰や金華山の歴史や自然を堪能できる従来型のコースと、中心街の都市型のコースの両方を体験してもらうことができるようにしたいと考えています。

 クアオルトはドイツ語で「健康保養地」という意味ですから、1泊2日でなく、2泊3日、3泊4日と、滞在してもらって、市内のいろいろなウオーキングコースを体験してもらうこともできます。当然、クアオルトの人気が高まれば、今あるコースだけではキャパシティを超えますので、様々な都市型のコースや自然のコースを増やして行ければと思っています。

柴橋正直(しばはしまさなお)
岐阜県 岐阜市長
柴橋正直(しばはしまさなお) 1979年、京都市生まれ。大阪大学文学部卒業後、UFJ銀行に入行。2009年に衆議院議員に当選。2018年2月に岐阜市長に当選。妻、二男一女の5人家族

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