新庁舎の再開発では地元や区の組合を口説いて実現

――新庁舎の実現に際してハードルになったことは何でしょうか。

何より大切なのは首長自身が信念を持って前面に立ち、問題解決に当たることと語る高野区長(写真:都築雅人)
何より大切なのは首長自身が信念を持って前面に立ち、問題解決に当たることと語る高野区長(写真:都築雅人)
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 実は敷地の一画に、完成したての民間賃貸マンションが建っていました。再開発への参加を打診しましたが所有者は同意しません。建物が出来上がったばかりだから当然ですよね。しかし、将来の池袋のためには一帯を再開発するのが最良の方法だ、この地域の価値も高まる、そう信じていたので何度も玄関払いされつつもオーナーの家に通い、2年がかりで口説き落としました。

 また、新しい区役所は用事があるときだけ訪れる場所ではなく、区民にとって近しい存在にしたいと考えていました。そこで1階、2階にはカフェや保育園、医療モールなどを設け、庁舎の総合窓口(3階)や福祉総合フロア(4階)は年末年始と祝日以外は基本的に開庁するようにしました。議場も議会開催期以外の日時は、国際会議など相応の格式を備えたものに対して開放しています。

 土日の開庁は入居テナントにとって重要ですが、区職員の同意が欠かせません。過度な負担にならないよう交代勤務などによって調整し、半年かけて組合を説得しました。

――様々な連携を実現するには、粘り強い交渉が不可欠だったと。

 何より大切なのは首長自身が信念を持って前面に立ち、問題解決に当たることです。

 十分な理解を得ないまま新庁舎プロジェクトで住民投票を実施したら、否決される可能性が高かったと思います。私はおよそ100回に及ぶ説明会のほとんどに参加し、民間の力を借りて進める事業の社会的な意義や財政上のメリットを自分の言葉で説明しました。そのうえで「ぜひ任せてほしい」「信頼してください」と伝えて理解を得ていったのです。

 その際に重要なのは、関係者と一緒に考えていくことです。参加企業や区民に犠牲を強いてはいけない。三方よしの精神です。

 例えば再開発事業でどういう利益を出せるのか。関係者がそれぞれ利益を得られる事業を組み立てることが大切です。新庁舎の場合、区が所有していた土地の資産価値は当初の約35億から事業後には85億円に膨らみ、2.5倍の価値を得る結果になりました。

 私は商売の経験があります。古本業を営んでいた父を若くして亡くし、否応なく親の跡を継いだからです。やっていく間に気付いたのは、価値あるものにプライスをつける古本業の面白さです。値付けが高過ぎると売れないし、安くし過ぎると同業者に持って行かれてしまう。このときに得た商人の感覚は今も肌から離れないのでしょうね。