「Beyond Health」2021年6月15日付の記事より

 2020年春から続くコロナ禍の影響でリモートワークが広がる中、世間が気づき始めたことがある。業務内容にもよるだろうが、勤務地に赴かなくとも、あるいは自宅にいなくても、ネット環境が整ってさえいれば仕事の多くは進むという現実だ。

 そんな状況下で注目を集めているのが、リゾート地や観光地で働きながら休暇を取るワーケーション。宿泊施設のプログラムとして取り入れられたり、行政や民間が手掛ける専用施設が増えたりと、全国的な関心の高さがうかがい知れる。

 そのワーケーションにコロナ禍前から着目し、「信州リゾートテレワーク」として先駆的に取り組みを進めてきたのが長野県。長野ならではの特色と現状について、県知事・阿部守一氏にお話を伺った。

県庁舎からオンラインでインタビューにご協力いただいた、長野県知事・阿部守一氏。「コロナ禍で生き方、働き方を改めて考えた方は多いと思います。都会にすぐに戻れる距離感で、いつもと異なる仕事の場を得られるのが長野県の魅力。 ご自分にとっての第2の故郷を見つけられるかもしれません」。長野県はワーケーション普及のため、和歌山県と連携して2019年に全国組織「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」を設立。 2021年5月現在、1道22県161市町村の自治体が加盟している (写真提供:長野県)
県庁舎からオンラインでインタビューにご協力いただいた、長野県知事・阿部守一氏。「コロナ禍で生き方、働き方を改めて考えた方は多いと思います。都会にすぐに戻れる距離感で、いつもと異なる仕事の場を得られるのが長野県の魅力。 ご自分にとっての第2の故郷を見つけられるかもしれません」。長野県はワーケーション普及のため、和歌山県と連携して2019年に全国組織「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」を設立。 2021年5月現在、1道22県161市町村の自治体が加盟している (写真提供:長野県)
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第1の目的は関係人口の拡大

 「長野県は移住したい都道府県ランキングにおいて、常に上位に数えられる人気を誇っています。一方で首都圏や中京圏からのアクセスが良い上、国立公園5カ所と国定公園4カ所を有するほど全域が雄大な自然に恵まれていますから、観光で訪れる方も多い。我々が『つながり人口』と呼ぶ“関係人口”を増やす手立ての一環として、職場や居住地を離れて豊かな自然に触れて癒やされながら仕事をする新たなライフスタイル、『信州リゾートテレワーク』の提案を2018年度から始めました」

 阿部知事によれば、長野県では県内12カ所をモデル地域として選定し、空き施設などを活用したテレワーク環境の整備や、リゾートテレワークの体験会開催などに取り組む民間事業者を支援。2020年11月には、企業を含め約500件が参加したオンライン・オフラインのハイブリッド型PRイベント「ワーケーションEXPO@信州」を開催するなど、全国に向けた発信も重ねている。

 2021年現在、40カ所以上ものコワークスペース拠点が稼働。宿泊施設の有無、個人か法人向けかなど受け入れ体制はそれぞれ異なるが、いずれもWi-Fiほかビジネス環境は整えられている。休暇を楽しめる恵まれた自然環境があるのも共通しているが、各地域の特色が多彩なのが長野の魅力だと阿部知事は話す。

 「南北で約200キロ。北は豪雪地帯、南はお茶の産地でもあるほど温暖と、地域により気候や風土、文化は異なりますから、休暇の過ごし方の選択肢は広く、仕事はもちろん、オフの部分で楽しんでいただける環境が長野県の場合は非常に整っています」

信州リゾートテレワークの拠点は、長野県内に広く点在(資料提供:長野県)。詳しくは信州リゾートテレワークのサイトをご参照いただきたい<a href="https://shinshu-resorttelework.com/" target="_blank">https://shinshu-resorttelework.com/</a>
信州リゾートテレワークの拠点は、長野県内に広く点在(資料提供:長野県)。詳しくは信州リゾートテレワークのサイトをご参照いただきたいhttps://shinshu-resorttelework.com/
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利用者と地域経済の双方が幸せに

 信州リゾートテレワークを推し進める12地域の1つが軽井沢。もともと日本有数のリゾート地である上、東京からは新幹線で1時間という利便性も相まって二地域居住者が多いエリアだけに、リゾートテレワークの聖地といわれるほど人気が高いと阿部知事は話す。飲食店を含めた生活環境は充実しており、標高約1000メートルのロケーションゆえ真夏でも暑さに悩まされることは少ない。

 「ほかにも自然を生かしたリラクゼーションでいえば、例えば志賀高原がある山ノ内町のコワークスペースは、日本で一番星に近いという特色を打ち出しています。良質なパウダースノーを求めて世界中から人が集まる国際的な山岳リゾートである北アルプスの麓の白馬村では、冬のスキーだけではなく、夏のトレッキングも楽しめる。野尻湖や黒姫高原がある信濃町では、トレッキングに加えカヤックなどのアクティビティもご用意できるなど、一度にすべてご紹介しきれないほど、それぞれの地域に魅力があります」

 訪れる人が癒やされるだけではなく、ワーケーションは観光とはまた異なる人のつながりが地域に活性化をもたらすとも、阿部知事は語る。

 「例えば、ワーケーションの施設で生まれたつながりを介して、IT系を中心とする大都市に潜在する方々のスキルを地域に生かしていただく。ネットワークが広がる中、新しいビジネスを創出してもらう。あるいは、地域の課題を一緒に解決していただく。そういった地域のパートナーになってくださる方を増やすのも、信州リゾートテレワークが目指すところのひとつです」

 ワーケーション施設のコワークスペースは仕事の場を提供するものと単純に考えていただけに、それにとどまらないビジョンを語る阿部知事の言葉は印象深かった。

軽井沢「232 work&hotel」の会議室を利用した、阿部知事インタビューの模様(写真:松隈 直樹、以下注記のないものは同)
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軽井沢「232 work&hotel」の会議室を利用した、阿部知事インタビューの模様(写真:松隈 直樹、以下注記のないものは同)
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軽井沢「232 work&hotel」の会議室を利用した、阿部知事インタビューの模様(写真:松隈 直樹、以下注記のないものは同)

軽井沢のコワークスペースでの新たな発見

 今回、阿部知事へのリモートインタビューを行ったのが、長野県に数あるテレワーク拠点の1つで、2020年1月末にオープンした軽井沢の「232 work&hotel」。ここでもまた、ワーケーションの既成概念が覆されていく。

 軽井沢駅から徒歩約5分のロケーション。同施設のコワークスペースには、共用スペースのほか電話ブース、会議室、オフィススペースが設けられ、1室ながら広々とした空間が魅力のホテルも隣接する。そのコワークスペースの利用は、地元の住民や都市部との二地域居住者が多いと話すのは、コミュニティマネージャーの石野はるか氏だ。

 「気分の切り替えや最適なネット環境を求めて、あるいはご家族がいる空間では仕事がしにくいという方々が多く見られます」

 2台のノートパソコンを利用した阿部知事とのインタビューはまったくストレスを感じることなく終了。ネット環境の良さを実感したが、そのコンセプトは「FUN WORK SHARE」で、仕事の効率性だけに重きをおいているわけではない。

 「ここに来れば、誰かに出会える。つながりの場であり、情報交換の場でもありたいと思っています。人と人、コト、モノなどをつなぐハブや、インフォメーションセンター的な役目を担いたいというのが目指すところ。私の肩書きがコミュニティマネージャーなのも、人をつなげたいという思いからなんです。施設の管理だけではなく、利用者の方々とのなにげない会話、おいしいランチや散歩に気持ちのいい場所のご案内なども介して、温かく居心地のいい空間をつくっていきたいと考えています」

 コロナ禍においては集うことが難しい状況だが、まずは映画の上映会など少人数のイベントを実施し始めたところで、今後、人が集まる機会を重ねたいと考えているそうだ。

 窓が大きく取られて自然の光を感じられる上、夏場はテラス席で寛ぐこともできるとの話を聞きながら、やさしい居心地の良さを感じていた。そのプロデュースと運営を担うのは、デンマークを中心とした北欧家具の輸入から住宅や商業施設の建築設計までを手掛ける「haluta」と知り納得。この空間はショールームの役割も果たし、住宅や別荘の建築やリフォームの相談にも乗るという。現在、上田市にある拠点が2021年8月末には軽井沢町へと移ってくることで、より地域に根付いた活動が期待される。ことが動けば、人が動く。すなわち、地域経済とリンクしている場でもあるのだ。

232 work&hotelコミュニティマネージャーの石野はるか氏は、2年前に東京から軽井沢へ移住。施設を利用する多くの方たちと同じ視点で、人をつなげる役目を担う<a href="https://hello232.com/" target="_blank">https://hello232.com/</a>
232 work&hotelコミュニティマネージャーの石野はるか氏は、2年前に東京から軽井沢へ移住。施設を利用する多くの方たちと同じ視点で、人をつなげる役目を担うhttps://hello232.com/
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232 work&hotelのワークスペースは、椅子席、ソファ席などを含めて全40席。会議室に加え、1~2名で利用できる「電話ブース」も好評だという
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232 work&hotelのワークスペースは、椅子席、ソファ席などを含めて全40席。会議室に加え、1~2名で利用できる「電話ブース」も好評だという
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232 work&hotelのワークスペースは、椅子席、ソファ席などを含めて全40席。会議室に加え、1~2名で利用できる「電話ブース」も好評だという
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232 work&hotelのワークスペースは、椅子席、ソファ席などを含めて全40席。会議室に加え、1~2名で利用できる「電話ブース」も好評だという
客室は約50㎡のゆったりとしたつくり。キッチンやランドリーもあり、別荘感覚で利用できる(写真提供:232work&hotel)
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客室は約50㎡のゆったりとしたつくり。キッチンやランドリーもあり、別荘感覚で利用できる(写真提供:232work&hotel)
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客室は約50㎡のゆったりとしたつくり。キッチンやランドリーもあり、別荘感覚で利用できる(写真提供:232work&hotel)

日本一の長寿県のライフスタイルに学ぶ

 ワーケーションとは直接関係はない、と思われるかもしれないが、長野県といえば長寿であることも見逃せないだろう。

 「2015年は男性が2位、女性は1位。男女ともベスト3に入っているのは我が県だけですから、日本一の長寿県といっても差し支えないでしょう。塩分過多などの生活習慣の改善に、県民一人ひとりと地域のコミュニティが取り組んできた結果です。20歳以上の野菜の摂取量も日本一で、健康ボランティアによる活動や、医療関係者の皆さんによる保健医療活動も上位に数えられています。65歳以上の高齢者の就職率も日本一ですから、生きがいを持って暮らす方が多いんです」

 移住者、あるいはコワークスペースを利用する長期滞在者にとっては、時間をかけて培われた長野県民の健やかなライフスタイルは少なからず学ぶ点があるに違いない。日帰り温泉の数もまた日本一、ワイナリー63件、日本酒蔵80件の数はともに全国2位だという、阿部知事のご案内にも興味津々。仕事以外の楽しみに思いを馳せる。

 「長野県に来て自然にふれ、思いっきり深呼吸したり美味美酒を召し上がったりしながら、クリエイティビティを最大限発揮させ、仕事へのモチベーションや幸福感を向上させてほしいですね」

 人と地域が明るい未来へとつながりそうな、ワーケーション。訪れた利用者の心身を癒やしつつ、地域の経済も健やかに育まれる長野県の取り組みについて、次回も引き続きお伝えしたい。

平成2年以降、長野県の平均寿命は男女ともに全国上位に位置する (資料提供:長野県)
平成2年以降、長野県の平均寿命は男女ともに全国上位に位置する (資料提供:長野県)
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この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/433746/061600061/