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地域人材の育成は高校生がカギ――リニア開通に向けたまちづくり(2)

牧野光朗 飯田市長に聞く(後編)

聞き手・構成=平島 寛【2018.7.10】

前編に続き、牧野光朗・飯田市長に、9年後のリニア開通を見据えたまちづくりの取り組みを聞く。飯田市では、地域づくりにおいては地方自治組織や公民館を、産業づくりにおいては南信州・飯田産業センターを「共創の場」として地域活性化を進めている。そして、人づくりにおいては、高校教育に注力した「地域人教育」を「共創の場」として、地域に若い人が戻ってくる人材サイクル構築を目指す。

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飯田市長・牧野光朗氏(写真:上野英和)

――飯田市では、都市像として「文化経済自立都市」を掲げ、その中で経済自立度(*)という独自の尺度を設けていますね。地域全体の必要所得を、公共事業を除く地域産業がどれだけ稼ぎ出しているかを見ていこうというものです。

  経済自立度は、地域の状況を共通認識として持つための物差しです。大事なのは“見える化”です。地域の経済的な自立度という物差しを持つことで、企業は利益だけを追求していく考え方とは違った取り組みができるようになります。前に触れたウェルビーイング、善い地域のために、企業として何ができるかという考え方は、まさに“見える化”によって培われていきます。

  見える化して解決策を話し合う「共創の場」として、南信州・飯田産業センターを持っています。経済自立度を上げるには既存の産業だけでは足りないので、産業センターで、既存の精密機械産業や電気・電子・食品等の産業と親和性が高い将来性のある産業を考えていく。その中で、航空機産業、環境産業、メディカルバイオも出てきましたし、農業・食品のいわゆる6次産業もある。先導役として航空機産業が注目されていますが、ベースになっているのは、地域の経済を見える化して課題を共有し、課題を解決するための「共創の場」です。みんなで解決策を考えていくという点は、コミュニティビジネスの考え方と同じです。

  上村プロジェクト(小水力発電事業)のようなコミュニティビジネスの場合は、地区の皆さんが主体になって、関連する機関がバックアップします。産業センターが手掛けるビジネスは、産業界の皆さんが中核にいて、それをバックアップするために大学、金融機関、国、県等の行政が出てきても重要な役割を果たすことになり、かなり大仕掛けになります。

(*)経済自立度(%)(=地域産業からの波及所得総額÷地域全体の必要所得額):地域全体の必要所得を、公共事業を除く地域産業がどれだけ稼ぎ出しているかという点に着目した統計数字。地域産業からの波及所得総額は、産業を域外から稼ぎをもたらすことのできる外貨獲得産業と域内で所得をもたらし経済循環を起こす域内消費産業に大別し、外貨獲得産業の稼ぎがどのように域内波及配分されるかを分析して集計するもの。リーマンショック(2008年)以前の55%が当面の目標で、70%を目指す。

公民館とも連携、高校の3年間で「地域を学ぶ」

――人づくりの「共創の場」としては「地域人教育」(**)があると思いますが、高校生に焦点を当てているのが特徴です。

  どの地域もそうですが、人材育成の一番の問題は、人材サイクルの構築ができていないことです。つまり、地域から出ていった若い人たちが地域に戻ってくる仕組みを構築できていない。そう考えたときに、そもそも地域に戻りたいと思う人を地域が育てているのかという点に行き着くわけです。では、いつ地域を離れるのかといったら、高校卒業時点です。

 飯田市では、高校卒業時点で7割が地域を離れます。地域に戻ってきた人と残っていた人と合わせると、高校卒業時の4割です。その繰り返しですから、人口は減っていきます。ですから、高校時代にいかに地域のことを学ぶかが大事になります。本来、高校時代に地域のことを学べる機会はたくさんあるはずです。

  地域人教育では、飯田OIDE長姫高校(商業科)の授業用にカリキュラムを組んでいます。それで何が起こるかというと、偏差値教育で育つ人材とは全く違う人材が出てきます。企画力、構想力、プレゼン力に優れ、自ら課題を見つけ、課題を乗り越えていくためにどうするかを考え、みんなを巻き込んで実践して課題解決につなげていくという、どこの会社も欲しがるような人材が輩出されています。

――地域人教育には、公民館も参画していますね。

  学校教育において、県立高校は県の教育委員会のテリトリーですから、市の学校教育からはアプローチしにくいことが、高校教育がエアポケットに陥った一因です。その点、飯田市では、地域人教育に参加する公民館からアプローチできたことも「共創の場」づくりにつながったと思っています。

  飯田市では、教育委員会が公民館の主事を任命しています。30歳前後の若い職員が任命されることが多いのですが、彼らが、高校生と地域のつなぎ役となっています。それによって密度の濃いつながりがつくられます。毎月1回、お互いに地域の課題を確認しながら、解決策を模索しています。

(**)地域人教育:飯田長姫高校(現飯田OIDE長姫高校)、松本大学、飯田市が2012年度にパートナーシップ協定を締結し、地域人教育(=地域を愛し、理解し、地域に貢献する人材を育てる教育活動)を支援している。地域の歴史・文化・風土や産業、また地域住民に学び自分の生き方を考えるきっかけにする。商業科が授業として取り組む課題研究活動を多様な主体が関与して地域全体で育成支援する。1年生は「ビジネス基礎」(地域を知る・地域の見方を学ぶ)、2年生は「広報と販売促進」(地域と関わる・地域に参加する)、3年生は「課題研究」(これまでの学びを生かした地域への主体的参加経験)を学ぶ。
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地域人教育の仕組みの中に公民館も入って、地域コミュニティと高校のつなぎ役になっている(資料・飯田市)

――地域人教育を受けた高校生は、卒業後、どのようなキャリアを形成していくイメージですか。

  今年で7年目なので、これからどうなるか、という段階ですが、1つ大きな問題として、彼らから見て大学があまり魅力的に映っていないということがあります。地域人教育の卒業生第1号を面接した時のことを今でも覚えていますが、「あなたぐらいの実力があれば、別の地域に行っていろいろな経験を積んでネットワークを広げ、それから帰ってきても遅くはない」という言い方をしました。そうしたら、「いや、自分はここで地域づくりに関わりたいので、そのまま就職を希望します」と。いま大学側に、地域人教育で育った高校生たちを受け入れられるのか、という課題が突き付けられているわけです。

  つまり、「高大連携」をどうするか、ということです。地域人教育のカリキュラムの中で3年間鍛えられてきた高校生を受け入れるカリキュラムを、大学がつくれるのか。それに基づいた大学入試ができるのか。そういった高大連携ができていないという話は、文部科学省にも大学の先生方にもしています。

  要するに、偏差値教育のデメリットが出ているのです。偏差値の一番上の層をターゲットにした、いわゆるスーパーハイスクールのような、グローバル人材を育てるような施策は打ってきました。ところが、地域で将来を担っていくと期待できる、偏差値としてはミドル層にあたる高校生への教育政策は、ほとんど打って来なかったわけです。

  さらに問題なのは、一般的には、若い人たちが地域のことを学ぶのは、大学生になって初めてということが多いということです。飯田市では2008年頃から大学生向けのフィールドスタディを実施していて、年間1000人ぐらいの学生を受け入れています。でも、2泊3日か3泊4日で、長くても1週間くらいです。先進的な取り組みと言われてはいますが、この程度の期間では地域の“入門編”しか学べませんし、入門編を学ぶ時期としてはやや遅い。そうした反省から、飯田OIDE長姫高校、松本大学と連携し、高校時代の3年間に地域のことをみっちり学べる「地域人教育」の場をつくっているのです。

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