栃木県宇都宮市と芳賀町が計画するLRT(Light Rail Transit、次世代型路面電車システム)事業の起工式が2018年5月28日に執り行われた。整備するのは、JR宇都宮駅東口から芳賀町の工業団地までの14.6km。全国初の全線新設となり、2022年3月の開業を目指す。宇都宮市の佐藤市長は「ネットワーク型コンパクトシティのまちづくりを支える総合的な公共交通ネットワークの要として、LRTは必要不可欠な“都市の装置”だ」と語る。

(写真:北山 宏一)
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――LRTの調査開始(1993年)から着工(2018年)まで、四半世紀が経っています(別項「芳賀・宇都宮LRTの事業概要」参照)。市長はLRTの推進を初当選の時の選挙公約に入れ、2004年に初当選しました。市民の理解を得られたと実感できたのはいつごろからですか。

 宇都宮市では、1993年に新交通システム導入に関する調査研究が始まりました。行政の中で、新交通システムが必要だという議論が上がった頃は、市民も経済界もまだLRTのことは知りませんでした。LRT事業は選挙の争点にもなってきました。私が市長に就任したのが2004年です。LRTの推進を初当選の時の選挙公約に入れましたので、マスコミも取り上げてくれるようになりました。

 市長になって、LRTについてきちんと説明するところから始め、徐々に知れ渡っていきましたが、当初はLRTだけが先行しすぎて、宇都宮のまちづくりにLRTをどう活用していくか、宇都宮のまちづくりの目指す姿はどういうものか、そういう議論が遅れていました。そうしたこともあり、この11年ほど、宇都宮のまちづくりとともに公共交通におけるLRTの必要性を訴えてきました。事業説明会の開催、反対派の方との話し合いなど、2~3人から300~400人の大規模な説明会まで、2000回は出席していると思います。

 賛否の目安はやはり選挙ですね。私はLRTを公約の柱に掲げていました。選挙のたびにLRTは争点になりましたので、選挙をクリアするたびに、自信を持って進めていこうと決意を新たにしました。最終的に市民の皆さんと、国と県の協力が整い、今年になってさらに確信を持ちました。

――反対の主な理由はどういったものがありますか。

 やはり多額な投資ですので、宇都宮の財政が破綻するのではないかという危惧ですね。もう一つは、誰もLRTに乗らないから毎年赤字が累積して、その補填として、市民が税金で負担しなければならない最悪の事業だと――。そういった話がどんどんひとり歩きしました。

 こうした状況に対して、市としてもきちんとデータに基づく調査をしようということで、LRT沿線の企業を対象としたヒアリング、沿線企業の従業者約3万2000人を対象としたアンケート、本市を含む7市7町を対象とした県央広域都市圏生活行動実態調査(パーソントリップ調査)を実施しました。このうち、パーソントリップ調査に基づく需要予測で、平日約1万6000人に乗っていただけるという推計(*)が得られ、事業化に踏み切りました。

(*) LRTの需要予測:通勤・通学、帰宅などを含め、平日1日当たり約1万6000人(自動車からの転換は約1万1000人)と見込んでいる。このうち東進方向の朝の通勤ピーク時には、1時間当たり1800人を超える輸送力が必要となる。このため、LRTは国内最大級の全長約30mの車両を導入し、定員155人、最大輸送力を定員の150%(約230人)と設定し、ピーク時1時間当たり10本(6分間隔)の運行計画としている。

――開業4年目で年間1億円以上の黒字という計画となっています。とはいえ、上下分離方式なので、軌道施設と車両については、宇都宮市と芳賀町が所有し、維持管理コストを負担するということになります。

 当初から申し上げているのは、「公共交通は福祉の一部だ」ということです。赤字、黒字という採算性の物差しも必要ですが、「これからの社会に必要か否かという物差しも併せて判断していく」ということです。

 バスにも赤字路線が多くありますが、そこに補填しているように、必要な事業は守っていきます。公共交通の整備は採算性以外の物差しも併せて、覚悟を持ってやります。しかも、LRTは宇都宮市の身の丈の中で持続できる事業です。宇都宮のための未来への投資が身の丈の中で十分に実現できて、大きな効果を生んでいくと期待しています。

芳賀・宇都宮LRTの整備区画(資料:宇都宮市)
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芳賀・宇都宮LRTの車両外観デザイン。「雷の光」をイメージした車両外観デザイン。アンケートの結果を踏まえ、7月10日に公表(資料:宇都宮市)
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